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2013/08/25

ニューヨーク、狼たちの野望

監督:ジェームズ・デモナコ
出演:イーサン・ホーク/ヴィンセント・ドノフリオ/シーモア・カッセル/ジュリアンヌ・ニコルソン/ローズマリー・デアンジェリス/ドミニク・フムサ/フランク・パンド/スティーヴン・ランダッツォ/ジョン・シャリアン/ジェレミー・シュワルツ/デイヴィッド・バディム/マイケル・ホーガン/エイドリアン・マルティネス/リン・コーエン

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4

【この島で、明日を想う者たち】
 NY、マンハッタンの対岸に位置するスタッテン・アイランド。小さな組織を率いるマフィアのボス、パルミ・タルツォは、この島を丸ごと牛耳りたいと考えていた。清掃局員のサリーは、汚物だらけの暮らしに辟易しながら“賢い子ども”に恵まれることを願っていた。デリで働く聾唖の老人ジャスパーは、大当たりを夢見て馬券売場に通っていた。3人の人生が交差したとき、銃と血と金にまみれた奇妙な物語が動き始めるのだった。
(2009年 アメリカ/フランス)

【映画としての良さが詰まった拾い物】
 映画を、とりわけ「いい映画」をあまり観ない人に観てもらうのがいいんじゃないか、と感じる作品。

 皮肉な結末へと至るストーリーそのものもユニークだが、ある1つの出来事に関わってしまった3人の男の様子を順番に見せていき、少しずつ「何が起こったか?」の全体像が明らかとなっていく構成に、斬新さと面白さを感じるはず。

 奇をてらったショットや独善に走った撮りかたはなく、真っ当で実直、観やすさをキープ。と同時にしっかりと手間もかけ、安っぽさや野暮ったさを排して、TVサイズにまでは落ちていない。
 ゆったりとした間(ま)を保ち、日常を描き、動作をたっぷり見せるという方向でまとめて、その中から人物の心理がちゃんと浮かび上がってくるような作り。かといって冗漫にはならず、音のオン/オフ(聾唖の世界の再現が素晴らしい)やスローなど、リズムも上手に生み出している。

 パルミの部下3人が話している相手とそれが示す現実、懸命に身体をこするサリーの姿から感じられる“自分の境遇に抱いている想い”や温かな夫婦関係、ジャスパーが大切にしまっているボタンの数が示す意味……。全体に「無駄な説明はせず、見せてわからせる」という描写の妙が徹底されているのもいい。
 潜水時間記録に挑むパルミ、そりゃあ誰だって抜け出したいだろうと考えるサリーの職業、ジャスパーに寸足らずのズボンと赤いソックスを履かせた意図など、用意した設定や場面に対してキッチリ責任を取るというか、出来事と出来事をつなぐ配慮も示してくれる。

 頭の悪そうなサリーだからこそ“いい子ども”を望むのだな、と、説得力をもたらすイーサン・ホーク、パルミが抱く“怒りを超えた「もう、どうとでもなれ」”を体現するヴィンセント・ドノフリオ、ジャスパー(ベイヤーを愛用して馬券をハズシ続けているところが、競馬ファンとして大いに共感を覚えたりする)が見せる爆発しない静かな喜怒哀楽がリアルなシーモア・カッセル、主演3人の芝居も秀逸だ。

 内容的にも、どちらがオモテでどちらがウラなのか、明るさと闇とが一体となった人の不可思議を思わせて、意外と深さがある。「欲しいもの」は、当たり前のことだけれど「いま手の中にないもの」であり、それは得てして「望んではならないもの」でもあると示唆され、その象徴としてマンハッタンが置かれるなど、大都市NYの底辺で生きる者たちの物語としてちゃんと成立しているのも誠実だ。
 やや粗っぽい設定といえるDNA操作も、エンディングを見れば「あり」だと思える。

 監督/脚本のジェームズ・デモナコは『交渉人』や『アサルト13 要塞警察』のライターで、とすると、どうやら出来不出来の激しい人物か。が、本作を観る限り、かなりの才能を持つのは確かであるはず。『クラッシュ』のTVシリーズに関わることになったのも、うなずける。

 IMDbの投票を見ると不思議と得点が低く、デキのよさが投票者に伝わっていないように感じる。個人的に、この手のクロスオーバー・エピソードものに対する点数は甘めになってしまうのだが、それを差し引いても、一般的な評価より「上」にある作品だろう。また、日本版タイトルで損をしているのも悔しいところ。
 地味なキャストやスタッフや巷の評価に惑わされず観たい、いろんな意味で“拾い物”の1本だろう。

●主なスタッフ
 撮影は『エターナル・サンシャイン』でカメラ・オペレーターを務めたクリス・ノアー、編集は『オリバー・ツイスト』『戦場のピアニスト』のエルヴェ・ド・ルーズ、およびクリステル・デウィンター。
 プロダクションデザインは『ホワイトカラー』のスティーヴン・ベアトリス、衣装は『バベル』『ブラック・スワン』に携わったレベッカ・ホファー。音楽はフレデリック・ヴェリエーレ、サウンドエディターは『扉をたたく人』のポール・スー。
 SFXは『アジャストメント』のスティーヴン・カーショフ、スタントは『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のブレイズ・コリガンとスティーヴン・ポープ。

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