しあわせの隠れ場所
監督:ジョン・リー・ハンコック
出演:サンドラ・ブロック/ティム・マッグロウ/クィントン・アーロン/ジェイ・ヘッド/リリー・コリンズ/レイ・マッキノン/キム・ディケンズ/アドリアーニ・レノックス/キャサリン・ダイアー/アンディ・スタール/トム・ノウィッキ/リビー・ホイットモア/メロディ・ウェイントラウブ/シャロン・モリス/オマー・J・ドーシー/ポール・アマディ/ブライアン・ホラン/アイアン・E・シングルトン/ハンプトン・フルカー/キャシー・ベイツ
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸3/技4
【ある家族の物語】
すべてを失くした巨漢の青年マイケル・オアー、通称ビッグ・マイク。運動神経は素晴らしく保護本能も高いが、気弱で勉強も苦手、自分の過去をまったく語ろうとしない彼を家族として迎え入れたのは、インテリア・デザイナーのリー・アン、その夫で多数のレストランを経営するショーン、長女のコリンズと長男SJからなるテューイ家だった。やがてマイケルは、一家のサポートによってアメフトの才能を開花させていくのだが……。
(2009年 アメリカ)
【できることを当たり前にする社会】
伝えたいことを伝えるためにお話を整理した脚本を用意し、役柄にふさわしいキャストを揃え、ロケーションやセットや音楽やスタッフを過不足なく準備したうえで、真面目に撮りました、というイメージ。
たとえばマイケルとチームメイトとの交流はほぼ省略し、マイケルの過去についての言及にもほとんど時間を割かない。いっぽうで、バスケで示されるマイケルの運動能力の高さ、リー・アンの強気な仕事ぶりと家事や子育てもしっかりこなす姿などはシッカリと盛り込む。
交通事故の際のキッパリ感やアメフトの試合シーンのスピード感はよく出ているものの、とりたてて大仰なことはせず、その場感とお芝居とテンポを重視しながら見やすく破綻なくまとめてある、といった感じで、殊更に出来事や心理を盛り上げる展開・演出は避けたような印象だ。
ある意味では“フツー”の仕上がり。だが、それでも面白く見せるのは登場人物たちのキャラクターが立っているからだろう。
想いを言葉にする力は足りないが、恥を知り、心根の優しいマイケル。彼を引っ張っていくが押し付けがましさを感じさせず、“生まれながらの面倒見のよさ”を示すリー・アン。妻のすべてを受け入れ、サポートし、けれど甘やかさない程度の批判精神も持つ包容力豊かなショーン。金持ちのお嬢さんのイヤミを一切身につけず育ったコリンズ。そして、ちゃっかり者だが頭も気立てもいいSJ(このキャラクターが最高だ)。
いずれの人物についてもナチュラルに「それぞれの立ち位置や性格」が滲み出すよう配慮されたシナリオ、キャスティング(コリンズ役のリリー・コリンズって、フィル・コリンズの娘なのね。あの親父からこんな可愛いコが生まれるなんて遺伝子は不思議だ)、見せかたになっていて、それが作品を支えているといってもいいだろう。
で、彼ら彼女らの様子を観ていて感じるのは、製作サイドが抱く「この出来事を奇跡と呼ばない社会」や「与え与えられる関係ではなく、お互いが変化をもたらすつながり」への願いだ。
確か「サンキュー」というセリフはほとんど出てこなかったと思う。が、リー・アンはそんな言葉を望んでいるわけではないことも、マイケルが感謝していることもわかる。また、宗教的な部分は極力抑えられており、力任せに説得・説教する場面もあまり取り入れられていない。ユーモアや感情の吐露を交えながら「自らが判断し、その決断を周囲が認める」という流れ、あるいは「守りたいものがあるから懸命になれる」という価値観を大切にして物語が組み立てられている。
もちろん、美化されている部分はあるだろう。行動や善意の裏に、無償の親切だけでなく、優越感にも似た慈悲、打算や思惑があっても、人間なんだから不思議ではない。
ただ、基本にあるのは「誰かのために、自分にできる何かをするのは当然だ」という気持ちであり、それを実践する存在こそが人間、そうした人間の集まりこそが社会なのだと、本作は祈っているように感じる。
●主なスタッフ
監督/脚本のジョン・リー・ハンコックは『マイ・ドッグ・スキップ』を製作した人。撮影は『オーロラの彼方へ』のアラー・キヴィロ、編集は『プラダを着た悪魔』のマーク・リヴォルシー。
プロダクションデザインは『アポロ13』のマイケル・コレンブリス、衣装は『天使と悪魔』のダニエル・オーランディ、音楽は『かいじゅうたちのいるところ』のカーター・バーウェル、音楽スーパーバイザーは『プラダを着た悪魔』などのジュリア・ミシェルズ。サウンドエディターは『サロゲート』のジョン・ジョンソン、SFXは『クレイジーズ』のデイヴィッド・フレッチャー、スタントは『ウェルカム トゥ コリンウッド』のロニー・R・スミスJr。
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