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2013/08/17

パシフィック・リム

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム/イドリス・エルバ/菊地凛子/マックス・マーティーニ/ロバート・カジンスキー/クリフトン・コリンズ・Jr/チャーリー・デイ/バーン・ゴーマン/ディエゴ・クラテンホフ/芦田愛菜/ロン・パールマン
吹き替え:杉田智和/玄田哲章/林原めぐみ/池田秀一/浪川大輔/千葉繁/古谷徹/三ツ矢雄二/土田大/ケンドーコバヤシ

30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4

【人類の命運を握るロボットたち】
 海底に現れた時空の裂け目から、次々と来襲する怪獣たち。人類は叡智を結集、“イェーガー”を建造して対抗する。2人のパイロットが心をシンクロさせて操縦するこの巨体ロボットは多大な成果をあげるが、次第にパワーアップする怪獣の攻勢に遭い計画は縮小されることになる。イェーガーの可能性を信じるペントコスト司令官は、戦いで兄を失ったローリーやハンセン親子ら名うてのパイロットを集め、裂け目の破壊を計画するのだが……。
(2013年 アメリカ)

【40年前クォリティと最先端の融合】
 どうしたってんだデル・トロ? ぶっちゃけハリウッド製のロボットvs怪獣アクションなんか期待していなかったんだけれど、あんただから劇場まで足を運んだんだぞ。なのに、なぁんもわかってないどころか映画作家として劣化してるじゃんか。

 それでもまずは、いい点から。
 怪獣の造形と動きは上々。竜+ワーム+サイ=ありがち洋物っぽさから抜け出せてはいないものの、冒頭の巨体っぷりは身震いするほどだし、マグマの中から登場する場面は円谷風味。レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐだけのことはある。
 これに、軋み、重量感、適度なスピードとともに描かれるイェーガーがぶつかっていくバトルは、さすがの迫力。「ロケットパぁーンチっ!」(だったっけ?)と叫びながらの必殺技も楽しい。ビル街での格闘には、さながら初号機vs使徒の実写版とでもいうべきワクワクがある。つい「それっ、怪獣の心臓を食っちゃえ!」とか思ったもの。

 奥行きや高さを3Dで上手に作り出しながら、ただ3DとCGに頼るだけでなく適確な画面レイアウトや軽快な編集といった基本部分を疎かにせず、戦闘や状況をしっかりと見せてくれる。音楽・音響による盛り上げも手慣れたものだ。
 過信と挫折、蹉跌と再生、衝突と和解など、組織型/ミッションクリア型アクションのハリウッド的ストーリーのまとめには安定感がある。

 チャーリー・ハナムは、華はないものの哀しい過去を持つ熱血漢=何のヒネリもないザ・主役を過不足なく演じており、パパ・ハンセンのマックス・マーティーニは『リベンジ』でのヤな悪役から想像もできないくらいの渋さで場面を締める。
 極みは菊地凛子。エキセントリック・ジャパニーズとしての魅力全開ともいえる眼力と口の結び方。やっぱこの人はハリウッド的な撮りかたでこそ映えるんだなと再認識させてくれる。

 と、ひと通り褒めたところでアタマに戻る。どうしたんだ?

 時空の裂け目や“2人のパイロットがシンクロし、さらにイェーガーと精神接続したうえで操縦する”といった基本設定はいいと思う。が、そこに説得力を与えるディテールがダメダメだ。

 イェーガーを中心とする防衛システムは細部の描写に乏しく(たとえば怪獣出現地点にどうやって迅速に急行するのか)、AIの状況報告ボイスや指令室で交わされる会話の内容は頭が悪い。
 電磁波攻撃に対して「第一世代機はアナログだから大丈夫」って、何じゃそりゃ。シンクロするのは難しいはずなのに簡単に代替パイロットで操縦しちゃうし、原子炉がメルトダウンしただけで大爆発、理に適っていない脱出機構……。

 たぶん、単に吹き替え翻訳がマズイってことじゃないはず。SFマインドの欠如。子供だまし。だいたいアメリカ製、ロシア製、中国製、豪州製と登場させるんだったらもっと機体にはバリエーションが必要だろう。『ゲッターロボ』や『ガンダム』を見ていないのか。
 ロボットvs怪獣アクションとしての“方向性の作りかた”に関しては、ハッキリいって日本のアニメの方が40年先を行っている(当たり前か)。『トランスフォーマー』シリーズのほうが、まだちゃんと日本製SFロボットアクションの遺伝子を正しく受け継ぎ、ハリウッド流の映画作りと上手に融合させているといえるだろう。

 組織型/ミッションクリア型アクションとしてのまとめは安定していると述べたが、伏線や前フリなしで唐突に「これこれこうなのだ」と強引に進めてしまう安直さがあって、決して良質な脚本とはいえない。馬鹿アクション一歩手前といった様相。怪獣とイェーガーの大きさ設定と描写の整合性も取れていないように見えたし、怪獣の登場地点が海底ってこともあり、戦闘場所のバリエーションも少ない。

 また、波が押し寄せてくるのに甲板上の船員が突っ立っていたり、愛菜ちゃんがいかにも「ここで太陽の逆光を手で隠してね」といわれたまんまの堅苦しい動きを見せたり、科学者やスタッフの行動に危機意識が希薄だったりと、演技指導のマズさも感じ取れる。
 つまり、SF的な面白さを創出できていないだけでなく、映画の基本部分での瑕疵も表出してしまっているのだ。

 でね、見てよこの声優陣。ロボット/モビルスーツ/汎用人型決戦兵器の操縦経験者がズラリ。自分がケンコバだったらオファーを断るレベルの伝説的なメンツ。正直、キャラクターに合っていない声質や芝居もあったりするのだけれど、だからこそ明確に“狙ってます”という雰囲気。ま、ハッキリいえば、お祭りやん。

 そうなのだ、お祭りなのだ。東宝チャンピオンまつりとか東映まんがまつりを最新のVFXでやったらこうなりました、という、40年前クォリティの中身と最先端の外観が融合した怪作なのである。

●主なスタッフ
脚本/トラヴィス・ビーチャム『タイタンの戦い』
脚本/ギレルモ・デル・トロ『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』
撮影/ギレルモ・ナヴァロ『パンズ・ラビリンス』
編集/ジョン・ギルロイ『デュプリシティ』
編集/ピーター・アムンドソン『シューテム・アップ』
美術/アンドリュー・ネスコロムニー『AVP2』
美術/キャロル・スピア『サイレントヒル』
美術/リチャード・L・ジョンソン『ダークサイド・ムーン』
怪獣/ウエイン・D・バーロウ『アバター』
デザイン/タイルベン・エリンソン『サロゲート』
衣装/ケイト・ホウリー『ラブリーボーン』
操縦服/ジェームズ・ハガティ
音楽/ラミン・ジャヴァディ『彼が二度愛したS』
音響/スコット・マーティン・ガーシン『デビルクエスト』
SFX/クレイ・ピニー『天使と悪魔』
SFX/ロッコ・ラリーザ『RED』
VFX/ジョン・ノール『ヒューゴの不思議な発明』
VFX/ジェームス・E・プライス『特攻野郎Aチーム』
スタント/ブランコ・ラッキ『ラースと、その彼女』
格闘/ブラッドリー・ジェームス・アラン『キック・アス』

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