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2013/10/03

エリジウム

監督:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン/ジョディ・フォスター/シャールト・コプリー/アリシー・ブラガ/ディエゴ・ルナ/ワグネル・モウラ/ウィリアム・フィクトナー/ブランドン・オーレ/ジョシュ・ブラッカー/ホセ・パブロ・カンティーロ/ファラン・タヒール/エイドリアン・ホームズ/ジャレッド・キーソ/エマ・トレンブレイ/マックスウェル・ペリー・コットン/ヴァレンティーナ・ギロン

30点満点中18点=監3/話2/出4/芸4/技5

【宇宙に浮かぶ、あの地を目指して】
 犯罪と貧困に覆われた地上と、富裕層が暮らすスペース・コロニー“エリジウム”、2つに分かたれた世界。保護観察中のマックスはロボット工場でアクシデントに遭い、余命5日と宣告される。助かる道はエリジウムにある医療ポッドだけだ。マックスは脳内にコピーした貴重なプログラムを突破口にしてエリジウム潜入を目論むが、それを阻止しようとする防衛長官デラコートや彼女に雇われたクルーガーが、マックスの前に立ちはだかる。
(2013年 アメリカ)

【スピンオフに期待】
 SFというよりSF風かな。
 いや、細かく考証を重ねればちゃんと科学的な理屈付けも可能なんだろうけれど、屋根のないエリジウムとか、すべての病気と傷をたちどころに治癒してしまう医療ポッド、軽々と宇宙へ飛び出して大気圏突入も楽々のシャトル、脱出速度で弾を射出するハンドランチャー……と、スーパーテクノロジーのオンパレード。クラークの第三法則=「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」にも程がある、という感じ。

 これらの理屈をいちいち説明せず、作劇の方針として「当たり前のものとして描く」ことを貫いたのは立派だ。けれど、ディテールや運用の妙でスマートに“あっても不思議じゃない”とワクワクとを感じさせてほしかったとも思う。
 あと、宇宙での生活っていうと、どうしてもラグランジュ・ポイントとか土星マンションに期待しちゃうんだよなぁ。

 SFじゃなくてSF風、と感じてしまう一因には、道具立てとしての真新しさがない点もあるだろう。荒廃した地上、貧困層と支配者層の対立、タイムリミット・サスペンス、自らを犠牲にしても誰かを助けたいという動機、クーデターにリブートにサイバー・パンク……。
 ありものを上手にアレンジして組み立ててはいるけれど、独自性があるかっていうとそれほどでもなくて、展開としても想像の範囲内。だから、センス・オブ・ワンダーには欠けるのだ。

 描写やシーン作りにも模倣・借用が見て取れる。とりわけクルーガーが出てくるアクション場面は、ジャッキーの『スパルタンX』とかガンダムとか『アイアンマン』とか『ターミネーター』とか、既存の映画の影響がかなり強く出ているように思う。

 ひょっとすると、まず「こんなテクノロジーを出したい!」「こんな絵を見せたい!」という欲望ありき、それを実現するために必要なものを持ってきた、そんなストーリーであり設定であり映画であるのかも知れない。

 だって敵役が日本刀を背負ってるんですよ。んなの、合理的な理屈なんてなくって「そのほうが『っぽい』じゃん」っていうノリでしょ。
 とにかくガジェットやデザインセンスには、その「っぽい」的空気を大切にしたい心というか、オタク的精神が満ちている。ロボットの造形、神経直結型強化外骨格エクソ・スーツ、携帯シールド(個人的イチオシ)や各種の武器などに「すんません。こういうの好きなんです」という熱量が感じられるのだ。
 シド・ミードが参加しているらしいし、医療ポッドはヴェルサーチがデザインしたっていうし、そういうのも実は「ここはシド・ミードでしょっ」というSF映画オタク魂ゆえのことなんじゃないだろうか。

 で、“先端科学をベースに進む展開”としてのSF的作劇よりアクションが重視されているのも地上で繰り広げられる前半部が長いのも、好きなことをやる代わりに退屈はさせないっていう配慮だったりして。

 意外と決定的なのは“希望”の存在なんだと思う。同監督の前作『第9地区』では「何がどうなるんだ」という恐怖が中心にあって、その絶望感が魅力となり、物語をSFたらしめていたようにも思う。
 でも今回は、未来への希望がある。それが自己犠牲という切なさより勝ってしまっている。ディストピアものであることを覆い隠してしまっている。その事実、一介の元犯罪者が世界のありようを変えてしまうというセカイ系の都合の良さが、“SFじゃなくてSF風”につながっているんじゃないだろうか。

 タイトルデザインやクレジットではEの文字の縦線が省かれているのだけれど、これはたぶん“分かたれた世界”の暗喩だろう。そして『第9地区』を観てもわかるように、この監督の中には“人類間格差”がテーマとして大きくあるはず。「あっちからは、こっちが美しく見える」というセリフも、北半球と南半球の関係を俯瞰したアイロニーだろう。
 そんな価値観、世界の見かたが前面に出ていれば、また印象も違ったように思うのだが。

 と、なんだか面白くなかったような感想になってしまっているけれど、そんなことはなくって、ノンストップ・アクションとしてのスピード感やパワーは上質。複数の言語や国籍もさまざまな人物を登場させたカオス世界の構築は楽しく、音楽(作曲はライアン・エイモンという無名の人)も各シーンの盛り上げを助けている。
 まず実在の街を捉え(こういうロケーションがあることにも驚く)、そこからCGで作られた近未来、という順序で観客を作品世界へ連れて行くなど演出の手際もいい。
 役者では、およそ英語に聴こえない英語で憎々しさこのうえないクルーガーのシャールト・コプリーが実に愉快だ。

 下手な説明を端折ってアクションに特化させたぶん、ここで描かれなかった出来事を語るスピンオフや裏設定資料集(パンフレットがある程度その役割を果たしている)に期待したくなるのも、この映画の味。
 各登場人物の“これまで”とか、CCB民間協力局の成立過程とか、いろいろ面白いストーリーは作れそう。だいたい本作じたい、連続エピソードの第二話みたいな雰囲気もあるし。

●主なスタッフ
脚本/監督自身
撮影/トレント・オパロック
編集/ジュリアン・クラーク
美術/フィリップ・アイヴィ
VFX/ピーター・モイザース 以上は『第9地区』と同じメンバー
編集/リー・スミス『ダークナイト ライジング』
衣装/エイプリル・フェリー『運命のボタン』
音響/クレイグ・バーキー『ファースト・ジェネレーション』
SFX/キャメロン・ウォルドバウアー『特攻野郎Aチーム』
スタント/マイク・ミッチェル『猿の惑星:創世記』

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