キャリー(2013)
監督:キンバリー・ピアース
出演:クロエ・グレース・モレッツ/ジュリアン・ムーア/ジュディ・グリア/ガブリエラ・ワイルド/ポーティア・ダブルデイ/アンセル・エルゴート/アレックス・ラッセル/ゾーイ・ベルキン/サマンサ・ワインスタイン/カリッサ・ストレイン/ケイティ・ストレイン/デメトリウス・ジョエッテ/バリー・シャバカ・ヘンリー
30点満点中17点=監2/話2/出5/芸4/技4
【その夜、プロムは血の惨劇と化す】
罪の意識と怒りから自傷行為を繰り返すほど狂信的な母マーガレットに育てられたせいか、キャリーは暗くて地味、高校でも変人扱いされている。あることがキッカケでキャリーに対するイジメはエスカレートするのだが、そんな中、キャリーは自らに芽生えた不思議な力に心躍らせる。いっぽうキャリーへの態度を悔いたスーは、彼女をプロムに誘うようボーイフレンドのトミーに依頼。母親の制止も聞かず着飾って出かけたキャリーだが……。
(2013年 アメリカ)
【リメイクの意味に悩む】
実は『キリング・フィールズ 失踪地帯』でのクロエの見せ場が思ったより少なかったことにガッカリして、さすがにタイトルロールならと急遽の鑑賞。う~ん、見せ場はさすがにたっぷりだけど……。
いや十分に魅力的なのだ。力に目覚めてからの、あるいはプロムでの、パっと明るい表情はすこぶる可愛い(まあ可愛さを観る映画じゃないんだけれど)。撮りかたもメイクも、彼女の肌の色をずんずん明るくしていくのがいい。頑張っている感に満ちたクライマックス(ちょっと頑張り過ぎている気もするが)も良し。適度に肉感的で、俺にくれレベル。
いま『ヒューゴの不思議な発明』の感想を読み返したら「このコにグーで殴られても笑っていられる自信がある」とか書いてるぞ。「念力で宙吊りにされても」を付け加えようか。
でもトータルで考えると、役柄とクロエの雰囲気は合致しないのが実情。キャリー役ということだけでいえば、病的、近寄りがたさを発していたシシー・スペイセクの圧勝だろう。
やっぱりクロエって本来は『キック・アス』や『(500)日のサマー』の、こまっしゃくれてアクティヴでユーモアもあるキャラが似合う、コメディエンヌなんだと思う。
これを補うのがジュリアン・ムーア。いままでも精神的に追い詰められた役は数々やってきたけれど、こんなに不細工だったっけ、と思わせるくらいの力演。こっちはホントに近寄りがたい。スー役ガブリエラ・ワイルドの、いかにもYAらしい健やかな悩みっぷりも清々しい。
トミーにしても他のクラスメイトにしても、ちょっと古めといえる顔立ちのキャストを揃え、衣装やメイクや美術や色調をイマ風にしなかった(スマホやSNSが登場するんだから時代設定は現代なのだが)点もポイント。それが“現代の高校生の生態”の軽さを排除し、やや田舎臭さのあるスティーブン・キング風味を生かしていると思う。
不協和音が呼ぶサスペンス、キャリーの顔に垂れる血の芸術性(これ以上ないくらい美しく、あのキュートな顔を汚している)、さすがのVFXとSFXなど、作りの各所にもイケている部分は多々ある。
ただ、どうにもスカっとしない。スカっとする映画じゃないのはわかっている。要するに「リメイクした意味はあるのか?」ということ。
デ・パルマ版には、不安をかきむしる絵作りがあった。画面分割の冒険もあった。畳みかけるような終盤はスピード感と重量感が冴えていた。考えさせる重さがあった。でも、今回は?
各カットは手堅く真面目に撮られているけれど、キリキリ感が不足。キャリーと同時に観ている側も追い込まれていくような静かで暗い空気が不足。心がザワつくカットが不足。「新生『キャリー』といえばコレ!」というインパクトがない。
ヴィジュアル・イメージや作り上のアイディアがデ・パルマ版に引っ張られている感じも残る。キャリーの家やプロム会場の美術と雰囲気、スローモーションを多用するところなどがそうだ。原作付きだからある程度は仕方ないとはいえ、どうも新鮮味に欠ける。
解釈の点でも新味を出せていない。というより、どういう方向でお話やテーマをまとめようと考えたのかが見えてこない。デ・パルマ版では「抑圧」や「天の無慈悲」を感じたけれど、今回は物語の根っこにあるもの、あるいは向かう先が見えてこない。
かといって、ただのイジメと狂信と暴発的復讐だけでも終わらない。それなりには各人の感情の移ろいが理解できる。デ・パルマ版ではわかりづらかった「スーは後悔している」という事実がちゃんと伝わってくる。
それがかえってマズイのかなぁ。キャリー、母親、スー、クリスと視点が揺らぐ。女性監督だからか、あらゆる女性に寄り添ってしまう。
いっそスー視点に徹すれば、本作は成功したんじゃないかと思う。彼女の見るものや触れる出来事としてキャリーを描くことで、人の世に混じった人ならざる者の存在、その哀しさと戸惑い、彼女を生み落してしまった母親の悔恨、愚かで幼い高校という社会への疑問、それらを理解しないまま自ら反省へと至ることで恐怖より責任感に支配されるスー自身、誰か(子供)に血を分けることの重さ……といった、本作の中にうっすらと感じられる“世の成り立ち”のようなものがクッキリと浮かび上がってきたんじゃないだろうか。
いずれにせよ、明らかにホラー&サスペンスに慣れていないんだよね、監督が。まぁ『ボーイズ・ドント・クライ』の人だから無理ないけど。
●主なスタッフ
脚本/ロベルト・アギーレ=サカサ『Glee』
撮影/スティーヴ・イェドリン『unknown アンノウン』
編集/リー・パーシー『グレイ・ガーデンズ 追憶の館』
編集/ナンシー・リチャードソン『赤ずきん』
美術/キャロル・スピア『パシフィック・リム』
衣装/ルイス・セケイラ『アメリカを売った男』
音楽/マルコ・ベルトラミ『ワールド・ウォーZ』
音楽監修/ランドール・ポスター『ヒューゴの不思議な発明』
音響/ピーター・ストーブリ『グリーン・ランタン』
音響/カレン・バサール・トリースト『きみがぼくを見つけた日』
SFX/ジョン・マッギリブレー『キルショット』
VFX/デニス・ベラルディ『ハンナ』
スタント/ブランコ・ラッキ『ラースと、その彼女』
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