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2013/12/04

カンパニー・メン

監督:ジョン・ウェルズ
出演:ベン・アフレック/クリス・クーパー/マリア・ベロ/ローズマリー・デウィット/ケヴィン・コスナー/クレイグ・T・ネルソン/パトリシア・カレンバー/イーモン・ウォーカー/アンソニー・オレアリー/ダナ・エスケルソン/トム・ケンプ/ケイディ・ハフマン/アンジェラ・レッツァ/トミー・リー・ジョーンズ

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【解雇された男たち】
 2008年9月、リーマン・ショックの嵐に晒されるアメリカ。ボストン郊外にある重工業メーカーGTX社でも大量のリストラがおこなわれ、販売部長ボビーが解雇される。妻とふたりの子どもとの順調な生活から一転、不況下で再就職もままならないボビー。いっぽうGTX社内では、フィルが次は自分の番ではないかと怯え、副社長ジーンは人事担当役員サリーとの秘密の逢瀬を重ねながらも事態を打開できないことに心を痛めていた。
(2010年 アメリカ/イギリス)

【お話と、芝居と、根っこにある意識と】
 印象的なのは、閑散としたオフィスで秘書から「何かできることは?」といわれたフィルが、それを断って自分でコーヒーを淹れようとする場面。
 きっと以前は「じゃあコーヒーを」と頼んでいたはず。秘書に対する「そんなにリストラを心配しなくていい」という気遣いと、「これくらい昔は自分でもやっていたのだから」という自戒と不安が見える。
 そういう“画面の向こう側”を脚本と芝居で読み取らせる。

 立場の異なる人物を散らしてそれぞれに異なる苦悩を与え、一歩進んで二歩下がったり停滞したままだったりする“じりじり感”で物語を上手に引っ張っていく。出来事・行動のつながり、場面転換のリズム、会話の中に潜むトゲや無神経な言葉が各人の想いを描写し、そこでは決して説明しすぎることはない。
 子どもに救われたり、逆に子供に追い詰められたりする様子。出来事につられて激しく上下する感情。無言やしかめっ面や笑顔の奥にある怒り、寂しさ、焦燥。紡がれるのは、リストラのミクロの中に潜む人生。
 基本的には地味な内容なのに、しっとり感と緩急が心地よい

 ベン・アフレック、クリス・クーパー、トミー・リー・ジョーンズの中心人物3人は、いつも通りの演技。つまりは安定感。ベン・アフレックは能動的な人物よりこうやって振り回される役が合っているとわかるし、クリス・クーパーにとって悩める中間管理職はお手のもの。トミー・リーも理不尽な社会に対する諦めや疲れの中に、持ち前の“憎めない突き放し感”を静かに混ぜ込んで、いい感じ。
 いっぽう女性陣も、愛と打算の中に生きるマリア・ベロ、ザ・妻とでもいうべき健気さと可愛らしさを放つローズマリー・デウィット、ともに役にハマっている。男性陣もそうだけれど、特にこの女性陣のキャラクター設定と対比には“男性目線”が徹底されていて、そういう確固としたベクトルも本作が「ガッチリしてるなぁ」と感じさせる要因かも知れない。

 で、キャラクター設定および役と役者との親和性という点でいえば、もっとも得をしているのがケヴィン・コスナーの義兄ジャックだ。ちょっと太って野暮ったくなってイヤミな親戚にはぴったりになったじゃん、と思わせておいて、「働かせかたを知っている」現場主義の男っぷりと優しさを滲み出させていく。いいなぁ、このキャラ。

 小気味のいい編集、粗めの音声、ややダブついた衣装、生活感のある美術など各仕事も、地味なのに見やすいという印象とリアリティ向上に寄与していて、映画全体としてしっかりと仕上がっているイメージだ。

 その、本作の映画全体としての面白さは「どこか気楽さがあること」だと思う。
 ボビーは経済的な困窮に晒されるし、笑顔の陰にある“やるせなさ”も見せる。フィルは「自分がいなくても世界は回っていく」という人間としての根源的な不安を吐露し、ジーンもまた自分不在で世の中が機能することを思い知らされて「これまでの人生に対する周囲の裏切り」にも直面する。再就職を目指す人たちが酒や遊びに興ずるのは、不安からの逃避だろう。
 が、根っこには「何とかなる」という楽観主義が感じられるのだ。ただノホホンとした楽観主義ではなく、まったく取り返しのつかないことなんてこの世にはないんだよ、という、冷静な達観。
 その下支えも、本作を心地よくしている一因ではないだろうか。

●主なスタッフ
 監督・脚本のジョン・ウェルズは『ER』で脚本・製作・演出を務めてきた人物で『DOOM』では制作に回っている。
 撮影は『告発のとき』などのロジャー・ディーキンス、編集は『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』のロバート・フレイゼン。プロダクションデザインは『アポロ13』のデヴィッド・J・ボンバ。
 音楽は『テラビシアにかける橋』のアーロン・ジグマン、音楽スーパーバイザーは『コップランド』のアン・クライン。サウンドエディターは『アルファ・ドッグ』のケリー・キャブラル。

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