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2013/12/27

フェア・ゲーム

監督:ダグ・リーマン
出演:ナオミ・ワッツ/ショーン・ペン/マイケル・ケリー/ノア・エメリッヒ/ブルース・マッギル/デヴィッド・アンドリュース/アダム・ルフェーヴル/トーマス・マッカーシー/ティム・グリフィン/アシュリー・ガーラシモヴィッチ/クイン・ブロジー/リラズ・シュルヒ/ハーレッド・ナバウィ/ブルック・スミス/タイ・バーレル/ジェシカ・ヘクト/ノーバート・レオ・バッツ/レベッカ・リグ/ポリー・ホリデイ/サム・シェパード

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【真実と家族のはざまで】
 9・11以後、テロ対策を進めるブッシュ政権下で、CIAは中東をはじめ各国で兵器の拡散防止活動に取り組んでいた。工作員として働くヴァレリーは忙しく世界を飛び回り、元大使の夫ジョーも協力を惜しまない。だが、イラクで大量殺戮兵器が開発されていることを立証したいホワイトハウスによって、ジョーのリポートは捻じ曲げられ、ヴァレリーのキャリアもかつてない窮地に曝される。やがて夫婦の間にも軋轢が生じはじめ……。
(2010年 アメリカ/UAE)

【否定される個。そこから立ち上がる術】
 実在の夫婦、ヴァレリー・プレイムとジョー・ウィルソンの著作をもとにした実話もの。ダグ・リーマンの過去作とは異なり、アクション要素はほぼゼロのポリティカル・サスペンスとして仕上げられている。

 上手いなぁと思うのは、事実・真実と観る者との距離を近づけるために取り入れられた工夫。
 はびこる差別主義。いちど事が起こればとことん貶められていく現代社会の寂寥感。「(ニジェールは)よくナイジェリアと混同される」というセリフで明らかとなる“遠い世界に対する無知の中でヒステリックに平和を叫ぶ市民”という現実。これらの要素で、僕らの置かれている(というか、自らを置いている)場所を見つめ直せよと迫る。
 作りとしても、自然光を生かし、ドキュメンタリー・タッチの撮影やアーカイブ映像を多用し、砂と瓦礫の街へのロケも怠らずに、リアリティの向上へと突き進む。

 その中で描かれるのは“個の否定”という恐怖だ。
 誰か特定の個人が何か重要な事態を動かすのではなく、ひとつの大きな、まさにヒステリックな思想が政策のベクトルを作り、システムを作り、情報を誘導し、その結果としてもたらされた現実は、もう思想の刷新を許さないほど人の心や行動様式に食い込んで、そうした流れの中では個人など無力であり、あるいは思想に沿って動くことだけが正解だという価値観が蔓延することになる。

 たぶんアメリカだけでなく、たとえばわが国の重要政策……電力とか予算編成とか1票の格差とか消費税とか福祉とか対中関係とか……においても同じ構図でモノゴトが動いているはず。政権も市民も誰も彼もが、根本的な正しさではなく、いつの間にか作られてしまった是非を説明できない思想(思い込みというべきか)によって動いている、または動かされているんじゃないだろうか。

 で、ジョーは声を上げる。そうした社会の中で“正しいこと”を叫ぶのは自由主義における権利ではなく、義務なのだと。
 まぁ、あまりに「義務」を振りかざすのもエラそうでヤなんだけれど、本当にそれを義務だと感じる心意気こそが、確かに世の中を変えていくのだと思うし、そう信じたい。

 ジョーとヴァレリーの夫婦は、世界情勢とか政策とか自由の抹殺といった大きな問題と同時に、子育てという身近な問題も抱えている。結婚生活という守るべきプライベートを自覚している。「父さんならどう思うだろう」と気にかける。
 つまり結局のところ、否定された個が義務を感じて立ち上がるために頼りにするものは、家族という個。あるいは、身近な個(と、その未来)は、より大きな社会と直結しているのだという意識。
 そこに、人としての救いのようなものも感じさせる作品である。

●主なスタッフ
 監督自身が撮影監督も兼任。編集は『パーフェクト・ストレンジャー』のクリストファー・テレフセン、プロダクションデザインは『お家(うち)をさがそう』のジェス・ゴンコール、衣装は『赤ずきん』のシンディ・エヴァンス。音楽は『ナイト&デイ』のジョン・パウエル、音楽スーパーバイザーは『RED/レッド』のジュリアンヌ・ジョーダン。サウンドエディターは『フィリップ、きみを愛してる!』のポール・アームソン。
 SFXのケン・グッドステイン、VFXのジョセフ・ディヴァレリオはともに『ジャンパー』でも監督と組んだ。スタントは『バウンティー・ハンター』のピーター・ブコッシ。

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