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2013/12/18

ゼロ・グラビティ

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック/ジョージ・クルーニー/(以下、声の出演)エド・ハリス/オルト・イグナティウッセン/ファルダット・シャルマ/エイミー・ウォーレン/バシェール・サヴェジ

30点満点中22点=監4/話4/出4/芸4/技6

【虚空へ投げ出された宇宙飛行士】
 NASAミッション・スペシャリストのライアン・ストーン博士やコマンダーのマット・コワルスキーらは、ハッブル望遠鏡に新装置を取り付けるべく船外活動を続けていた。そこへ突如、破壊された人工衛星の破片が多数飛来し、ライアンは宇宙空間へと投げ出されてしまう。ヒューストンやマットとの交信は途切れ、スペースシャトル・エクスプローラー号は大破、遠ざかるISS、酸素の残量はわずか……。果たして彼女は助かるのか?
(2013年 アメリカ)

★ネタバレを含みます ぜひ劇場でご覧ください★

【アトラクション的興奮と、それ以上の「これが映画だ」感】
 大画面と3D、サラウンドかつSNのいいサウンドシステムで、つまりは劇場にて観るべき作品(できれば前寄りの席で)。いや、観るというより体感だ。映画というよりアトラクションだ。
 字幕なんか気にしなくてOK。だいたいわかるから。この圧倒的な情報量とスピード感をダイレクトに感じるべし。有無をいわさず畳みかけてくる描写が、状況理解と感情移入とを加速させるはずだ。

 シャトルやISSと、その向こうに浮かぶ地球。CGは凄まじくリアル。
 カタチだけじゃない。渾身の1カット長回しで描き切る冒頭部、カメラは寄ったり離れたりと自在に動きまわり、飛行士もメカもデブリもあちらからこちらへ浮遊し飛来し視線を釘づけにする。こちらへ向かって突き刺さってくる衛星の破片には思わず目をつぶる。魔法か? これは魔法なのか?
 その鮮やかさとダイナミズムには、人によっては吐き気すらもよおすかも知れない。

 恐らく『トゥモロー・ワールド』のときに開発したアイディア&テクノロジーの応用だろう、3人称視点からライアンの一人称視点へシームレスに遷移する技が鮮やか。
 左後方から聴こえるヒューストン管制センターの声(エド・ハリス!)。右奥へ遠ざかるマットの息遣い。オン/オフの切り替えによって生まれる緊張感。サウンドメイクも立体的かつドラマティックだ。

 そうして僕らは宇宙空間へと放り出され、視覚的にも聴覚的にも右へ左へ大きく揺さぶられる。ライアンとともに不安を掻きむしられ、彼女のように何度も固唾を飲み、何度も息を止める。

 そのライアン役サンドラ・ブロックが素晴らしい。大部分が彼女のひとり芝居。その孤独の中に、インテリジェンスとパニック、諦めと希望、懸命さと悪態とを綺麗に両立させる。デジタルで作られた画面に、彫刻のような顔立ちがよく馴染む。

 彼女の態度や“右へ左へ大きく揺さぶる”作りからも明らかな通り、2つの価値観の対比と行き来が本作のテーマであり、それはストーリーにも反映されることになる。
 頭上の地球、足下の星々。迫りくる数々の危機と一瞬の平穏。生と死。爆裂と静寂。「私が失われる」恐怖と「誰かを失う」恐怖。助ける者と助けられる者。着陸と発進。
 逆転と転換と振り子のように揺れる動きに満ちた展開。そんな映画の中心に“男の名前をつけられた女性”を据えるのが憎らしい。

 心を占めるのは、ただ「すげっ」というシンプルな感嘆。が、技術的・演出的・構成的な凄さと濃密さと面白さが詰まっていることも十分に理解できる。言いかたを変えれば「すげっ」という感嘆を呼ぶためなら、あらゆる労を厭わず、惜しみなくアイディアを投入する気概がここにはある。
 アトラクション的ではあるが、そのクリエイティビティは、紛れもなく優れた映画人特有のマインド。「どうだ。これが映画なんだ」という強い自信が漲る。これぞキュアロンの真骨頂。

 無重力(ゼロ・グラビティ)での浮遊から、“立つ”という単純な行為に重力(グラビティ)という意味を与えるラストカット、その大逆転、力強い転換、揺れる振り子の端から端までを、一気呵成に見せ切る90分である。

●主なスタッフ
脚本・編集/アルフォンソ・キュアロン『トゥモロー・ワールド』
撮影/エマニュエル・ルベツキ『バーン・アフター・リーディング』
編集/マーク・サンガー『アリス・イン・ワンダーランド』
美術/アンディ・ニコルソン『ホリデイ』
衣装/ジェイニー・ティーマイム『ハリー・ポッターと死の秘宝』
音楽/スティーヴン・プライス『パイレーツ・ロック』
音響/グレン・フリーマントル『127時間』
SFX/ニール・コーボルド『ワールド・ウォーZ』
SFX/マネックス・エフレム『タイタンの戦い』
VFX/ティム・ウェバー『アバター』
スタント/マーク・ヘンソン『アルゴ』

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