フェイク・クライム
監督:マルコム・ヴェンヴィル
出演:キアヌ・リーヴス/ヴェラ・ファーミガ/フィッシャー・スティーヴンス/ダニー・ホック/ピーター・ストーメア/ジュディ・グリア/カリー・グレアム/デヴィッド・コスタビル/ビル・デューク/ジェームズ・カーン
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【強盗か愛か】
仕事は無気力にこなすだけ、妻との愛も冷めかけている男、ヘンリー・トーン。ある朝、昔なじみのエディから野球に誘われるが、いつの間にか銀行強盗の片棒を担がされて逮捕の憂き目を見る。出所後、件の銀行と隣の劇場が地下道で結ばれていることを知るヘンリー。彼は刑務所で同房だったマックスを誘って大金強奪の計画を進め始めるのだが、いっぽうで女優ジュリーを愛するようにもなる。犯罪か、それとも舞台か? 彼の選択は……。
(2010年 アメリカ)
【題材や雰囲気はいいけれど消化不良】
オープニングを飾る曲のイントロで、ユーモアを交えた犯罪ものだと知らせる雰囲気が秀逸。以後も時折クスリとさせながら、ヘンリーの無茶な計画と恋の様子を軽快に描いていく。
努力の方向が間違っていた。能力を生かさない人生を歩んできた。夢を果たさないままだった。どこかで選択を間違えた。つまり、いまこうしていることの原因は、ただ1つのミスじゃない。そんな“そもそも論”が面白い。
無実で服役したのなら、本当に罪を犯さなければ割に合わない。そんな歪んだ価値観が楽しい。
強奪プランの細かな部分をすっ飛ばし、あるいは物語の重要なキーとなるチェーホフ作『櫻の園』の内容も詳しく説明しないまま、それでも不足を感じさせないリズムとまとめのよさが光る。
金と愛との天秤を描いた舞台と、犯罪と希望の鬩ぎ合いとなる強奪計画を鮮やかに重ね合せて、ヘンリーとジュリーが置かれた心情を浮かび上がらせることができれば、説明なんてどうでもいいのだ。
ああヘンリーって、昔っからエディには逆らえない使いっぱだったのねとわからせる手際も上手い。
何とも奇妙な“無表情のジタバタ”をナチュラルに示す(そういう役しかできないのかも知れんが)キアヌ・リーヴス、焦りと諦めの中にいるヴェラ・ファーミガ、堂々のジェームズ・カーン、楽しそうに訛りを駆使するピーター・ストーメアら、役者陣も上々だ。
ただ、消化不良の感は否めない。たぶん、この手のオフビートなクライムサスペンス&コメディに不可欠な“躁”とか“狂気”みたいな部分が欠けているから、ラストでヘンリーが見せる一種の破滅的選択に説得力や爽快感がもたらされていないのだろう。
破天荒で切なさもあるはずの題材なのに、ちょっとスマートすぎたのかも知れないなぁ。
●主なスタッフ
脚本は『ターミナル』のサーシャ・ガヴァシら。撮影は『デジャヴ』のポール・キャメロン、編集は『ジェシー・ジェームズの暗殺』のカーティス・クレイトン、プロダクションデザインは『unknown アンノウン』のクリス・ジョーンズ、衣装は『扉をたたく人』のメリッサ・トス、音楽スーパーバイザーは『愛を読むひと』でサウンドエディターを務めたブレイク・レイ、サウンドチームは『ジュリエットからの手紙』のマリウス・グラビンスキーら、SFXは『レスラー』のドリュー・ジリターノ、スタントは『ブラック・スワン』のダグラス・クロスビー。
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