ザ・ファイター
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:マーク・ウォールバーグ/クリスチャン・ベイル/エイミー・アダムス/メリッサ・レオ/ジャック・マクギー/メリッサ・マクミーキン/ビアンカ・ハンター/エリカ・マクダーモット/ジル・クイッグ/デンドリー・テイラー/ケイト・B・オブライエン/ジェナ・ラミア/フランク・レンズーリ/ケイトリン・ドゥイアー/ロス・ビッケル/ジャクソン・ニコル/ミッキー・オキーフ/シュガー・レイ・レナード
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸3/技4
【頂点を目指す弟、支えたい兄】
寂れた町ローウェル。かつて「シュガー・レイ・レナードからダウンを奪った男」として称えられたディッキーは、いまやドラッグに溺れる毎日だ。兄ディッキーに憧れてボクシングを始めたミッキーだったが、ディッキーの無責任な行動や母アリスの無茶なマッチメイクに振り回されて素質を持て余していた。恋人シャーリーンとの出会いやディッキーの収監などを経て、ミッキーは「家族抜きで戦う」ことを考え始めるのだが……。
(2010年 アメリカ)
【後半の展開がちょっと不満】
兄ディッキー・エクランドの現役成績は19勝10敗。ニューイングランドの州チャンピオンにはなっているみたいだから、それなりに期待される素質だったのは確かなんだろう。
弟のミッキー・ウォードは38勝13敗。IBFのタイトルマッチにも挑んでいるが、作中に出てくるのはそれではなく、WBUというマイナー団体の世界戦。ハッキリいえばボクサーとしては無名に近いのだけれど、引退直前におこなわれたアルツロ・ガッティとの3戦(ミッキーの1勝2敗/頭とボディに打ち分けるミッキーの様子がYou Tubeで観ることができる)は「ボクシング史上最高の打ち合い」と称されているらしく、アメリカ(少なくともボクシングファンの間)では有名みたいだ。
ちなみにboxrec.comというデータベースサイトにあるミッキー評は以下の通り。
Micky is the younger half brother of Dick Ecklund.
style was primarily applying pressure by coming forward
and throwing big shots, namely the left hook, to the body.
映画で描かれているそのまんまだな。
で、そんな兄弟の1994年頃から2000年までの様子を描いたのが本作。少ないカットや手持ち近接の撮影、ボクシングのTV中継に合わせたトーンの画質、その場感のあるサウンドメイクや照明など、ドキュメンタリー・ライクな作り。
いっぽうで、背景まで計算したフレーミングや人の動き、エピソードの時系列入れ替えや脚色(体格差の大きな相手と戦った試合はデータベースサイトで確認できず。創作か、それとも公式には残っていないのか)など、映画的な計算もしっかりと見て取れる。
もうどうしようもないくらいの閉塞感に覆われた町、っていう雰囲気の出しかたも上手い。あの姉だか妹たちだかに囲まれてると、そりゃあ「なんとかしたいけれど、どうにもできねーよな」と暗澹たる気持ちになるかも。
ああ、あと「鍋!」っていうところ(シナリオを観るとアドリブみたい)には笑ったなぁ。
クリスチャン・ベイルとメリッサ・レオがオスカーを受賞したわけだが、なるほどさすがの芝居。特にベイルは、ハゲたり痩せたり歯抜けだったりと見た目を変え、呂律の怪しい喋りかたや躁的な立ち居振る舞い、さらにはボクサーとしての身のこなしまで見せて存在感たっぷりだ。
ただ、試合シーンはボクシングとしてのリアリティが薄い印象。まぁそれは仕方ないとしても「兄弟の映画」としての濃密さもちょっと足りない。
中盤までは、いい。相手の窮地に真っ先に駆けつける兄弟の姿がちゃんと出てくる反面、「これって未来なき『なぁなぁ』の相互依存だよな。でも、そもそも人(家族)ってそういう関係の中で生きているのかもね」みたいなことを考えさせる、退廃的なニオイが漂う。
でも後半、ディッキーが立ち直るところは“取ってつけた感”が強いし、「兄貴を必要とする自分を自覚しながらも揺れるミッキー」の様子も説得力に欠ける。多少は安っぽくても「新トレーナーの助言通り闘うだけでは見えてきた限界~兄貴との信頼関係」みたいな流れがあってもよかったんじゃないだろうか。あるいはミッキーの人物像を、もうハナっから兄貴との関係に悶々とする、まさに“未来なき依存”に身を置く者として描くとか。
キーである兄弟の関係にぐりぐりと抉り込んでいく展開を期待していただけに、ちょっと物足りなさが残ることは否めない。
●主なスタッフ
脚本は『8 Mile』のスコット・シルヴァーのほか、ポール・タマシーとエリック・ジョンソンが参加。撮影は『裏切りのサーカス』のホイテ・ヴァン・ホイテマ、編集は『リトル・ミス・サンシャイン』のパメラ・マーティン。プロダクションデザインは『ブロークバック・マウンテン』のジュディ・ベッカー、衣装は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のマーク・ブリッジス。
音楽は『イントゥ・ザ・ワイルド』のマイケル・ブルック、音楽スーパーバイザーは『ビッグ・リボウスキ』のハッピー・ウォルターズと『トゥー・フォー・ザ・マネー』のシーズン・ケント。サウンドエディターは『エバン・オールマイティ』のオーディン・ベニテス。
SFXは『グッド・ウィル・ハンティング』のスティーブン・R・リッチと『路上のソリスト』のドナルド・フレイジー。スタントは『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』のベン・ブレイとレイ・シーグル。
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