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2014/01/27

トラフィック

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ベニチオ・デル・トロ/ジェイコブ・バルガス/トーマス・ミリアン/マリソル・パディーラ・サンチェス/クリフトン・コリンズ・Jr(以上メキシコパート)/マイケル・ダグラス/エリカ・クリステンセン/トファー・グレイス/エイミー・アーヴィング/D・W・モフェット/アルバート・フィニー/ジェームズ・ブローリン/ヴィオラ・デイヴィス(以上DCパート)/キャサリン・ゼタ・ジョーンズ/ルイス・ガスマン/ドン・チードル/ミゲル・ファーラー/スティーヴン・バウアー/デニス・クエイド/ピーター・リーガート/ベンジャミン・ブラット/アレック・ロバーツ(以上サンディエゴパート

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4

【ドラッグを巡る戦い】
 メキシコ。2大麻薬組織のひとつを壊滅させるため、サラザール将軍に手を貸す刑事のハビエールとマノーロ。だが彼らは大いなる謀略を知る。ワシントン。麻薬撲滅の責任者に任命されたウェイクフィールド判事だったが、ドラッグに溺れる娘キャロラインへの対処に頭を抱えることとなる。サンディエゴ。麻薬取引の元締めカールが逮捕され、まったく事情を知らなかった妻エレーナは苦悩する。3つの地、3つの事件が行きつく先は?
(2000年 ドイツ/アメリカ)

【この戦いは、まだ繰り返される】
 アンチ・ドラッグの精神で作られていることは確かだろう。そして、クスリの脅威がすぐそこにあることを実感させる作りが採られる。
 解像度の低い絵、窮屈なフレーミング、手持ちのブレ。それゆえ生々しさを感じられるカットがグングンと連ねられ、その場の音を細かく拾う。
 議員や経済学者などが本人役で登場し、麻薬撲滅に対する論を展開するいっぽうで、役者たちは各キャラクターに“ほどよい魂”を込める。
 目撃も傍観もある。当事者意識も喚起させる。しっかりとドラマや芝居も観せる。そのバランス感覚がいい。

 キャストでは、なるほど本作で数多くの賞を獲ったハビエール役のベニチオ・デル・トロもいいけれど、こちらはキャラクターのカッコよさにも助けられている感じ。
 むしろ出色はエレーナ役のキャサリン・ゼタ・ジョーンズ。妊娠中の熱演が称えられ、体型なんか普段(というかダイエット後)の彼女からは想像もつかない“てっぷりん”に驚かされるんだけれど、それよりも、狼狽と空虚から覚悟を決めた女の顔まで、振れ幅豊かに演じてみせる女優としての基本性能にやられる。警察署で弁護士から状況を聴く際の「なんの話なの?」という目が素晴らしい。
 ほかでは、サラザール将軍のトーマス・ミリアン、キャロラインのエリカ・クリステンセンあたりも印象に残り、全体として芝居の多彩さを味わえるキャスティングだ。

 で、人の本性と社会的評価や地位と職種と行動とは、必ずしもイコールではなく、そのカオスはドラッグによって増幅することが描かれる。
 ドラッグを巡る戦いが連鎖交錯する構造の中で、実はその戦いが、ハビエールにとってもウェイクフィールドにとってもエレーナにとっても、つまりまったく立場を異にする者たちすべてにとって「子どもを守るための戦い」という点で共通する皮肉が描かれる。

 青と赤のカラーは本作の大きな特徴であるが、最後まで観ると“敗戦を意味するブルー”と“変わらなく続く貧しさの赤”であることがよくわかる。いや最後まで観ずとも、「何か画期的なアイディアは?」と問われ口ごもる政府関係者の様子で、もうこの戦いは出口どころか糸口さえ見えないものであると知るべきなのだろう。
 音楽の多くはミニマル(サントラにはブライアン・イーノの名もクレジットされている)。進んで、下がって、取れる陣地を少しずつ取り合う。そんな戦いが永遠に繰り返されることの隠喩だ。

 ドキュメンタリーを模した形で作られているが、単に「出来事の中に入り込んで撮りました」ではなく、隅々まで練られていることを実感できる作品である。

●主なスタッフ
 もとはTVシリーズとして作られたものを『ザ・プラクティス』のスティーヴン・ギャガン脚本でリメイク。
 撮影は監督自身(ピーター・アンドリュース名義)、編集は『バベル』などのスティーヴン・ミリオン、プロダクションデザインは『オーシャンズ』シリーズのフィリップ・メッシーナ、衣装は『007/慰めの報酬』のルイーズ・フロッグリー。
 音楽は『コンテイジョン』のクリフ・マルティネス、サウンドエディターは『インフォーマント!』のラリー・ブレイク。SFXは『ワルキューレ』のケヴィン・ハニガン、スタントは『インフォーマント!』のジョン・ロボサム。

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