ザ・レッジ -12時の死刑台-
監督:マシュー・チャップマン
出演:チャーリー・ハナム/テレンス・ハワード/リヴ・タイラー/パトリック・ウィルソン/クリストファー・ゴーラム/ジャクリーヌ・フレミング/マイク・プニュースキ/ディーン・J・ウエスト/マクシーン・グレコ/ジェラルディン・シンガー/ジリアン・バサーソン/タイラー・ハンフリー/カティア・ゴメス
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【彼が飛び降りなければならない理由】
自分が男性不妊症だと知った刑事ホリス。ふたりの子どもに恵まれていたが、父親は誰なのかと考えると怒りと悲しみが収まらない。憂鬱を抱えながら彼は、飛び降り自殺騒動に対処することとなる。ビル屋上の縁に立つのはホテルの副支配人ギャビン。「12時には飛び降りる」というギャビンが語り始めたのは、隣に引っ越してきた敬虔なクリスチャン=ジョーと、その若き妻シェーナにまつわる「なぜこうなったのか?」という事の顛末だった。
(2011年 アメリカ/ドイツ)
【意外と重い】
お話はポンポンと進み、その軸足の置き場所は目まぐるしく変わる。サスペンスからデキの悪いボーイ・ミーツ・ガールへ走ったかと思えば、いきなり宗教論へ。他人には理解できない信仰心を「ジーザス・クライスト!」と驚くことの皮肉。ふたたびメロドラマに舵を切り、またまたサスペンスへと戻って、最後には「愛とは何か?」と問いかけてくる。
あっちこっちフラついて、そのわりには全体として地味。
ともすれば収拾がつかなくなってしまったり飽きられてしまう可能性も持つ展開&テーマ性を、ひとつところにつなぎとめ、観客を引っ張っていく原動力は、撮りかたや雰囲気作りを“地味ながらも親近感のある苦悩”で貫いた点にあるだろうか。
それとはわからぬほど細かく揺れるカメラ。アンダー気味の絵。ある場面では削ぎ落とされ、別の場面ではスリリングに乗っけられるBGM。その場の音が丁寧に拾われて、我の世界も彼の世界も価値観は異なれど同じ世界、続いている空間だということを知らせるサウンドメイク。
苦しさをグっと抑えながらのテレンス・ハワード、浅はかながらも悲しみに満ちた主体性を身にまとうリヴ・タイラー、硬質なパトリック・ウィルソンといった出演者も悪くない。
で、彼らの苦悩につきあい、身の上話を聞かされ、表面的にはハラハラとさせられながら、実は、観る者が自らの価値観を見つめ直すための映画、という構造。その方向性や“想い”もまた作品の質を高めている。
感想を書くと即ネタバレになりそうな気もするけれど、とりあえず「後味は悪い」といえるだろう。でも、それだけではすまされない映画なのだ。
愛を守るための行為が罪になるとすれば僕らはどう振る舞うべきなのか。
罪だけが目の前に示されたとき、その裏にある愛をどう見つめるのか。
B級なんだけれど、意外と重いものを突き付けてくる作品である。
●主なスタッフ
監督・脚本は『ニューオーリンズ・トライアル』のシナリオを書いたマシュー・チャップマン。編集は『コール』のジェラルド・B・グリーンバーグなど。プロダクションデザインは『ダウト~偽りの代償~』のジェームズ・A・ジェラルデン、衣装は『25年目のキス』のジリアン・クライナー。
音楽は『グラインド・ハウス』に参加したネイサン・バー、サウンドエディターは『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のマイケル・ベアード。
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