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2014/02/05

アメリカン・ハッスル

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベイル/ブラッドリー・クーパー/エイミー・アダムス/ジェレミー・レナー/ジェニファー・ローレンス/ルイス・C・K/ジャック・ヒューストン/マイケル・ペーニャ/コリーン・キャンプ/シェー・ウィガム/アレッサンドロ・ニヴォラ/エリザベス・ローム/ポール・ハーマン/サイード・タグマウイ/トーマス・マシューズ/アドリアン・マルティネス/アンソニー・ザーブ/ダニー・コルボ/ソニー・コルボ/ゼカリア・スプカ/ロバート・デ・ニーロ

30点満点中19点=監4/話3/出5/芸4/技3

【おとり捜査、そして男と女の関係、その行方は?】
 表向きはクリーニング店の経営、実体は愛人シドニーとともに盗品・贋作絵画の売買などに手を染める詐欺師アーヴィン。だがFBIのディマーソによってシドニーが逮捕されたのを機に、ふたりはおとり捜査に協力することとなる。はじめのターゲットは小者、けれどいつしかカーマイン市長をはじめとする政界の汚職へと捜査の手は広がる。アーヴィン、シドニー、ディマーソ、アーヴィンの妻ロザリンらの関係にも微妙な変化が表れて……。
(2013年 アメリカ)

【嘘と正直で創られる、いろいろな面白さ】
 のっけから“フェイク”が印象づけられる。そこまでして自分や周囲を偽るアーヴィンの虚栄心、その、みっともなさったら。
 でも彼だけじゃなく、ディマーソもシドニーも髪型には気を遣っていて、それは、まぁ時代を問わずヘアスタイルってファッションにおける最重要パートであるわけで、つまりはこの映画を観る者をも「結局あなただって自分を実際以上に良く見せようとしていますよね」と嗤うかのようだ。

 髪型に加え、本心を吐かず関係するすべての人と傷つけあうアーヴィン、借り物の服で身を飾るシドニー、一本気に見えるけれど実は都合のいい言動で他人を振り回し自分をもノセていこうとするディマーソと、とにかく、人としてフェイク。
 そんな様子からうかがえるのは、シドニーのセリフにもあった「オール・オア・ナッシング」と「人は信じたいものを信じる」の精神だ。

 たとえ小さな嘘でも、ひとつついたのならもはや潔白ではない、嘘の数の多少なんか問題じゃなく、どうせ嘘つきなのだ、という価値観が彼らにはあるように思える。そして、そんな考えに至った自分は利口な大人であり、かつ、どんな事態も上手く渡っていく才覚を持ち合せているのだと、自分自身に納得させたがっている。そうして「自分はこういう人間です」と相手にも自分にも信じさせるべく、嘘を塗り固めていくのである。

 対照的に、馬鹿だけが正直なのだと本作は告げる。
 ダニーは無知で無邪気な子どもの特性として正直であり、ロザリンは無教養なりに女として正直であるがゆえに、空気など読まずいわなくていいことを口にする。カーマインは真に市民生活を考える真っ直ぐな人物であり、だからこそ騙されるのだが、すぐ切れる実直さも見せる。
 それらの正直さが、このややっこしい事件を解きほぐしてしまう原動力となるのだから、人間社会は面白い。

 恋のサヤ当てを軸とする人間関係と、捜査の行方、どちらに重心を置いて観るべきか、笑うべきかスリルを感じるべきか、やや焦点が定まらず尻の落ち着かない序盤だが、中盤からは人間関係と捜査が相関しながら意外な方向へこじれていく面白さがグングンと加速し、また、独白でのみ正直になれる嘘つきどもという構成・構造によって“虚実の鬩ぎ合い”という本作のテーマを皮肉な形で実体化。シナリオはユニークだ。

 手もとをはじめとする身体のパーツや表情を、たびたびアップで捉え、あるいはグぅっと寄ったりすることで、“フェイクの向こうにある、その人の本性”に迫ろうとする人の視線を再現。そんな撮りかたのプランニングも気が利いているし、やっぱり犯罪にジャズは似合うと実感できるサントラ、細かな雑音で高まる緊迫感、30年か40年くらい前の出来事だと即時に納得できる美術・衣装も立派。

 そして、役者たち。
 白状すると、開幕から1時間30分くらい、どこにクリスチャン・ベイルが出ているのかわかりませんでした。『マシニスト』から、ここまで変わりますか。考えてみれば役者ってフェイクであることを求められる職業、その権化ともいうべき変身っぷりは、あまりに見事だ。
 ジェレミー・レナーは、あのリーゼントが醸し出す“イケてなさ感”と熱意あふれる立ち居振る舞いで「ああアーヴィン、この人だけはダマしちゃダメだよ」と観客に自然と納得させて頼もしい。
 ジェニファー・ローレンスもまた、観る人を騙す女優という仕事の素晴らしき具現者であることを実感できる芝居だ。

 エイミー・アダムスも生真面目にシドニーを演じていて出色だが、むしろ彼女のオンナとしての可愛さや苦悩を(もちろん他の出演者の芝居力も)存分に引き出し、お話の構造から絵作りまで隅々まで計算して、「ただ撮る」的な姿勢とは一線を画す仕上がりを実現させた監督の手腕に拍手。

 で、キャッチコピーである「最後に笑うのは誰だ?!」という興味にもしっかりと応える本作。ぶっちゃけ誰も笑えていないラストといえなくもないのだけれど、コン・ゲームものとしての鮮やかな幕引きを見せながら、人として最低限必要な正直さというか、「ニセモノばかりの世の中だからこそ真実に心を打たれる」という真理に、どこか救いを感じさせてくれるまとめでもある。

 映画としての面白さ、お話の面白さ、人間の面白さを、すべて味わえる作品といえるだろう。

●主なスタッフ
脚本/デヴィッド・O・ラッセル『世界にひとつのプレイブック』
脚本/エリック・ウォーレン・シンガー『ザ・バンク 堕ちた巨像』
撮影/リヌス・サンドグレン『シェルター』
編集/ジェイ・キャシディ『イントゥ・ザ・ワイルド』
編集/アラン・ボームガーテン『ゾンビランド』
編集/クリスピン・ストラザーズ『アイ・アム・ナンバー4』
美術/ジュディ・ベッカー『ブロークバック・マウンテン』
衣装/マイケル・ウィルキンソン『エンジェル ウォーズ』
メイク/トリッシュ・シーニー『ザ・タウン』
音楽/ダニー・エルフマン『スリーデイズ』
音楽監修/スーザン・ジェイコブス『悲しみが乾くまで』
音響/ジョン・ロス『スカイライン-征服-』
SFX/ジョン・ルジエリ『復讐捜査線』
VFX/ショーン・デベロウ『サロゲート』
VFX/マーク・D・リエンゾ『トロン:レガシー』
スタント/ベン・ブレイ『アルゴ』
スタント/フランク・トーレス『タンタンの冒険』

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映画「アメリカン・ハッスル」★★★★ クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、 エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンス、 ジェレミー・レナー、ロバート・デ・ニーロ出演 デヴィッド・O・ラッセル 監督 138分、2014年1月31日公開 2013,アメリカ,ファントム・フィルム (原題/原作:AMERICAN HUSTLE) > <リンク:[続きを読む]

受信: 2014/02/21 01:01

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