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2014/03/07

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン/ウィル・フォーテ/ジューン・スキッブ/ボブ・オデンカーク/ステイシー・キーチ/メアリー・ルイーズ・ウィルソン/ランス・ハワード/ティム・ドリスコル/デヴィン・ラトレイ/アンジェラ・マキューアン/ケヴィン・カンケル/ロナルド・ヴォスタ/ミッシィ・ドティ

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【ネブラスカへ向けての、父と子の旅】
 モンタナ州ビリングスからネブラスカ州リンカーンまで、1500kmを歩こうとする老人ウディ。「100万ドル当選しました」という手紙が原因だ。どう考えても詐欺、妻ケイトは怒り呆れるのだが、頑として聞かないウディを助手席に乗せて、息子デイビッドはクルマを走らせる。途中、ウディやケイトの生まれ故郷であるホーソーンに立ち寄ったふたり。そこで100万ドルのことが知れ渡り、親戚や旧友たちは途端に色めき立つのだが……。
(2013年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【イケていないけれど、間違いなく当選者】
 相変わらず“イケていない”人たちを描かせたら天下一品のアレクサンダー・ペイン。ただ今回の主人公であるグラント家の面々は「確かにイケていないんだけれど、存在する意味をちゃんと持つ人々」という色合いが、前作までよりさらに濃くなっているような気がする。

 作中、少しずつ明らかとなるのは彼らが能動的だってこと。
 ケイト母さんは力ずくで旦那さんを手に入れただけでなく、もっともっといいものを手に入れるためにホーソーンの街を出て行った(あの性格だから街にいられなかったという面もあるのだろうが)。
 ロスとデイビッドの兄弟は、いきなり突拍子もない犯罪に手を染めようとする(しかも大した打合せなしに息ピッタリ。男兄弟の、離れて暮らしていても通じ合う感性が、小さい頃から同じような行動基準で悪さをやっていたであろうことが、うかがえて微笑ましい)。
 そしてデイビッドは歩く。考えただけで気の遠くなる距離をひとり歩こうとする(いくぶんボケている気配もあるけれど)。

 かつて『サイドウェイ』で「特別な存在ではないからこそ、何かをつかむためには自分から動かなければならない」と書いた。ペイン監督作品の底辺に流れるそのテーマを体現するそんな生きかたが、この家族にも息づき、彼らをナチュラルに動かしているようだ。

 いっぽうホーソーンに暮らす人たち、おじおば従兄弟や旧友エド・ピグラムらは真反対。何かがやって来るのを待っていただけで、いざその何かが訪れたなら“たかる”ことしか考えない。それ以外の時間はヒマを持て余し、話題といえばクルマ、カウチに腰を下ろしてアメフトを見るばかり。

 ホーソーンの人らが小馬鹿にするデイビッドのクルマは日本車だ。デイビッドが売るオーディオも日本製。それら「安くて性能のいいモノ」のアメリカ進出によって、ホーソーンの人たちが仕事を奪われたことは想像に難くない。だから毒づきたくもなるのだろう。
 けれどデイビッドらグラント家は「安くて性能のいいモノ」を味方につけている。新しい価値観を日々の生活と人生に取り込みながら“上手く”やっている。ウディの生家がいまやボロボロの廃墟になっていることからもわかる通り、時代と状況は変化する。その中でただ朽ちていくのを待つより自分から動いたほうがいいのは明らかなわけで。

 ウディもデイビッドもおじさんたちも、みぃんなネルシャツを着ているんだけれど、中身は全っ然違うのだ。

 頼りなさそうに思えて、自分のすべきことをまっとうし、顔を背けたくなるはずの手術も見届け、社会生活に必要な交渉術や段取り術も身につけているようだし、いざとなれば拳だってふるう。そんなデイビッドをウィル・フォーテが生真面目に表現する。ジューン・スキッブ母さんのお転婆ぶりにはハラハラさせられ、ステイシー・キーチ、ティム・ドリスコル、デヴィン・ラトレイの「ヤなヤツ三人衆」は、もうとことんヤなヤツ。
 そして、ブルース・ダーンだ。あの立ち姿、ガラガラと絞り出す声、白髪交じりの鼻毛、泳いだり細めたりと自在な眼。どこまでもウディとあろうとする姿勢が美しい。

 そうしたキャストも魅力なら、モノクロとシネスコの画面も素敵だ。
 単に牧歌的な雰囲気を作りたかっただけではあるまい。別に「白黒はっきり」というわけではないだろうけれど、景色を遠くと近くに、いまいる場所と向かうべき場所にキッパリと分け、彼らと我らの対比を明確にする、という意味合いを持つことも確かなのではないだろうか。
 それに人生なんて、もともとそんなに色鮮やかなもんじゃない。ただ、生きかた次第で楽しく幸せな世界と感じられるはず。実際この映画、グラント家の様子はなんとなくカラフルに記憶される魔法を帯びている。

 カット数が少ないなど、撮りかたもやや古め。もっとも特徴的なのは、その画面/場面で主となるアクションや出来事の前にムダな動きが入る、のんびりとしたリズム。でも実は、それこそが人生のリズム。その場の音を拾い上げる音響も、リアリティと親近感とを高めていく。

 ストーリー上で面白いのは、ウディが失う3つのもの、入れ歯と手紙とコンプレッサー。1つ目の捜索であんなオトボケをかますものだから、後の2つについても観るほうは「ただじゃすまないよね」と構えてしまう。その緊張感が楽しい。

 さて、見事に生まれ故郷への凱旋を果たしたウディ。100万ドル当選にこだわる彼をデイビッドは「生き甲斐が欲しいんだろう」と考え、それはたぶんある程度は的を射た見解だろうし、ウディ自身が「お前たちに何かを残してやりたかった」と語るように、自分の人生に対して少なからず疑問を抱いていたのだとも思う。
 でも彼は、長兄も次男も立派な人間に育て上げた。その息子からのプレゼントに乗ってホーソーンのメインストリートを貫くことで、「確かに俺はイケていないんだけれど、存在する意味をちゃんと持っている」と立証した。

 ウディが戴く帽子には「PRIZE WINNER」の文字。間違いなく彼は、彼自身の素晴らしい人生という賞品の当選者である。

●主なスタッフ
撮影/フェドン・パパマイケル
編集/ケヴィン・テント
衣装/ウェンディ・チャック
音響/フランク・ギータ 以上『ファミリー・ツリー』
美術/J・デニス・ワシントン『シャッフル』
メイク/ロビン・フレドリクス『ナイト&デイズ』

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