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2014/04/04

LIFE!

監督:ベン・スティラー
出演:ベン・スティラー/クリステン・ウィグ/アダム・スコット/キャスリン・ハーン/アドリアン・マルティネス/マーカス・アントゥーリ/カイ・レノックス/パットン・オズワルト/オラフル・ダッリ・オラフソン/ジョン・デイリー/ゲイリー・ウィルメス/ポール・フィッツジェラルド/ロサン・ソンデン/リンジー・シェルパ/シャーリー・マクレーン/ショーン・ペン

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【夢想家の彼が、世界を駆ける】
 気が弱く同僚シェリルに声をかけることすらままならないウォルター・ミティ。ついつい破天荒な空想の世界へ逃げ込む毎日だ。彼がネガ管理担当者として関わってきた写真誌『LIFE』のウエブ移行が決定し、リストラが断行される中、ウォルターは意を決して飛行機に飛び乗る。最終号を飾るはずのネガが見当たらず、このままではクビ必至、やむなく、それを撮影した写真家ショーンを探し出そうというのだ。平凡な男の大冒険が始まる。
(2013年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【密度の向こうから迫る、さまざまなメッセージ】
 ノーマン・Z・マクロード監督&ダニー・ケイ主演による1947年の映画『虹を掴む男』のリメイク。記録によるとオリジナルも観ているはずなんだが、忘却の彼方。ただし大胆に翻案されているらしく、つまりはほとんど新作・オリジナルと考えてよさそうだ。

 出費の多さに汲々とし、気の弱さゆえに空回りするウォルターの様子を静かに捉え、そこから連続する全開のイマジネーション。振り幅豊かに進む序盤が楽しい。いや、本人にとっては楽しくなんてないはず。この妄想は、愉悦ではなく日々に押し潰されないための自己防衛術だろう。内へ内へと籠り閉じてしまった人が、ここにいる。

 ウォルターの職場が、いい。隙間なく積み上げられた無数の写真に囲まれたスペース。その1コマ1コマには、ありとあらゆる素晴らしい瞬間が詰め込まれているはず。つまり周りにはいつでも“世界”がある。なのに、彼は気づいていない。なんという皮肉。
 この場面をはじめ、とてつもない密度感が作りの特徴だ。

 撮影は、解像度が高く、俯瞰や幾何学的な画面構成などアングルとフレーミングにもこだわり、背景ぐるみでウォルターを捉える意識も強く……と、とにかく濃密なカットが続く。建物や人に質量を感じられる。大スクリーンで観るべき重みがある。「タクシーから降りる」という場面だけでこんなにも立体的に世界を切り取ってしまう、その技の凄さに痺れる。

 1ショットで世界を切り取る“写真”というものがキーとなっている作品なのだから、こうして1カットずつに並々ならぬパワーを注ぐのは必然。
 写真を模しただけではない。本作のテーマ=「世界には、こんなにも要素がギッシリあふれている」を地で行く、情報量豊かな見た目でもある。

 大自然の凄まじさを体感できる多彩なロケーション。機能的なオフィスから狭くて暗い団地の中まで室内美術もバリエーションに富む。
 音楽は、The Arcade Fireの『Wake Up』、Jose Gonzalezの『Step Out』、そして夢想の中で爪弾かれる『Space Oddity (Mitty Mix)』といったヴォーカル曲に、ド派手なアクションBGMもシットリ系も混じり、1本の映画のサントラとしては考えられないくらいのカオス。
 これらもまた“世界の広さ”を十分に伝えるための措置だろう。

 ヒロイン役のクリステン・ウィグはハッキリいって美形じゃないのだが、真面目さと“スレていない感じ”を上手く出していて「清らかに知り合いたい相手」としての説得力に満ちる。
 キャスリン・ハーンが作るのは、なんかもうこういう人が身内にいると苦労しそうだけれど、でも嫌いにはなれないという妹オデッサ。大御所シャーリー・マクレーンは「なんにもわかっていないように見えて、やっぱりわかっていないんだけれど、場を支配する」典型的お母ちゃんとしてストーリーを和やかかつキリリと締める。

 悪役アダム・スコットは、最後にウォルターから諭される場面の微妙な表情が「こいつ、明日から少しずつ柔和になるんじゃないかな」と期待させるのが愉快。ウォルターの後輩ヘルナンド役アドリアン・マルティネスと出会い系サイトのトッド役パットン・オズワルトはまったく冴えない外見なのだけれど、それぞれ自分にできることを当然のように実行して、ああそういう人なのだなぁと自然に納得してしまう。

 浮世離れして仕事ができる風のショーン・ペンにだって、よかれと思ってしたことが災難を呼ぶというマヌケさがあるし、ウォルターが財布を捨てたと知ってショックを受けるところなんか、実に可愛い(ペンの苦み走った表情を“苦悩”ではなく“イジケ”だと捉えてこの役を演じさせたスティラー監督の大勝利だ)。

 個々の役者が「イケてないけれど、どこか温かい」というキャラクターに命を与えている。普通の人々を好演する。
 そうだよね、僕らの周りって。ウォルターが思い描くヒーローなんかどこにもいない。いい部分も悪い部分も男前なところもダサいところも持っている普通の人々が圧倒的多数。そういう人たちとの会話や共同作業、「シナボンを奢ってもらった」みたいに温かな記憶で、僕らの日常はできているんだよね。そんなしみじみ感があふれる。

 世界は濃密で広く、いろいろな景色と人で満ちている。そしてようやくウォルターも、唯一の味方である妄想に背中を押され、“世界の広さ”に気づいていくことになる。
 かつての彼にとっては、極寒の海も大噴火も高山も目的地へ達するための通過点でしかなかっただろう。日常は幻滅の対象でしかなかっただろう。それが少しずつ変わりはじめる。自分の周囲にある現実、“小さなことの積み重ね”でできた世界に気づきはじめる。

 その様子を通じて、僕らは数々のメッセージと感慨を受け取る。
 まさに世界は広いってこと。
 同じものでも見る方向によって見えかたは大きく異なるってこと。
 自分ではことさら意識していない、あるいは大したことないと感じていても実は“取り柄”になりうるものがあるってこと。
 誰かと誰かがどこかでつながっていて、孤独なように思えても決してひとりで仕事や生活をしているわけじゃない、その“つながり”こそが世界の成り立ちなんだという事実。
 ときには船乗りやアイスランドのオヤジさんやシェルパといった見ず知らずの人から、言葉の壁を越えて助けの手は差し伸べられる、そんな優しさの存在。
 あるいは「誰かが見てくれている」という救い。

 ショーンがシャッターを押さない心理も、よくわかる。原稿を書かなきゃいけないという意識でレースを観ることが身に染みついた自分としては、このときの彼がホントに羨ましく、純粋な競馬好き、またはギャンブラーの視点でその一瞬に熱くなりたいと、切に願う次第。
 義務感を吹っ飛ばして自己を覆う一瞬の熱さに酔うことこそ、世界の豊かさを実感するためのアンテナだ。

 クリックひとつに躊躇していたウォルターが、スっとシェリルの手を握るラストもいい。その変革と勇気を手に入れるための、経験の大切さ。いっぽうで『LIFE』最終号を「あとで買う」だなんて、見栄を張ってしまう人の愚かしさ=愛おしさ。

 そして何より『LIFE』のスローガンの素晴らしさ。
  To see the world, Things dangerous to come to,
  To see behind walls, Draw closer,
  To find each other, and to feel.
  That is the purpose of life.

 実はこのスローガン、「それが人生の目的だ」とはいっているものの“人生の意味”には踏み込んでいない。だからこそ、そうか目的意識があれば意味なんて無理に考える必要などないのかも知れないな、と思わせてくれるのである。

 不満は、ある。ウォルターがいよいよ“行動”に出る際の流れには、もう少しインパクトが欲しかったところ。「ネガを渡さなければ……」とヘンドリックスに詰め寄られる場面で、出納帳とシェリルの姿をフラッシュバックさせて彼が金銭的・感情的に行き詰まっていることを印象づけたりとか。

 飛行機の中も工夫できたんじゃないだろうか。たとえばウォルターが窓外の雄大な景色に見とれていて、そこに「君。君!」とかけられる声。観客が「あっ。これも彼の夢想なの?」と思った途端、ウォルターが我に返って隣席に座る男性からの呼びかけに「すみません。この飛行機に乗らなかった自分を空想していました」なんて応えたりとか。

 空想の中ではどんな衝撃にもピンピンしている彼が、実際の冒険では寒さや痛みを感じる(血を流す)という描写も、もっと強めていい。

 そうしたbeforeとafterのコントラストがズドンと決まっていれば、とも感じるのだけれど(まぁ「この冒険だって彼の心の中の出来事かなぁ」と観る者をモヤモヤさせる意図もあった演出だと思う)、とはいえ、全体としては“すこぶるイイ映画”だ。

 いいモノを作ってくれた、いい想いを届けてくれたベン・スティラー。監督としてだけでなく、ウダウダの私生活と仕事に対する真摯さと手練れさを両立させた序盤、決意と覚醒の中盤、暗く沈んだ中にも確実に以前とは異なる雰囲気を湛える終盤と、演じ分けた役者としての器量にも恐れ入る。
 熱い1本である。

●主なスタッフ
脚本/スティーヴ・コンラッド『幸せのちから』
撮影/スチュアート・ドライバーグ『幸せの1ページ』
編集/グレッグ・ヘイデン『トロピック・サンダー』
美術/ジェフ・マン『サロゲート』
衣装/サラ・エドワーズ『ソルト』
メイク/ドナルド・コズマ『アメリカン・ギャングスター』
メイク/バーナデット・マズール『魔法使いの弟子』
ヘア/マンデイ・ライオンズ『ブライダル・ウォーズ』
ヘア/ロリ・ギドロス『ダレン・シャン』
音楽/セオドア・シャピロ『プラダを着た悪魔』
音楽監修/ジョージ・ドレイコリアス『イントゥ・ダークネス』
音響/クレイグ・ハニガン『ブラック・スワン』
音響/ポール・アームソン『ものすごくうるさくて~』
SFX/マーク・ホーカー『P.O.C./命の泉』
VFX/ジェローム・ロシェロン『ライフ・オブ・パイ』
スタント/ティム・トレッラ『インベージョン』

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