COWBOY BEBOP 天国の扉
監督:渡辺信一郎
声の出演:山寺宏一/石塚運昇/林原めぐみ/多田葵/小林愛/柴田秀勝/屋良有作/井上和彦/有本欽隆/小杉十郎太/上田祐司/平尾仁/中嶋聡彦/中博史/垂木勉/長沢美樹/仲野裕/飛田展男/小山力也/石橋蓮司/ミッキー・カーチス/磯部勉
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸4/技3
【バイオテロの陰にある悲しい過去】
BEBOP号で宇宙を駆る、うだつのあがらない賞金稼ぎ(カウボーイ)たち、スパイク、ジェット、フェイ、エド、犬のアイン。彼らはハロウィンに沸く火星でバイオテロに遭遇、3億ウーロンの懸賞金目当てに主犯の男を追うことになる。謎のアラブ人ラシード、ナノテクを利用したテロ兵器、暗躍する製薬会社とその警備担当者エレクトラ、死んだはずの軍人ヴィンセント……。事件の陰には、ある禁じられた実験と狂的な計画が潜んでいた。
(2001年 日本 アニメ)
【シリーズのファンなら】
1本の映画としては不満も残る。
近年のアクションSFとしては見せ場は少なめ。冒頭の銃撃、格闘、フライトなどバリエーションはありバランスも取れているとは思うものの、それぞれが短いし、取ってつけた感も強い。中でもマーシャルアーツ場面は本シリーズの“ウリ”であるはずだが、凄い痛い速いより「頑張ってるな」が先に来てしまう仕上がりなのが残念。
それと、ヴィンセントの抱える悲しさが掘り下げ不足。もともと一本道というか、単独の事件からなるストーリー、ふくらみに乏しいのだから、せめて奥深さを醸し出して欲しかっところ。余韻の残らない浅さだ。
でもね、TVシリーズから一貫して、少々“かったるい”ところも含めてのパッケージ、70年代の日テレドラマ=『大追跡』とか『探偵物語』で育ったモンからすれば、こたえられない世界観と空気感。
この劇場版も、モロッカン・ストリートで聞き込みをするスパイクの佇まいなんかモロに「古い刑事ドラマ」の趣。右往左往する警官コンビとか怪しい企業といった設定、“悲しい過去”という王道テーマも然り。
本シリーズ特有の魅力といえばレギュラー陣のキャラクターメイクとキャスト。スパイク=山寺宏一とジェット=石塚運昇が安定感のある土台となって、その上でフェイ=林原めぐみの危うさと気怠さ、エド=多田葵の人懐っこさと唯一無二の浮遊感(腕くねくねも含めて久々に萌えるキャラだな)、アインの無自覚なコミックリリーフぶりが、心臓の裏側をくすぐる。
ゲスト陣も楽しい。ヴィンセント役=磯部勉はちょっと渋すぎるように思うが、石橋蓮司の可愛らしさ、ミッキー・カーチスの上手さが秀逸。もちろん両者とも、その存在そのものもお芝居も作品世界にドンピシャでマッチ。エレクトラ役・小林愛は、ここでも素敵だ。
劇場版としてのスケールを考慮してか、多分に洋画を意識しているように感じる。実写的なレイアウト、多彩な種類のレンズ、凝ったアングルとフレーミング。そこに前述の古い和製ドラマっぽさ、さらには純アニメ的な表現も混じり、CGもミックス。
あかりと影に対するこだわりも大きな特徴だ。陽光、ライト、照り返し、焚火など、ほぼすべてのシーン、あらゆるカットに光源が置かれ、明暗は自由自在にコントロールされる。
邦画、しかもアニメにしては珍しく「サントラを広く売りたい」という気合いも見られる。
つまりは、プロダクションにおける徹底ぶりと、そこからハミ出しかねないほどのカオスとが、作品に実在感を与えるとともに「踏み入れたくないほど猥雑なんだけれど、そもそも人間社会なんてそういうもの」という雰囲気を創り出している。それこそが本作の魅力であることは間違いない。
そんなわけで、BEBOP号クルーの日常生活を垣間見られるところもあるし、シリーズのファンなら鑑賞マスト。初見の人でもついてこられる内容にまとめてあって誠実でもあるが、できれば流れで観たいところである。
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