ゴールデンスランバー
監督:中村義洋
出演:堺雅人/竹内結子/吉岡秀隆/劇団ひとり/濱田岳/渋川清彦/安藤玉恵/相武紗季/貫地谷しほり/芦川誠/木下隆行/大森南朋/北村燦來/ソニン/鈴木福/柄本明/波岡一喜/ベンガル/少路勇介/伊藤ふみお/滝藤賢一/松山愛里/中林大樹/上田耕一/山口良一/永島敏行/石丸謙二郎/でんでん/竜雷太/香川照之/木内みどり/伊東四朗/岩松了(声の出演)
30点満点中16点=監3/話4/出4/芸3/技2
【爆破犯にされた男、仙台を逃げる】
アイドルの凛香を強盗から救ったことで有名になった宅配ドライバー・青柳雅春は、友人の森田と久々の再会を果たす。が、彼らの近くで首相が爆殺され、「逃げろ」の言葉を遺して森田も死ぬ。犯人にされてしまった青柳はなぜか連続通り魔犯キルオの助けを得ながら仙台を逃げ回ることに。彼の身を案じる元恋人の樋口晴子、続々と出てくる証拠、巻き込まれる旧友たち、迫る警察の包囲網……。青柳は逃げ延びることができるのか!?
(2009年 日本)
【物語と役者は良、作りには不満】
原作は未読。構造的には『クラッシュ』や『TOUCH』あたりに通じる連鎖交錯型の物語で、伊坂幸太郎作品の集大成ともいわれているらしい。
同種の『フィッシュストーリー』(こっちは読んだ)はややファンタジーの要素が強く、そのため映画にしてしまうとあざとさが宙に浮き、作りも貧乏くさかったため“ノレず”に途中でギブアップしたのだけれど、今回は最後まで楽しく観ることができた。
なるほど確かに、伏線の詰め込みかたとその収束、全体的なハラハラ感は見事。たとえば「あのクルマはエンジンかからんだろ」「そこまで吹き飛ばされるなよ」といったツッコミどころ、iPodの安っぽい使いかたなどキズはあるものの、そうしたリアリティより、連鎖の面白さ、予測できない展開、キャラクター配置の楽しさこそが魅力であり、それらをスポイルしないテンションはキープ、各伏線や人の動きの“やりすぎていない感”も保たれている。
ま、いっそコメディとして仕上げてもよかったな、仙台でなければならない意味は薄いよな、セリフ説明もハナにつくよな、頭の中で練り上げた言葉っぽいな、と思う部分もあるけれど、それらを補って余りあるお話。
要所に的確な役者をアテはめたことも大きい。
キルオ役の濱田岳は、伊坂・中村作品の中では今回がいちばんハマっている感じ。こういう芝居しかできない人に、ふさわしい役柄を持ってきた。岩崎さんの渋川清彦、その妻の安藤玉恵も微笑ましい。柄本明、ベンガル、伊東四朗、でんでんといったオッサン勢がいい味。
惜しむらくは香川照之と永島敏行の使いかた(もっと活躍させてあげてもよかったな)だが、竹内結子、相武紗季、貫地谷しほりの女優陣がおしなべてキレイに撮れていたのでよしとする。
それともちろん、堺雅人。この物語とキャラ設定って、青柳がバカすぎても利口すぎてもダメだし、いきなり決死の覚悟で逆襲に転じたりしても途端にシラケるんだけれど、そのあたりを上手く、なんとかしたいんだけれどどうにもできない、その中で自分のできることを懸命にやってみる、みたいなニュアンスをしっかり出していたように思える。
ただ、そこまで止まり。
そこそこ動きはあってギリギリ退屈にならないよう作ってはいるものの、全体にTVスケール/TVサイズの絵。ここ割れよ、そこ寄れよ、ほかにレンズの種類はないんかい、などと思わせる部分が多く、見せすぎる野暮ったさもある。
なんていうか、「これを撮りたい」とか「こっちから撮りましょう」的な思いはあっても、「こんなふうに撮りたい」という意志が感じられないというか。そういう映画的な熱量の不足が、映画化ではなく映像化(というより視覚化か)にとどまっていると思わせる所以か。
ひとまず「これを撮りたい」についての責任は果たしている=面白いお話を届けることには成功している、のだけれど、「こんな映画を観たい」という観客側の要求には応えきれていないのが残念。
●主なスタッフ
脚本は監督自身のほか『アヒルと鴨のコインロッカー』の鈴木謙一や『フィッシュストーリー』の林民夫。その他のスタッフにも過去の伊坂・中村作品に携わった人が多い。
撮影は『ジャージの二人』の小松高志、編集は『西の魔女が死んだ』の阿部亙英、美術は『シーサイドモーテル』の磯見俊裕、スタイリストは『天然コケッコー』の小林身和子、音楽は斉藤和義、録音は『クローズZERO』の石貝洋。
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