ステキな金縛り
監督:三谷幸喜
出演:深津絵里/西田敏行/阿部寛/小林隆/KAN/竹内結子/山本耕史/浅野忠信/市村正親/草彅剛/木下隆行/小日向文世/山本亘/戸田恵子/浅野和之/生瀬勝久/梶原善/阿南健治/近藤芳正/佐藤浩市/深田恭子/篠原涼子/相島一之/西原亜希/中村靖日/榎木兵衛/唐沢寿明/山寺宏一(声の出演)/中井貴一
30点満点中18点=監3/話4/出5/芸3/技3
【落武者の幽霊が証人?】
妻の鈴子を殺害した容疑で裁判にかけられる矢部五郎は「事件当時は温泉旅館にいて、落武者の幽霊のおかげで金縛りにあっていた」とアリバイを主張する。弁護士の宝生エミは旅館へと赴き、その幽霊=更科六兵衛と遭遇、彼を重要な証人として裁判に引っ張り出す。ただし、六兵衛の姿が見えるのはごく一部の人間だけ。死後の世界など存在しないと担当検事・小佐野は却下を要求するも、“幽霊が証人”という前代未聞の裁判が始まるのだった。
(2011年 日本)
【気になる点もあるけれど楽しい】
思えば三谷映画って、劇場型なんだよね。劇場のお芝居向きという意味じゃなく「誰かが誰かに何かを見せる(提示する)」という構造を持つ点で。
ラヂオドラマとか、マイホームとか、カウントダウンパーティとか、偽物の殺し屋とかを誰かに見せたり示したりするための四苦八苦ストーリー。
で、今回は「証人・証言の信憑性」が、見せるモノ。
バカバカしい設定であり、誇張されているところや純コメディ(山本耕史とか佐藤浩市の扱いはコントだもんね)なところも多いんだけれど、それをそのままバカバカしいドタバタで終わらせない配慮がいい。
ちゃんと科学で六兵衛の実在を示そうとしたり、証人の“人としての信用性”に疑いを投げかける小佐野検事の戦術など「法廷もの」としてのディテールが割としっかりしていたり。
死後の世界の公安の存在とか、終盤の「これ以上ない証人」とか、展開も妥当で迅速。ラブの登場なんか、小佐野にとってだけでなく観客に対しても卑怯(もちろん褒め言葉)だよなぁ。
小佐野が見せる手品をノーカットで見せ切るところは「映画している」というイメージも強い。
出演陣もガッチリ。
深津絵里は愛くるしく、バカバカしいけれど馬鹿ではないという作品のテイストにマッチした、大仰で懸命ながら一線は踏み越えないバランスの、楽しいお芝居。テーマ曲の歌声にも惚れ惚れする。ときにアドリブが行き過ぎてしまうことのある西田敏行も、今回はいい按排だ。阿部寛、小林隆、小日向文世、竹内結子もそれぞれイメージ通り、TKO木下隆行は意外と得をしている感じ。
あと、中井貴一ね。検察官としての説得力の中に、どこか小者チックな弱さも漂わせていて、この人にしかできない役柄だろう。
キズがあるとするなら、見た目の質感。相変わらず「いい美術でしょ」というセットの仕上がりに酔っている気がする。法廷だけじゃなく事務所も住まいも旅館も、灯りや画質と相まって“作り物臭さ”が強い。
それと、これは個人的なセンスの問題ではあるけれど、カット数の少なさと「ここはもうちょっと表情に寄ってほしいな」、「ここはすかさず切り替えてほしいな」と感じる箇所がチラホラ。とりわけ序盤はちょっと野暮ったくてテンポもイマイチ、笑いも少ない。ファミレスの場面からはエンジンがかかるんだけれど。
そのあたりの気になる点を除けば、三谷作品の中ではいちばん楽しくってまとまっていたように思う。
フランク・キャプラの2作品、『スミス都へ行く』と『素晴らしき哉、人生!』はテキストとして、見ていたほうがいいかも。
●主なスタッフ
前作『ザ・マジックアワー』から引き続き参加のスタッフがほとんど。撮影は『ミッドナイト イーグル』などの山本英夫、編集は『大日本人』の上野聡一、美術は『花とアリス』の種田陽平、衣装は『SURVIVE STYLE5+』の宇都宮いく子。
音楽は『純と愛』の荻野清子、録音は『容疑者Xの献身』の瀬川徹夫、VFXは『のだめカンタービレ 最終楽章』の大屋哲男。
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