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2014/05/22

マネーボール

監督:ベネット・ミラー
出演:ブラッド・ピット/ジョナ・ヒル/フィリップ・シーモア・ホフマン/ロビン・ライト/クリス・プラット/スティーヴン・ビショップ/リード・ダイアモンド/ブレント・ジェニングス/ケン・メドロック/ジャック・マクギー/グレン・モーシャワー/ケイシー・ボンド/ニック・ポラッツォ/リード・トンプソン/タカヨ・フィッシャー/ダリン・エバート/エイドリアン・ベラーニ/ロイス・クレイトン/アーリス・ハワード/ケリス・ドーシー

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4

【彼らの挑戦が野球を変える】
 ポストシーズンで惜敗を喫したMLBのオークランド・アスレティックスは、主力選手の大量移籍によって来季の戦力大幅ダウンを免れない状況だ。補強資金が限られる中、GMビリー・ビーンはインディアンスからスタッフのピーター・ブランドを引き抜く。「選手の価値はある種の統計で決まる」という彼の説を信じ、賭けてみようと思ったのだ。だがふたりの試みは、古くからのスカウトやハウ監督との衝突を引き起こしてしまい……。
(2011年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【いまだ進化の途上】
 原作『マネーボール』は読まないまま本棚の中(その間に松井もオークランドへ行き、出て、引退へと至った)。もちろん出塁率重視、犠打の軽視など“セイバーメトリクス”について最小限の知識は持っていたけれど、本作は、そのあたりに詳しくなくとも楽しめるまとめかた。

 俺たちには知識と経験があると胸を張るスカウトマンには年寄りを集め、見た目や印象重視で選手を評価するファジーな会議が進む。もうそれだけでイケてない古さが滲み出る。
 ちなみに甲子園常連の某高校のコーチがいうには、日本でも「プロへ進むには3拍子揃っていないと」ということらしい。どんだけ打てても、それだけじゃ獲ってもらえないんだとか。まぁそこでも恐らくはスカウトマンたちの印象論が幅を利かせているのだろう。
 にしても本作の「5拍子揃ってる」って何だよ。確かに古株スカウトマンたちには、経験と、それに基づく一定の評価軸はあるのだろうが、いってることは飲み屋のオッサンと変わらない。

 いっぽう、勝つためには何が必要か、点を取るためには、失点を防ぐためには何が必要か、野球をプロセスの積み重ねと捉え、選手の実績を数値で切り取って評価するビーンたち。
 たぶんそこにも、都合のいい解釈や思い込み、いまだ実証されていない推論が混じっているはずだが、それでも、数字を紐解いたり、相手の逆を行って利を得ようとするのはある意味でスポーツの本質であり、そこに“勝つための真理”が潜んでいるのではないかと個人的にも思う。
 ただビーンはむしろ「それしか道がない」という想いを強く持っているようなイメージ。だって、お金ないし。そうした固執という点では、実は体質的には古株たちと同じなのかも知れない。

 両者の対比・対立をわかりやすく盛り込み、オーナーとのやりとりをユーモラスに描いたり必要以上のことは語らず“見せてわからせる”方向で示したりと、作りは気が利いている
 当初、新たな挑戦へと傾くに至るビーンの心情は描き込み不足とも思えたのだが、ゆったりとした流れの中、彼の苦い過去、そこから芽生えた「どこか別のところに真理はあるはず」という希望、ジンクスに囚われる閉塞感などを要所に差し挟んで、自然と感情移入を誘っていく。

 執拗に拾われる低周波ノイズ、その場にあるものをしじゅう食っているビーンのキャラクター・メイクなどが、彼の、というか、因習から脱したくてもがいている者の置かれた状況をよく物語っている。
 アーカイブ映像を混ぜながら、試合シーンを(スタジオ内だと思うが)黒い闇の中で浮かび上がらせるという大胆な作りも採る。
 ビリーのパーソナルな部分と、作品本来のテーマである“科学的なチーム作りは本当に可能か”を上手に両立させた仕上がりだろう。

 また、律儀にお芝居を拾い、アドリブや、その場感を生かしたクロストークを採用する撮りかたも特徴。ブラッド・ピットは“カッコよさ”を封印していい雰囲気だし、ジョナ・ヒルも相手役としてよく応え、フィリップ・シーモア・ホフマンなんか「あれ? ホフマン?」と感じるほどの化けかた。選手役の役者たちも選手になり切っている。
 ビーンの娘を演じたケリス・ドーシーの歌もいい。

 で、スポーツにおける科学的分析を全面的に支持すると同時に、でもやっぱりそれだけじゃわかんない部分もあるんだよねと、新たな価値観を否定したい者たちの気持ちもわからなくはない。
 データ重視で馬券を買ってはいるけれど、数字だけでは割り切れない、レースや競走馬を生で見なければ感じ取れない“勝敗を決する何か”があると知っているから。

 四球を期待されたハッテバーグがホームランを放ち、それによって記録が更新されたという事実は、野球における数字以外の部分。こういうことが起こってしまい、それで救われることもあるのが、セイバーメトリクスの限界であり野球の面白さでもあるわけで。
 でも、だからといってセイバーメトリクスのベクトルが間違いともいえない。それは野球(およびすべてのスポーツ)が進化するために必要な過程なのだ。実際、いまではビーンも場合によってはバントや盗塁を許可するなど理論を見直したりしているそうだし。

 そうやって、マイナーチェンジを繰り返し、新たな状況に直面すればまた新たな数字を持ち出し、みんなが同じ思考に染まって平均化されればそれを逆手に取ってブレイクスルーを試みる。それこそがスポーツの本質。
 いまだ真理へ向けての挑戦は続いている、というエンディングが、なんだか嬉しい

●主なスタッフ
 原作はマイケル・ルイスによる『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』。脚本は『オール・ザ・キングスメン』のスティーヴン・ザイリアンと『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキン。
 撮影は『ダークナイト ライジング』のウォーリー・フィスター、編集は『フェア・ゲーム』のクリストファー・テレフセン。
 プロダクションデザインは『トゥルー・グリット』のジェス・ゴンコールで衣装は『カポーティ』のカシア・ワリッカ=メイモン。
 音楽は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のマイケル・ダナ、サウンドエディターは『ジュリー&ジュリア』のロン・ボシャール。

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