サード・パーソン
監督:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン/マリア・ベッロ/ミラ・クニス/キム・ベイシンガー/エイドリアン・ブロディ/オリヴィア・ワイルド/ジェームズ・フランコ/ロアン・チャバノル/リッカルド・スカマルシオ/モラン・アティアス/デイヴィッド・ヘアウッド/ヴィニチオ・マルキオーニ/ミカエル・マルゴッタ/ケイティ・ルイーズ・サウンダース/オリバー・クラウチ
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【3つの地、3つの物語】
パリ。妻と別れた作家マイケルは、若き記者アナへの愛に身を焦がしながら新作を書き続けている。ローマ。産業スパイのスコットはバーで出会ったロマの女性モニカが窮地に陥っていることを知り、彼女のために大金を用意しようとする。NY。幼い息子ジェシーを殺そうとしたのではと疑われているジュリアは、親権を取り戻そうとするも上手くいかず、弁護士テレサにも見放されそうだ。3つの地、3つの物語は、どこへ向かうのか?
(2013年 イギリス/アメリカ/ドイツ/ベルギー)
【凝った映画】
ハギス作品にしては評価も扱いも低いな、と思ったら、なるほど、ここまでパーソナルな内容で、かつ地味であれば仕方ないか。
地味といっても映画的な楽しさはたっぷり。異なる場所にいる人々の様子を、サントラの変奏や“同じ姿勢・行為”、フレーミングなどによってシームレスにつないでいく技が鮮やかだ。また、劇場でないと聴こえないレベルの細かな“その場に満ちているノイズ”を拾い上げて、舞台世界の実在感を作り出す手際も素晴らしい。
出演陣も豪華&充実。とりわけ、若き母親の焦燥を等身大で表現するミラ・クニス、都会的な美貌が映えるロアン・チャバノル、シロにもクロにも見える絶妙のバランスでモニカ役をまっとうするモラン・アティアスら女優たちが輝いている。
中でも、オリヴィア・ワイルドだ。見るたびにキレイになっていくなぁと感心させられるわけだが、考えていることすべてが表情や身体の弾み、こわばりとなって出てしまうアナという女性を、これ以上なく魅力的に、関わり合いたくないけれど放っておけない存在として、全身で演じ切る。
彼女たちの立ち居振る舞いというか、たたずまいのようなものを味わうだけでも値打ちがある。
ストーリー的にも興味深い。
パリ編の主軸をなすのは、傷を癒すため、苦しい過去を乗り越えるため、すべてを代償にして創作を続けるしかない作家の業。軽く洒落たマイケルとアナのやりとりからは、人の哀しみは滑稽な形で表出することもあり、愚かさで塗り固められた生からは逃れようなどない、といった人生のおかしみと切なさが浮かび上がってくる。
NY編に漂うのは、やるせなさ、怒り、身勝手、一歩踏み外すことで引き返せないところまで落ちてしまう不条理、そしてやはり哀しみと愚かさ。ローマ編は、ただひたすら信じることによって己と相手とを困難な状況から抜け出させ、そうすることが罪を償うことにつながるという、可能性に言及した展開。行動によって悔恨を払拭しようとする、マイケルの想いが投影された物語といったところだろうか。
三編に共通するのは“子ども”というキー。パリ編でもNY編でもローマ編でも、生の蹉跌、人間関係の複雑さ、躓きのもと、救い、過去と未来をつなぐもの、助けるべき対象……など、多くの機能が子どもには与えられ、さまざまな心理や出来事の象徴あるいはトリガーとして子どもが配される。
ほかに三編共通の要素としては、“衣装”がある。企業の制服デザインを盗むスコット(その相手役モニカはコロコロと洋服を変える)、アナにドレスを買い与えるマイケル、客室係の制服に身を包むジュリア。着るモノによっても左右されうる未来の暗示だろうか。
マイケルは人の心の象徴として“白”に言及するが、小道具としても白い花やペンキが塗られる白地のキャンバスなどが登場。これもまた、何らかの要因によって変わり行く人の様子や、混じり気のない想いを示すものなのかも知れない。
ただし、あくまでそれらはファンクションやシンボルであって、人生を動かしていくのは結局のところ自分自身の決意や行動だ。マイケルもスコットもジュリアも、その周りの人々も、決意と行動によって未来を選ぶ。さまざまなキー=共通要素の向こうに、ひっそりしっかりと人の世の真理を置くあたりが心憎い。
構造的な仕掛けに加え、さまざまな象徴的ファクターの陰に登場人物それぞれの“もっとも大切な価値観”を隠す工夫もあり、そしてある意味ではとことんパーソナルな物語をThird Person=第三者的視点で提示する、そんな凝った映画であるだけに、受け入れられにくいのも無理はない。
けれどハギス好きにとっては、あらためてこの人の“自分にしか撮れない映画作りに懸ける熱”を感じられる、うれしい作品である。
●主なスタッフ
脚本/ポール・ハギス『スリーデイズ』
編集/ジョー・フランシス『告発のとき』
美術/ローレンス・ベネット『アーティスト』
衣装/スヌー・ミシュラ『ラスト・ターゲット』
音楽/ダリオ・マリアネッリ『路上のソリスト』
音楽監修/マギー・ロッドフォード『マリリンとの7日間』
音響/ステファン・ヘンリクス『アリス・イン・ワンダーランド』
スタント/フランコ・マリア・サラモン『ジュリエットからの手紙』
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