ペイド・バック
監督:ジョン・マッデン
出演:ヘレン・ミレン/トム・ウィルキンソン/キアラン・ハインズ/ロミ・アブーラフィア/ジェシカ・チャステイン/マートン・ソーカス/サム・ワーシントン/イェスパー・クリステンセン
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【彼女らが背負ったもの】
1965年。イスラエルから冷戦下の東ベルリンへ侵入したモサドの工作員たち、ステファン、デヴィッド、そしてレイチェル。彼らはホロコーストで残酷な役割を果たしながら逃げおおせた医師ヴォーゲルを確保する任務にあたっていた。それから30年後、いまは祖国の英雄として暮らすステファンやレイチェルは、ある事実に悩まされることとなる。成功したはずの作戦に隠された秘密とは? 彼らが長きに渡って背負ってきたものとは?
(2010年 アメリカ/イギリス/ハンガリー)
【描写の面白味や濃度のある仕上がり】
時制は頻繁に過去から現代、現代から当時へと飛びながら、出来事は淡々と、本題を提示せぬまま進む。かと思えば、いきなりの展開。そのジリジリ感と驚きのミックスに低音の効いたサントラが乗っけられて、緊張は静かに激しく持続する。
沈む背景、陰になって見えない人々の顔など、陰影のある絵作りは、レイチェルたちが背負ったもの、30年も苦しみ続けた彼女らの人生を物語っている。焦燥と時間経過を同時に描写してみせるなど編集も面白い。
レイチェルの未熟さと怖れ、ステファンの自信、デヴィッドの若さといたたまれなさとをつなげる『月光』の連弾。これから嘘にまみれた日々が始まるというのに明るさが広がっている、そんな皮肉の効いた冒頭部。各シーンの濃度も上々だ。
現代パートでは、苦悩に満ちるヘレン・ミレンがさすがの存在感を示す。が、それ以上に過去・東ベルリンのパート、“若きレイチェルが直面しているもの”を説得力たっぷりに演じるジェシカ・チャステインが素晴らしい。各映画賞のBreakthrough関連を多数受賞している模様で、納得の芝居。冷徹さと自己中心的な浅はかさを併せ持つマートン・ソーカスもいい。サム・ワーシントンだって、ただのアクション俳優じゃない。ていうか、こういう役柄のほうが味が出るんじゃないか。
と、全体に格の高さを感じさせる仕上がり。普遍性のある物語というわけではなく、よって心に響くような映画にはなっていないのだけれど、レイチェルとステファンとデヴィッドの“おこない”と“心”をしっかりと描き切っていることは確かだろう。
●主なスタッフ
2007年のイスラエル映画『ザ・デット~ナチスと女暗殺者~』のリメイク版で、監督は『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』などのジョン・マッデン。脚色は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマシュー・ヴォーンとジェーン・ゴールドマン、『裏切りのサーカス』のピーター・ストローハン。
撮影は『タイタンの逆襲』のベン・デイヴィス、編集は『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』のアレクサンダー・バーナー。プロダクションデザインは『トゥモロー・ワールド』のジム・クレイ、衣装は『1408号室』のナタリー・ウォード。音楽は『アジャストメント』のトーマス・ニューマン、サウンドエディターは『キルショット』のイアン・ウィルソン。ヘア&メイクは『クィーン』のダニエル・フィリップス。
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