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2014/09/03

STAND BY ME ドラえもん

監督:八木竜一/山崎貴
声の出演:水田わさび/大原めぐみ/かかずゆみ/木村昴/関智一/三石琴乃/松本保典/田原アルノ/竹内都子/山崎バニラ/萩野志保子/高木渉/松本さち/妻夫木聡

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【のび太は未来を変えられるのか?】
 勉強も運動もダメ、大好きなしずかちゃんに想いを告げることもできない小学生・のび太のもとへタイムマシンでやって来たのは、のび太の4代後の子孫セワシと、ネコ型ロボットのドラえもんだった。「このままでは悲惨な将来が待っている」という彼らの忠告を聞き、しずかちゃんと結婚する幸せな未来を目指すのび太。ドラえもんが取り出す“ひみつ道具”の助けを借りながら悪戦苦闘するのだが、やはり失敗ばかりの自分に嫌気が差し……。
(2014年 日本 アニメ)

【極めて『ドラえもん』的な映画】
 だからいったでしょ。「そもそもの始まり、ドラえもんが未来からやって来るところを映画化してはどうだろう」って。『のび太の恐竜2006』以降のミッションである“大叙事詩としてのドラえもんの再構築”を完遂するためには、どうしても作られねばならなかった作品なんである。

 タイミング的にもベストだったはず。藤子・F・不二雄生誕80周年記念作品とのことだが、それ以上にポイントとなっているのは3DCG/3D上映という形式だ。
 かねがね「3Dは舞台の奥行き感やオブジェクトの飛び出し感ではなく、浮遊感と立体感の創出に効果あり」と感じているのだが、たぶん、本作の作り手も同様の感触を抱いている。その証拠にオープニングから“のび太が宙に浮く”という場面を用意。また、キャラクター造形には1年半を費やしたとのことで、なるほど、3Dによる実在感の中でもギャグ的な動きに無理のないフォルム、質感、デフォルメを実現している。
 つまり、3DCG/3D上映に関わるノウハウが熟成されたうえでの本作であり、そういう意味でベストなタイミングだったと思うのだ。

 さらにいえば、困ったのび太をドラえもんがひみつ道具で助ける、というワンパターンを基調としながら、実は“のび太の挑戦と成長”をテーマとして内包する映画版ドラえもんにとって、3Dへのチャレンジ、新生は避けて通れない道。ならば「そもそもの始まり」を描く本作こそ、その舞台にふさわしいだろう。

 もちろん、ローアングル=見上げる目線の多用で観る者にドラえもん世界への憧憬を抱かせ、俯瞰=見下ろす視線でキャラクターたちを見守る意識も持たせて、ドラえもんシリーズらしい雰囲気作りもキープ。だから、新しい見た目のドラえもんでもスンナリと入っていくことができるわけだ。

 ストーリー・エディットの手際も、なかなかに見事。原作にある主要&人気エピソードを上手につなぎ、いかにしてドラえもんが野比家に居つくことになったのかをスッキリとまとめてみせる。けれどしかし……。

 いやもうね、どうしようもないヤツなんですよ、こののび太。どこに惚れたんだよ、しずかちゃん。しずかちゃんパパのいう「他人の幸せを喜び、他人の不幸を哀しむ」気質があったとしても、大きくマイナス。
 ただ、数少ないセールスポイントだからこそ、のび太もその点にかけてだけは死に物狂いだ。もともと映画版では「誰かのために何かをする」人間として描かれているわけだけれど、今回はそれを“史上もっとも哀しいスカートめくり”で表現する倒錯っぷり。
 そう、観る者が自分自身の情けなさを投影して自己嫌悪に陥るくらいのダメっぷりと、自己中心的自己犠牲が観る者の自己憐憫を呼ぶ、というキャラクター設定。その“自分とのび太のつながり”の愚かさが愛おしくなる。

 対するしずかちゃんは、どこまでも天使。こんな人いるわけないと思いつつも、素晴らしい造形&かかずゆみの演技で説得力豊かに迫る。

 そして物語は、のび太が、しずかちゃんが、ドラえもんがどうなるかという表面的な流れの向こうに「そもそも『ドラえもん』とは何か?」へと踏み込む気配を漂わせる。
 青年のび太のセリフから伝わってくるのは、幼少期において人を形成するために働いた全要素の象形化、というドラえもんの位置づけだ。
 失敗と怠惰と調子の良さ、どうしようもないヤツとしての自分=自己嫌悪と自己憐憫をみぃんなひっくるめたうえでの、いまの自分。そこには後悔や諦観がタンマリとある。
 と同時に僕らの中には成功体験や無垢な優しさの発露の結果としてのいまの自分に対する満足感もあるに違いない(たぶん、のび太の中にもそうと気づかぬ形で存在する)。そんな、自分自身への肯定。
 それはきっと、自己の中にあるのび太的要素をちゃんと認識できる人=大人の心にだけ湧き上がってくる感慨。「すべての子供経験者の皆さんへ。」というキャッチコピーにうなずける内容だと感じる。

 そんな想いの数々=「過去に自分を形成したものおよび現在の自分自身の否定と肯定。そのうえで抱く未来の自分に対する期待」こそが、映画『ドラえもん』とドラえもんそのものの機能。そういう意味で、極めて『ドラえもん』的な映画ではないだろうか。

 ひとつ解決しておかなければならないのがエンドロールのNG集だ。本作はのび太たちの“芝居”によって作られた、とも受け取られかねない部分。でも、さすがにそれはマズイわけで。作り手のお遊びと流してしまうには、けっこう大きな意味を持つ気もするし。
 ひとまずは、本作(現実に起こったこと)の再現を試みている、と捉えておこう。のび太とドラえもんの出会いからしずかちゃんとの結婚に至るまでを(都合の悪いところは割愛して)映像化し、結婚式で流そうとしている、とか。

 もうひとつ、物語としての『ドラえもん』って、無頓着なまでにボコボコとアナザーワールド(パラレルワールド)を生み出している=歴史を壊しているのだと再認識。あの、TOYOTAの看板が乱立する未来だって、のび太たちが何かするたびに劇的に変化するんじゃないか。
 だいたい、しずかちゃんと結婚したらセワシ君は生まれないと考えるのが普通だと思うのだが「しずかちゃんと結婚し、なおかつセワシ君も生まれる未来」が前提になっているんだよね。すくなくともセワシ君、ドラえもん、のび太は、そんなパラレルワールドが創生されることを期待している。
 こんどは、そうしたタイムパラドックス(今回しずかちゃんを助けるくだりは、まぁよくあるパターンだけれど『!』のあるSFだった)を徹底的に掘り下げるエピソードも観たいものである。

●過去作の感想
『のび太の恐竜2006』
『のび太と銀河超特急(エクスプレス)』
『のび太のワンニャン時空伝』
『のび太の魔界大冒険』

●主なスタッフ
脚本/山崎貴『ALWAYS 三丁目の夕日』
編集/宮島竜治『天然コケッコー』
音楽/佐藤直紀『Little DJ 小さな恋の物語』
音響/百瀬慶一『FREEDOM』

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