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2014/09/25

ジョン・カーター

監督:アンドリュー・スタントン
出演:テイラー・キッチュ/リン・コリンズ/サマンサ・モートン/トーマス・ヘイデン・チャーチ/マーク・ストロング/キアラン・ハインズ/ドミニク・ウェスト/ジェームズ・ピュアフォイ/ブライアン・クランストン/ポリー・ウォーカー/ダリル・サバラ/ウィレム・デフォー

30点満点中18点=監4/話4/出3/芸3/技4

【火星の未来を担う大冒険】
 1881年のアメリカ。大富豪ジョン・カーターの遺産を相続した甥エドガーは、おじの日記で信じられない事実を知る。それはカーターが、バルスームと呼ばれる星=火星へ渡った話。6本腕の緑色種サーク族に捉えられたカーターは、光の力によって空を飛ぶという優れた科学技術を有する赤色人の国どうしで起こった戦争に巻き込まれる。重力の小さな火星で得た超人的な力を武器に、カーターは戦乱をくぐり、故郷を目指すのだが……。
(2012年 アメリカ)

【大きな流れを感じる娯楽大作】
 なにこれ面白いんですけれど。
 中学~高校時代、本屋でハヤカワと創元の棚を行ったり来たりしていたので存在は知っていた。でもまぁ子供だましのファンタジーだと見くびって手に取らなかった、このシリーズ。
 確かに、好みであるところのハードな読み物とは異なり、どちらかといえばヒロイック・ファンタジーに近い内容。設定やガジェット類に科学的な裏づけは用意されているものの、活劇&冒険譚の性格が強い。

 でも、要はそれがイイんだな。そういえば自分だってジャック・ヴァンスの「魔王子」シリーズとかジーン・ウルフの『新しい太陽の書』は嬉々としながら読んだんだっけ。

 種族と国と歴史と未来とそれらの関係がバランスと整合性の上に成り立っていて、つまりはきっちりと世界が創られていて、そこで“この世界だからこそ起こること”がちゃんと繰り広げられる(おまけに火星と地球との関係も違和感なく盛り込まれる)という構造。
 空中戦を海戦または白兵戦的に描いたり、多彩な種族・生き物を無駄なくストーリーに反映させたりなど“この世界だからこそ起こること”のアレンジが実に上手い。

 キャラの配置がまたいい。
 厭世観と無気力感から愛と正義の目覚めへと至る主人公ジョン・カーターの姿には最低限の説得力があり、この物語に中心ピースとしてしっくりハマる。本来自分が属する場所(バルスーム)への帰還を目指してあくせくするという設定は、たとえば『ある日どこかで』あたりを思わせて、ストーリーのまとめに分厚さをもたらしている。
 タルス・タルカスは軽妙な族長っぷりと親バカぶりと“実はいいヤツ”っぷりがたまらなく楽しいし、ソラの位置づけは定型的ではあるんだけれど、だからこその味が出ている。
 デジャー役リン・コリンズは、ヒロインとしての可愛げには欠けるものの多くが望む「火星のプリンセス」を具現化した姿としては合格なんだろう。

 すなわち、お話と、それを支えるキャラクターのパッケージングが上質なのだ。
 ストーリーを進めていく手法、登場人物を動かしていく手際も軽快。カーターがとてつもない跳躍力を手にしたことを過度な説明抜きに納得させてしまう流れのよさがあるし、カーターがタルカスに頭をペシっと叩かれるシーンに漂うユーモアなど、全体にリズミカル。見せ場が緩急よく訪れてダレることがない。

 作りとしては、大胆なカメラワークと陰影に富む絵、大陸の強みを生かして見事に再現した火星のヴィジュアル、劇伴的なサントラによる盛り上げ、VFXの美麗さ……と申し分のない仕上がりを見せる。

 そしてラストにはスティーブ・ジョブズへの献辞。ここで本作の魅力が一気に高まる。
 うん。SF的創作、あるいは「人を楽しませるべく営まれる創造」は、単独では存在しえず、大きな輪の中でたがいに影響を与え合い、感謝を送り合って、螺旋を描きながら進化していくものなのだ。
 たとえば本作の場合、ハリーハウゼン(合掌)から『ゴジラ』や『スター・ウォーズ』、『コブラ』、ディズニー/ピクサー、ほかにもいろいろあげられるだろうけれど、とにかくある種の系譜に属する作品の中で原作の遺伝子は長らく生き続けて、で、まさしくその系譜の中にある作品群の影響を受けながら、しかも系譜の中で生まれた『ウォーリー』の監督によって、発表から100年後に映画化されたわけで、そんな壮大なバックグラウンドに震える。

 ま、そういうことを考えなくても十分に楽しめる娯楽大作である。

●主なスタッフ
原作/エドガー・ライス・バローズの原作『火星のプリンセス』
脚本/マーク・アンドリュース『Jack-Jack Attack』
脚本/マイケル・シェイボン『スパイダーマン2』
撮影/ダニエル・ミンデル『スター・トレック』
編集/エリック・ザンブランネン『かいじゅうたちのいるところ』
美術/ネイサン・クロウリー『ダークナイト ライジング』
衣装/マイェス・C・ルベオ『アポカリプト』
音楽/マイケル・ジアッキノ『M:I ゴースト・プロトコル』
音響/ジョナサン・ナル『ヒックとドラゴン』
音響/ティモシー・ニールセン『戦火の馬』
SFX/クリス・コーボルド『ファースト・ジェネレーション』
VFX/ピーター・チャン『ペイド・バック』
VFX/スー・ロウイ『ライラの冒険 黄金の羅針盤』
スタント/トム・ストラザース『インセプション』

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