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2014/10/13

人生はビギナーズ

監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー/クリストファー・プラマー/メラニー・ロラン/ゴラン・ヴィシュニック/カイ・レノックス/メアリー・ペイジ・ケラー/キーガン・ブース/チャイナ・シェイバーズ/メリッサ・タン/ジョディ・ロング/コズモ(asアーサー)

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【失意の中の彼】
 母の死後、父ハルが70歳を超えてゲイであることをカミングアウト、新たな恋人アンディと交際を始めた。が、その父も癌のため亡くなり、オリヴァーは残された犬のアーサーと暮らすことに。父と母の間に愛はなかったのか……。ふさぎ込む姿を案じる友人たちに誘われ仮装パーティーに参加したオリヴァーが出会ったのは、フランス人女優のアナ。オリヴァーとアナの距離は急速に縮まるのだが、オリヴァーは愛に心を開けないでいた。
(2010年 アメリカ)

【まさしく“人生そのもの”を描く】
 何か1つのファクターだけである映画の価値が数段階も上がるのだとすれば、本作の場合それは、犬のアーサーの存在に他ならない。
  While I understand up to 150 words - I don't talk.
 このセリフ(!?)だけでヤられてしまった

 言葉はわかるけれど話せない。それは犬と人間の間に限らず、人間と人間の間にもある奇妙な関係。つまりは、もどかしさ。
 望んだ通りに進まず、計画通りに行かず、真にはわかりあえず、予想外の出来事の連続でできている、そんな“人生そのもの”をも象徴するセリフだといえるだろう。

 そう、まさしく“人生そのもの”を描いた映画。
 時制を大胆かつシームレスにつなぎ、カットをジャンプさせて、捉えようがなく整理されない時間の流れとしての人生を表現する。周辺を静かな明るさとともに切り取りうつし出して、華やかではない、暗く冷たく沈んだ世界を作る。リップノイズまで拾うSNの良さで生身の人間との距離感を示したかと思えば、会話をオフで展開させて“自分というものを表に出して人と接することの痛さ”も感じさせる。

 オスカー受賞のクリストファー・プラマーが、希望と諦めと悔恨と怖れと優しさと老いと子供っぽさとをないまぜにしたハルを演じ切る。オリヴァー役のユアン・マクレガーは、与えられないことに慣れているくせに失うことを恐れる様子を好演する。アナのメラニー・ロランは相変わらず美しく、コメディエンヌとしてのポテンシャルもあるはずだし凛とした姿が似合うことも実証済みだが、こうして行き詰まり感を抱えた役柄にもまたハマる。

 ああ、こうして見ると決して1つのファクターだけが飛び出ている作品ではないのだな。
  哀しいキス。
  人の半分は悲観的で、残りの半分は魔法を信じる人たち。
  出て行けといわれローラースケートを履いたまま帰るふたり。
  末期癌を「第3ステージを通過した」と考えるスタンス。
 観る者の価値観を揺るがす出来事やセリフがあちこちに散らされていて、作りの確かさとともに、作品全体が一塊となって迫ってくる。

 目の前にあるのは常に、初めて遭遇する瞬間であり、人生において人はいつもビギナー。対処したり乗り越えたりするのに必要な経験なんて、そう簡単に積み重ねられるもんじゃない。できるとすれば、上手くやれると信じて行動に移すことだけ。
 そんな真理をゆったりと伝える良作である。

●主なスタッフ
衣装/ジェニファー・ジョンソン『ハード キャンディ』
音楽/ブライアン・レイツェル『赤ずきん』
音楽監修/ロビン・アーダング『愛を読むひと』
音響/レスリー・シャッツ『インモータルズ-神々の戦い-』

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