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2014/11/11

ミスター・ノーバディ

監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レトー/トビー・レグボ/トマ・バーン/ノア・デ・コスタンツォ(以上ニモ)/サラ・ポーリー/クレア・ストーン/リア・ソナス(以上エリース)/ダイアン・クルーガー/ジュノー・テンプル/ローラ・ブリュマーニュ(以上アンナ)/リン・ダン・ファン/オードリー・ジャコミニ/アネス・ヴァン・ベル(以上ジーン)/リス・エヴァンス/ナターシャ・リトル/マイケル・ライリー/エミリー・ティルソン/パスカル・デュケンヌ/ベン・マンスフィールド/ダニエル・メイズ/アラン・コーデュナー

30点満点中19点=監4/話4/出3/芸4/技4

【ある男の人生】
 テロマリゼーションと人工臓器の発達で不死が実現した未来。“人類最後の死すべき存在”であるニモ・ノーバディは118歳の誕生日を迎える。記者に問われて語られる彼の過去は生前にまでさかのぼり、両親の離婚、エリース、アンナ、ジーンという3人の女性との出会い、別れ、葛藤、運命のいたずら、そして想像にまで広がって混沌を極める。幼さと若さの中で、あるいは恋の悩みの中で、死の淵で、火星で、ニモが過ごした時間とは……。
(2009年 フランス/ドイツ/カナダ/ベルギー)

★ネタバレを含みます★

【それは慰めか、救いか】
 語り口の質感、主人公を取り巻く空気の肌合い、“人の生”を取り上げたテーマ性など、『クラウド アトラス』に近い部分が多い。
 ただ、あちらの場合は時制を解体・再編しながらも時間の流れそのものは堅牢な縦軸として扱い、事実は事実として配置し、その連なりの中に見える人の(種としての)愚かしさと希望とを描いていたのに対し、本作は事実を時間軸ごと捻じ曲げたままで物語を連ねていく。

 そして、死を個人的なものとし、その死と時間の停止(または逆流)とを結びつけ、死を時間からの解放として位置づける。ある意味では『クラウド アトラス』と真逆の論理だ。

 永遠が実現した世界で永遠を否定する。または、まったく異なる方法論で永遠を手にしようとする。そんなニモの姿は「自分は存在しているのか?」という根源的な問いに、死(不在への回帰)をもって逆説的に答え(存在証明)へと至ろうとするかのようだ。

 たぶん、あのときの選択や運命のいたずらによって存在することができなかった“別の自分”もまた実は存在するのだと信じ、その追体験のために彼は宇宙の収縮を待ちわびるのだろう。
 冒頭で述べられるハトの迷信行動や、それについて調べてたどり着いたオペラント行動などについて考えると、自分が選ばなかった人生を妄想する行為(と、その結果もたらされるカタルシス)は、いまの自分に満足できない者が自らをただ慰めているだけではないかとも思える。
 が、いっぽうで、いまいる自分だけでなく、選ばれなかった人生を歩む自分(についての妄想)まで含めて“自分という絶対的な個”なのだと信じることは、ある種の救いなのかも知れない。

 そうしたことを描くために、全体(世界)の中の個を示したり、複数の時間軸に連続性を持たせたようなカットが多用される。
 シャープな中にときに曖昧なフォーカスを混ぜ込み、鏡に寄って行ってそのまま向こう側の世界へ突入し、場面を大胆に横位置で切り取り、モノや人をアニメーション的なレイアウトでうつし出し、赤青黄のイメージカラーを印象的に配置して……、と、とにかく画面イメージは多彩
 全体的に計算され尽くした絵作りで、「こういうふうに撮りたい」という想いを妥協せずやり切った感が強い。

 わびしく響く音楽(ピエール・ヴァン・ドルマル)、火星からオールドタウンまで鮮やかなVFX、特殊メイク(シッチェスでBest Make-Up受賞)など各所の仕事も見事で、これまた監督が作り出したかった世界をしっかり再現していることを実感できる。

 さて、いったいどれが本当のニモなのか。クライマックスの編集を見る限りでは「アンナとの人生」っぽいようにも思えるが、過去へ向けてのビデオはそれを否定する。「エリースとの人生」は出発点から捻じ曲げられているわけだし、となればもっともウエイトの低い「ジーンとの人生」が本命だとも捉えられる。

 ま、ここではどれもが偽りであり、どれもが(存在しなかった自分も含めて自分、という考えに則って)真実だとしておこう。すべては9歳の男の子の心の中。なにしろ彼はノーバディ=何者でもない、のだから。

 この監督の『八日目』ってあまり好きな映画ではないのだけれど、こういうものを見せられると、少し考えを改めたくなる。

●主なスタッフ
撮影/クリストフ・ボーカルヌ『PARIS』
音響/ジェーン・タタソール『サイレントヒル』
SFX/ウリ・ネフツァー『クラウド アトラス』
VFX/ルイス・モーリン『ミッション:8ミニッツ』
スタント/ヴォルクハード・バフ『アンノウン』
スタント/ジャン・フレネッテ『インモータルズ-神々の戦い-』

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