« 幸せへのキセキ | トップページ | 星の旅人たち »

2015/02/17

マリリン 7日間の恋

監督:サイモン・カーティス
出演:ミシェル・ウィリアムズ/エディ・レッドメイン/ジュリア・オーモンド/ドミニク・クーパー/フィリップ・ジャクソン/ゾーイ・ワナメイカー/エマ・ワトソン/トビー・ジョーンズ/ロバート・ポータル/ダグレイ・スコット/マイケル・キッチェン/カール・モファット/デレク・ジャコビ/ジュディ・デンチ/ケネス・ブラナー

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【女優、青年、監督、それぞれの苦悩の中で】
 名家出身で映画好きの英国青年コリン・クラークは、運よくサー・ローレンス・オリヴィエの事務所に仕事を得る。オリヴィエが撮影に取り掛かったのは『王子と踊り子』、主演は米国から招いたマリリン・モンロー。はじめはセックス・アイコンとして、後に演技力も備えた女優として“世界で最も有名な女性”となる人物だ。演技に賭けるあまり情緒不安定なマリリンに振り回されるスタッフの中、コリンだけは羨望の目で彼女を見つめていた。
(2011年 イギリス/アメリカ)

【女という生き物】
 まぁタチの悪い女である。もちろん“タチ”という読みにあてられる漢字は“性格”ではなく“性質”だ。

 愛することより愛されることを求めた女。と同時に自分が女優であることを熟知しており、女優であることをまっとうしようとする。事実、たいした女優でもある。
「本当のデートは13歳の時が最後」
 そういって哀しき生い立ちをにじませ男を引き込むけれど、んなもん、それで男を惹きつけられることを百も承知。

 ただしそれは、すべての女性に共通する“タチ”なんだろう。彼女の場合はストッパーやリミットが壊れていて、かつ、天性と技術に長けているというだけのこと。サーがいうように計算高い振る舞いなんかじゃなく、“そんなふうにしか生きられない”のかも知れない。少なくとも「私はこんなふうにしか考えられないの」と思い込んでいるのは確か。
 その行く先は自己破滅だとしても、彼女は女優なんである。

 だから、ストーリーの中心はコリンであり彼の視点で物語は進むけれど、世界は彼女(のような女性)を中心に動く。
 そして、振り回されるのをよしとし、破滅へ向かうモノを放っておけないのが男の“タチ”。もっとも23か24の青年には、そんな自覚などない。ヤられてしまって無理もない。
 ま、クランクアップ後のオッサンたちの表情からわかる通り、年を食ってもその“タチ”は変わらないんだが。

 女であり女優でもあるヴィヴィアン・リーとシビル・ソーンダイクは、女および女優としての本能でマリリンを理解し、そのうえで理性を規範として行動する。このふたりの存在が頼もしい。振り回すのではなく、優しさやプロフェッショナリズムや打算で男(たちが働く場)を支配してしまうという、これまた“タチ”を見せるのだ。

 キャストが秀逸。マリリンに挑み、立派に成功させたミシェル・ウィリアムズにまずは感服する。エディ・レッドメインも役柄に合った純朴さとインテリジェンスが光る。ケネス・ブラナーにとってオリヴィエ卿を演じるのは本望であり、彼にしかできないことだったろう。
 エマ・ワトソンが、ちゃんと“ハーマイオニーのコ”からいっぱしの女優さんになっているのが嬉しい(しかも美貌アップ)。なぁんか口やかましそうな顔なのに“穏やかな女優さん”としての説得力に富むジュディ・デンチもさすがだろう。

 作りとしては、監督、脚本ほかスタッフの多くがTV中心で働いているせいだろうか、手堅く見やすく、意外とライトな空気でテンポもいい。フリがあって、次のシーンでポンと落とす、という軽快さが特徴だ。
 前半30分で人物や状況を上手く説明し、とりわけマリリンの、色気と知性と苦悩のミックスであるキャラクターを立たせてしまい、中盤から終盤にかけてはじっくりと“マリリンを中心とする世界”や“男と女”に迫っていく流れも上々だ。

 ただ、映画のルール第1条「スゴイものを見てスゴイというな」が守られていないのは残念。マリリンの女優としての資質を、もっと印象的に、説明不要の問答無用で観る者の心にねじ込む撮りかたがあれば、と思う。
 そうすれば女という生き物の“タチ”の悪さ(いっておくが褒め言葉)の中で、その権化たるマリリンが、けれど異質で別格のものとしてひときわ輝くはずである。実物がそうだったように。

●主なスタッフ
撮影/ベン・スミサード『くたばれ!ユナイテッド』
衣装/ジル・テイラー『ペネロピ』
ヘアメイク/ジェニー・シャーコア『タイタンの戦い』
音楽/コンラッド・ポープ(『ライフ・オブ・パイ』
テーマ曲/アレクサンドル・デスプラ『ゼロ・ダーク・サーティ』
音楽監修/マギー・ロドフォード『英国王のスピーチ』
音楽監修/デイナ・サノ『ファイナル・デッドサーキット』
音響/ニック・ロウ(『ハリポタ』シリーズ)

|

« 幸せへのキセキ | トップページ | 星の旅人たち »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: マリリン 7日間の恋:

« 幸せへのキセキ | トップページ | 星の旅人たち »