星の旅人たち
監督:エミリオ・エステヴェス
出演:マーティン・シーン/デボラ・カーラ・アンガー/ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン/ジェームズ・ネスビット/チェッキー・カリョ/レネ・エステヴェス/アンヘラ・モリーナ/アントニオ・ギル/オマール・ムニョス/エミリオ・エステヴェス
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3
【彼と息子の旅路】
カリフォルニアの眼科医トムに、フランスとスペインの国境にあるサン=ジャンから1本の電話が入った。旅に出ていた息子ダニエルが事故死したというのだ。遺体を引き取るため現地へ赴いたトムは、ダニエルがサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路を歩く予定だったと知る。息子の遺品と遺灰を携えて、気のいいオランダ人ヨスト、怒りを抱えたカナダ人サラ、スランプに陥ったアイルランド人作家ダニエルらと、トムは歩き始める。
(2010年 アメリカ/スペイン)
【理由がないから旅をする】
いま思いついた、wish and trash list、っていう造語。やりたいことをリストアップしたんだけれど、すぐにムリだと気づき丸めてゴミ箱に投げ入れられる、そんなメモのこと。で、自分にとってそのリストの筆頭は、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼だ。
宗教だとか精神だとか、そうした理由なしに、なぁんか「やってみたい」と思わせる“おこない”である。刑事さんが見せるスタンプフルの巡礼者パスポートだけで、十分に心ときめく。
はからずもその道行きを辿ることになったトムの姿を追う本作。最大の特徴は哲学的なセリフの数々だろう。
「人は人生を選べない。生きるだけだ」
「世の中いやなヤツばかり。敵を作る必要はない」
「宗教と信心深さは無関係」
まこと真理に思える言葉を具現化すべく、人それぞれの生きざまや背景、価値観、文化の多様性などを詰め込む。闘牛士に憧れて、でも父親の望みは弁護士になることで、いまは宿屋の主人。虐げられた民族の中にしっかりと培われている矜持。そんな“人と世界のいろいろ性”があふれる。
「Buen camino」って言葉(作中では「いい旅を」と訳されている)にも萌える。「Bon voyage」とか「Have a nice trip」とか「気をつけて」とか、何気なく慣用句的に放たれる「行ってらっしゃい」に、人の優しさがたっぷりあふれているのも、この世界のありかたなのだ。
作りとしては、お芝居中心。ちょっと説明的だけれど、丁寧な描写と演技でキャラクターの内面を浮かび上がらせていくようなイメージ。
しっとり感とユーモアのバランスに気を遣い、撮影では即興性も重視されている感じ。画面はアンダーで鮮度もやや低めだが、ロードームービーらしい軽快さはあり、『オズの魔法使』を想起させる展開も。
お芝居映画でありながら作り物臭さを薄めるための配慮や、エピソードの羅列だけに貶めず彼らの旅路を身近に感じさせる空気作りにも取り組んでいるように思える。
この旅に理由なんてつけるのは、彼らにだって無理なんだろう。自分の中に何か動機があったとしても、それを言葉で説明できるかどうかは難しい。巡礼証明書をもらう際、トムたちがみな口ごもったように。
たぶんトムは、ダニエルが何を考えていたのかを知るために、と同時に息子の遺志を継いでやろうとも思って、歩くことを決意した。より正確にいうなら「そういう理由で私は歩くのだ」と自らに思い込ませた。
でも、本当にそうなのか自信はなく、旅を完遂したとしてもそれが果たして自分や息子が望むことなのかも、よくわからない。
ああ逆にいえば、理由がないから旅をしたいと感じるのかも知れない。信仰のためとか精神的な理由のためとか、ちゃんと説明できる人なら、サンティアゴ巡礼以外にも自己実現の方策を見つけられるはずだし。
理由と答えとをいっぺんに手に入れたくて、それで人は歩いてみる。
本作の800kmにせよ『サン・ジャックへの道』の1500kmにせよ、それだけ歩いて何かが手に入るなら、よし。あるいは手に入らないとしても、それはそれでまたよし。なにしろ人は、いろいろなんだから。
●参考までに
日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会
http://camino-de-santiago.jp/
ここにある「嘘をついて『巡礼証明書』をもらうことについて」の部分がグっとくる。
●主なスタッフ
編集/リチャード・チュウ『ボビー』
美術/ビクトル・モレロ『トーク・トゥ・ハー』
衣装/タティアナ・エルナンデス『あなたになら言える秘密のこと』
音楽/タイラー・ベイツ『エンジェル ウォーズ』
音楽監修/ドンディ・バストーン『ファミリー・ツリー』
音響/グレン・T・モーガン『ストレンジャー・コール』
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