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2015/03/12

ぼくたちのムッシュ・ラザール

監督:フィリップ・ファラルドー
出演:フェラグ/ソフィー・ネリッセ/エミリアン・ネロン/マリー=イヴ・ボアガール/ヴァンサン・ミラール/セディック・ベンスリマン/ルイ=ダヴィッド・ルブラン/ダニエル・プルール/ブリジット・プパール/ジュール・フィリップ/ルイ・シャンパーニュ

30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3

【傷ついた子どもたち、大人たち】
 カナダ、モントリオールの小学校。ある朝、クラスの担任教諭が教室で首を吊って死んでいるのが見つかる。事件以来、第一発見者となってしまったシモンは周囲に対して攻撃的になり、偶然死体を見てしまったアリスは死について深く考えるようになっていた。新聞を見て代用教員に志願してきたのはアルジェリア出身のバシール・ラザール。生徒たちと優しく厳しく向かい合うラザールだったが、彼はある秘密を抱えているのだった。
(2011年 カナダ)

【考えさせるけれど、ちょっと薄い】
 オープニング。まずは小学校の日常を描き、そこから一気に非日常へと叩き落とす長回しが秀逸。
 以後、その場の音や光をありのままにすくい上げ、生徒たちの表情とラザールの戸惑いとを生々しく丁寧に拾い、ドキュメンタリー・ライクなタッチで教室の様子を紡いでいく。

 プリントを横に配るってのが新鮮。小学生が学校でダンスパーティーに興じるってのも日本じゃ考えられないよね。
 いっぽうで、うかうか生徒に触れることもままならない先生たち。ああ現場に流れる閉塞感ってカナダも日本も同じなんだなぁ。そんな環境の中で教師であり続けることって大変なんだと思う。

 個人的には体罰上等。セリフとしてチラっと出てくる「教科横断的」ってのはいわゆる総合学習=ゆとり教育の一環と考えられ、それは日本では失敗の烙印を押されちゃったわけだけれど、「自ら考える力を身につける」というコンセプトには大賛成だし、「生物界や社会の仕組みを多彩な角度から学ぶ」ような学習内容は歓迎すべきだと思う。
 ただ、価値観が多様化した時代、「ダメなもんはダメっ」と頭を叩くだけでは通用しなくなり、総合学習なんか指導する側にもそれなりのメソッドが不可欠なわけで、つまりは道徳的にも技術的にもキャパシティ以上のものが教師に要求されるようになって、それで崩壊しちゃったんだろうな、と思う次第。あと“ゆとり”なんてネーミングもマズかった。

 でも実は、それら……多様化する価値観に対応する道徳観念のフレキシビリティ、大企業の事業部長クラスの指導力、イベント会社並みのリアルタイム運営能力、プロデュースセンス、コーディネート能力……って教師が当たり前のように身につけているべきものなんだと信じている。
 本作では「専門家を呼びましょう」ってセリフが出てくるけれど、教師こそが子どもを育て、守り、導く専門家であるはずなのだ。

 昔から“教師は世界で最も難しい職業”と考えているのだけれど、難易度は日に日に増しているんだろう。ラザールのように、まったく異なるメソッドの持ち主を放り込んでみるのは1つの手かも知れない。
「教室は絶望をぶつける場じゃない」
 絶望的な出来事を経たうえで、希望とともに“さなぎ”と向き合う覚悟を持つにいたった、そんな教師を。

 ん~、でも、こんなふうにいろいろと考えさせてくれる割には、映画としてのまとまりはイマイチだと感じる。
 妻子を奪われ、国を捨てざるを得なかったラザール。彼が“難民として認定されること”に覚える安堵感と寂寥感のミックス(だって、現実を考えればラザールは、それを求めなければ生きられないのだが、理想をいえば何人たりとも故郷で危険に曝されるべきではないのだし)はとても興味深い。その不安の中で妻の遺志を継ごうとするのは当然だろう。
 ただ、彼のアイデンティティが授業の内容や主張へと有機的に結びついてこないこと(少なくとも“彼だからこそできる授業”を鮮やかに視覚化・体感化できているとはいえない)が、最大にして決定的な不足。字幕が適確じゃないっていう気もするが。

 カナダのアカデミー賞であるGenie Awardで、作品、監督、主演男優、脚色、編集という主要部門を総なめ。たぶん、フランス語がわかればもうちょっと“感じられた”のかも知れない。
 で、アリス役のソフィー・ネリッセちゃんは、この若さで助演女優賞を獲得。完全に納得。シモン役のエミリアン・ネロン君も上手いんだけれど、彼が“上手い子役”であるのに対してソフィーちゃんは“作品のクォリティを左右する女優であり、オンナ”なんだもん。
 今後スクリーンでバンバンと見かけることになる逸材だと思うので、要チェック。

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