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2015/03/02

アメリカン・スナイパー

監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー/ジェイク・マクドーマン/ルーク・グライムス/ケヴィン・レイス/コリー・ハードリクト/カイル・ガルナー/エリック・ラディン/レナード・ロバーツ/ティム・グリフィン/ルイス・ホセ・ロペス/ブライアン・ハリセイ/サム・ジェーガー/チャンス・ケリー/ナヴィド・ネガーバン/サミー・シーク/ミド・ハマダ/キーア・オドネル/ベン・リード/エリース・ロバートソン/マーネット・パターソン/マックス・チャールズ/マデリン・マクグロウ/コール・コニス/ルーク・サンシャイン/エイダン・マクグロウ

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【あらすじ……幾度となく戦地へと赴く伝説の狙撃主】
 ロデオに明け暮れていたクリス・カイルは、テロで米国民が犠牲となったのを機に海軍へと入隊、ネイビー・シールズの厳しい訓練を経て狙撃兵となる。タヤとの挙式を終えて間もなくイラク戦線へと赴いたクリスは、仲間の命を何度も救い、“伝説”とまで呼ばれるようになる。やがて敵にも存在が知れ渡り、その首には賞金がかけられるのだが、タヤの心配をよそに出征を繰り返すクリス。心にあるのはただ、仲間を守りたいという思いだった。
(2014年 アメリカ)

【内容について……戦争映画の現在地】
 声高に「戦争反対」と叫ばないのが近年の戦争映画。本作も然り。
 ストーリー、展開はシンプルで、基本的にはクリスの所属部隊(および同行部隊)の任務・行動を追うだけ。大局は割愛され、処刑人や狙撃手ムスタファの捕獲・殺害といった目の前のミッションを遂行していく様子が、淡々(といっても激しい戦闘はあるのだが)と描かれる。

 作戦の詳細や人員配置、それぞれの役割なども観る側に説明されることはないものの「クリスが撃たなければ味方が撃たれる」という構図が貫かれており、あるいはクリス自身も銃撃戦の中に突入。要は“殺るか殺られるか”の緊迫が全編を覆うことになる。

 もちろん、そこでは仲間が銃弾に斃れることもあるのだが、クリスがことさらに感情をあらわにすることはない。帰国後「命を救ってもらった」と感謝される場面でも、表情を変えず、むしろ戸惑う姿を見せるのが印象的だ。
 従軍当初のいくらか柔和な様子から、少しずつ確実に彼は“無”になっていく。タヤは「心はアメリカに戻ってきていない」というけれど、だからといってイラクに置いてきたわけでもない。喪ったわけでもないように思う。
 たぶんこれはクリスが身につけた自己防衛術。無、マシンにならなくては務まらない任務だったのだ。

 敵はテロリストだけではない。自らを無に置かなければならないという緊迫した状況もまた彼らを蝕む。戦場で必要とされるメンタリティと、「家族や社会との関係を守らなければならない」という価値観との鬩ぎ合い、そのストレスも彼らを苦しめたはずだ。そして、攻撃された者=同朋ですら脅威となりうる皮肉。
 そもそも「戦争しなければならない状況」こそが、クリスとその家族にとっての敵だったともいえる。

 ラスト、「なぜ、何のため、誰のためにクリスは戦ったのか」と考えざるを得ないわけだが、彼も口では「仲間を救うため」といいながら、実はそんなことを信じていなかったのではないかとも思う。聴き心地のいい理由を、ただ当てはめただけ。
 理由や動機すらも無へと還すことが、戦場で生き抜く術だったのかも知れない。

 そういった、戦争(兵士)の真実をジワリと伝える……ただし前述の通り「だからダメなのだ」と叫ぶのではなく、クリスの姿そのもののように、静かに読み取らせる……のが3・11以後の戦争映画であり、その現在地が本作、といったところだろうか。

【作りについて……演出力と芝居力の信頼関係】
 爆破や砂嵐、壁への着弾、人体への被弾などをリアリティたっぷりに再現したSFXが上質。戦場の作り込みも立派だ。
 ムスタファとの“対決”というエンターテインメント要素やスリルを盛り込みながらも、あくまでも描きたかったのは「クリス・カイルという米国軍人の生きざま」であり、そこから逸脱しなかったのは、バトルと人物描写のバランス、すなわち演出や編集の力によるものだろう。

 そして、ブラッドリー・クーパーの芝居力だ。最初は「主役のはずだけれど、どこに出てる?」と感じたほどの変貌ぶり。肉づきどころか輪郭や骨格まで変えたんじゃないかと思うくらいにビルドアップし、ややくぐもったセリフ回しや口の動かし方の工夫などで見事にクリス・カイルになり切る。

 またタヤ役のシエナ・ミラーは、全編を通じてあまり魅力的じゃないのだけれど、唯一、長男の出産シーンでは美しい。本作のテーマ=“死”と対をなす“生”を象徴する場面で人を輝かせるところに、演じる者にも撮る側にもメイクにも、この映画をどこへ向かわせたいのかという点で共通の想いがあったんじゃないだろうか。
 作り手が同じ方向を向いてこの映画に臨んでいるように感じられて、印象深い場面である。

●主なスタッフ
撮影/トム・スターン
編集/ジョエル・コックス
編集/ゲイリー・ローチ
美術/ジェームズ・J・ムラカミ
衣装/デボラ・ホッパー
ヘアメイク/パトリシア・デハニー
音響/バブ・アスマン
音響/アラン・ロバート・マーレイ
SFX/スティーヴ・ライリー
VFX/マイケル・オーエンス 以上『ヒア アフター』
美術/シャリーズ・カーデナス『実験室KR-13』
ヘアメイク/ルイーザ・アベル『インターステラー』
SFX/ブレンダン・オデル『デビル』
VFX/フィリップ・フェイナー『人生の特等席』
VFX/マット・セックマン『ブッシュ』
スタント/フェイカル・アトウギ『インセプション』
スタント/ジェフ・ハバースタッド『ファースト・ジェネレーション』

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