バケモノの子
監督:細田守
出演:役所広司/宮崎あおい/染谷将太/広瀬すず/山路和弘/黒木華/宮野真守/大野百花/山口勝平/諸星すみれ/長塚圭史/麻生久美子/リリー・フランキー/大泉洋/津川雅彦
30点満点中17点=監3/話2/出5/芸4/技3
【あらすじ……化け物に育てられた少年は】
母の死によって行き場を失くし、渋谷を彷徨う蓮。彼に声をかけたのは、化け物の世界『渋天街』で次期宗師の座を猪王山と争う熊徹だった。九太と名づけられた蓮は熊徹の弟子となり、ふたりはいがみあいながらも研鑽を積んでいく。8年後、ひょんなことから人間世界へ戻った蓮は女子校生の楓と出会って勉強の楽しさを知り、父とも再会。が、化け物たちが人間の特性として恐れる“心の闇”を自分も抱えていることを蓮は知るのだった。
(2015年 日本 アニメ)
【内容について……直球メッセージも、お話としては雑】
渋天街に足を踏み入れるあたりの展開は『千と千尋の神隠し』で、その後の絵柄は犬版の『シャーロック・ホームズ』みたい。クライマックスのクジラは『ライフ・オブ・パイ』だし、香港カンフー映画風味がありーの幼い恋もありーのの冒険活劇。なかなかにカオス。
でも、メッセージとしては直球、どストレート。
居場所がない。本当の自分を理解してもらえない。そんな孤独感は人間の中で“心の闇”として広がって、他者を傷つけてしまう。自分の心の闇に打ち勝つためには、ひとりじゃないと信じられること、側にいて味方になってくれる存在が必要であり、そういう関係を築いていくことが大切だ。
心の闇を、単なる邪悪さではなく「若さ」「弱さ」として捉えている雰囲気もある。人間だけでなくバケモノたちも、俺こそ最強、俺ならできる、アイツになんか負けないと驕ってしまう「若さ」「弱さ」を抱えていて、そのせいで窮地を呼んでしまう。周囲の支えと理解、言葉なき導き、切磋琢磨によって自らの「若さ」「弱さ」を見直し、本当の意味で強くならなければ破滅に至るだろう。
てなことを、わかりやすく伝えようとしたためか、どうも状況説明のクドさが気になる。「お前(私)はこれこれこうだ」と、蓮や楓、一郎彦の生い立ちの提示はセリフに頼っているし、事態の打開策もいちいち説明、不要な独白も多い。
これまでの細田作品にあった「あっ」「ああ」といった“読み取らせ”が消えてしまっているのが、かなりの不満。「意味は自分で見つけろ」といいつつ、グイグイと押しつけてくるかのよう。
一郎彦に関しての描写、あれだけのバケモノたちに混じって九太が素質を開花させていくことに対するエクスキューズ、ぐうたらしているだけではない多々良の様子、チコの見せ場……などはもっとあって然るべきだし、熊徹の弟子たちのその後の処遇は放ったらかしで、全体に雑。
人間世界に戻ってからの展開は性急で、あらかじめ用意しておいたエンディングへ向かって無理やり進んでいく印象すら残る。
本来は30分×13話くらいでジックリ描いてもいい内容だったんじゃないだろうか。現状では、ちょっと稚拙に思えてしまう脚本であり、ストーリーである。
【作りについて……観る愉しさ、聴く魅力】
冒頭部、炎CGの動きは実に鮮やか。本編のアクションも丁寧に描かれているし、闘技場の観衆モブが細かく動くところなんか身震いする。
画面構成的には例によって「世界の中に人物を置く」ことが徹底されており、しかも渋谷をリアリティたっぷりに再現。僕らのいる人間世界と蓮の住む世界が地続きで、かつ渋天街が隣り合わせに存在するということを表現するためには絶対に必要な手法だ。
これらを“観る”愉しみが本作の魅力の3割を占めるとすれば、残りの7割は“聴く”こと、すなわち声。
安定しすぎの役所広司と大泉洋。声芝居向きだなぁと感じさせたのが津川雅彦で、染谷将太の芯の太さ、宮崎あおいの揺らぎも上々。山路和弘はジェイソン・ステイサムやヒュー・ジャックマンとは少し変化をつけて「強くありたいと望む者」の声になっているのが素晴らしい(実はてっきり石橋凌だと思っていた)。
黒木華にせよ麻生久美子にせよリリー・フランキーにせよ、全体として声に色気のある人が起用されていることを感じる。
とりわけ広瀬すず。もう声だけで「真っ直ぐな美少女」を感じさせる質感とお芝居が見事。園崎未恵や冠野智美あたりに通ずる「幼さの中に秘めた情熱と懸命さと、自分が目指す大人への道筋を歩もうとする確固たる信念とちょっぴりの不安」が光っていて、キャラクターと合致しているだけでなく個人的にもかなりの好みだ。
観る、聴くのクォリティの高さを思うと、つくづく“読む”部分=シナリオ/ストーリーの甘さが惜しまれる。
●主なスタッフ
脚本/細田守
作画監督/山下高明
音楽/高木正勝
CGディレクター/堀部亮
編集/西山茂 以上『おおかみこどもの雨と雪』
作画監督/西田達三『サマーウォーズ』
美術/大森崇『風立ちぬ』
美術/髙松洋平『借りぐらしのアリエッティ』
美術/西川洋一『崖の上のポニョ』
美術設定/上條安里『ALWAYS三丁目の夕日』
衣装/伊賀大介『プリンセス トヨトミ』
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