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2015/09/29

アニマル・キングダム

監督:デヴィッド・ミショッド
出演:ジェームズ・フレッシュヴィル/ベン・メンデルソーン/サリヴァン・ステイプルトン/ルーク・フォード/ジョエル・エドガートン/ローラ・ウィールライト/ジャスティン・ロズニアク/ミラー・フォークス/スーザン・プライアー/クレイトン・ジェイコブソン/ダン・ワイリー/ジャクリーン・ブレナン/アンディ・マクフィー/アンナ・リス・フィリップス/アンソニー・ヘイズ/ガイ・ピアース/ジャッキー・ウィーヴァー

30点満点中16点=監3/話2/出4/芸4/技3

【そこは野獣の王国だった】
 薬物の大量摂取で母が死亡。残されたジョシュア(ジェイ)は疎遠になっていた祖母スマーフを頼る。そのコディ家、長兄ポープ、次男クレイグ、ジェイと歳の近い三男ダレンという三人の叔父と彼らの友人バズは強盗や麻薬密売を生業としており、警察の特捜班から徹底的にマークされていた。やがてジェイ自身も犯罪に引き込まれ、さらには警察とコディ家による復讐の連鎖を味わうこととなる。誰にも守ってもらえないと感じたジェイは……。
(2010年 オーストラリア)

【何者でもない彼の行く末】
 日本公開時に用意されたらしい「犯罪がつなぐ、家族のきずな。」って宣伝文句がなんともヒドイんだが、たとえば惨たらしい戦争映画に「この素晴らしき世界」というコピーを逆説的につけたようなものだと考えれば納得できるかも知れない。

 陰影の濃い画面に、静かで低くてノイジーなサントラが乗っかる。セリフの多くがムダ話や戯れで、音楽の急なオン/オフも頻繁。笑える要素は一切といっていいほどなく、ただただ破滅的な空気に覆われている家族。
 3人の叔父とバズを演じた4人がもう、ホントに強盗しそうな連中に見える。オスカー・ノミネートのジャッキー・ウィーヴァーも、無責任な愛で事態を混ぜっかえすビッグ・ママを好演。これがデビューらしいジェームズ・フレッシュヴィルは、いやはや確かに、モノゴトを深く考えていない、まだ何者でもない青年そのまんまだ。

 そうして日常(といってもここでの日常は犯罪者のものなんだけれど)の中の突然の狂気が、未成熟な人間の中にある悪への憧れと恐れが、ゆっくりと描かれる。

 冒頭のナレーションでも触れられて本作のテーマともなっている“恐れ”だけれど、それは死とか有罪判決とか孤独とかが呼び起こすものではなくって、少なくともジェイにとっては、自分自身が取るに足りない生き物であると自覚することに対する恐怖であるだろう。
 でも彼は、何もできない。何かをなせるほどの大人でも男でもない。最終的に彼が取った行動もまた愚か以外の何物でもない。そんな暗ぁいお話。雰囲気、肌触りとしては『BOY A』ダルデンヌ作品あたりに似ているだろうか。

 監督・脚本は『メタルヘッド』の人で、なるほど、怒りや悲しみの中であがき苦しむ様子をべっとり突きつけてくる点で、あの作品にも近い。ただしあちらは「背景の感じさせかた、心情の匂わせかた」の上手さや、後悔の向こう側にかすかな希望もあったのに対して、こちらはもう、力のない存在=強者に守られるしかない者に、救いの手を差し伸べないまま。
 しかも「八つ当たりがうちのやりかた」なんて、およそ観る者にシンパシーなど感じさせない価値観と空気感を払拭しないままで、後味の悪さを残す作品(それが狙いなのだろうけれど)である。

●主なスタッフ
衣装/カッピ・アイルランド『キル・ビル』
SFX/ピーター・スタッブス『かいじゅうたちのいるところ』

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