キングスマン
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース/タロン・エガートン/マーク・ストロング/ソフィー・クックソン/ソフィア・ブテラ/マーク・ハミル/サマンサ・ウォマック/ジェフ・ベル/ジャック・ダヴェンポート/エドワード・ホルクロフト/ニコラス・バンクス/ジャック・カットモア=スコット/ニコラス・アグニュー/ローワン・ポロンスキ/トム・プリオー/フィオナ・ハンプトン/ビョルン・フロベル/ハンナ・アルストロム/コーリー・ジョンソン/モーガン・ワトキンス/アレックス・ニコロフ/サミュエル・L・ジャクソン/マイケル・ケイン
30点満点中19点=監3/話4/出4/芸4/技4
【あらすじ……世界の平和を守るのは、彼ら】
サヴィル・ロウの紳士服店『キングスマン』。その実体は、世界の平和を守るべく結成された秘密組織の本部だ。キングスマンの一員ランスロットが殺害されたため、新人の養成がスタート。ガラハッドことハリーがスカウトしたのは、かつて自分のミスで死なせてしまった部下の息子、エグジーだった。ランスロット殺害の首謀者ヴァレンタインに迫るガラハッドと、養成試験で頭角を現すエグジー。ふたりは人類滅亡の危機と対峙することになる。
(2014年 イギリス)
★ややネタバレを含みます★
【内容について……スピード感+凝縮感+意外性】
文句をつけたくなるところはいろいろあって、まとめればそれは“人”ということになる。
全体に個々のキャラクターは掘り下げ不足というか、設定が詰め切れていない印象。手練れのスパイであるはずのハリーは軽率な行動に終始し、エグジーが抱く母親への愛情や感謝は説得力が薄く、ヴァレンタインの思想のバックグラウンドはスルー。オジサマ風味は強いものの、若者層を引き込むための“カワイイ”要素は不足していたように思う。
新人の選抜シークエンスも、日本のマンガやアニメならもっと各人物の特性を生かした見せ場を作るだろう。現状では、エグジーやロキシーが持っていたはずの優れた資質、他の候補者たちの人となりや特徴などが、かなり省略されていたり乱暴だったりする印象だ。
ただし。各キャラクターや相互関係、動きなどは端折るけれど「なんとなく想像させる」だけの描写はしっかりとクリア。また新人選抜(エグジーのパート)と対ヴァレンタイン(ハリーのパート)とを平行して描き、しかも視点をエグジーやハリーだけに固定せず、マーリンやヴァレンタインなどにも拡大。それらのおかげで、密度と広がりのあるストーリーがビュンビュン疾走していく感覚を味わえる。
とりわけ「なるほど、そういうパターンね」とニヤリを誘う王道的な展開から、さらに半回転させる「!」的な流れがポイント。普通だったら生き残るはずの者が死に、逃げ出すところで引き返す。驚きを引きずったまま次の展開へと突入し、退屈する暇などない。
作中で「これは映画じゃないからドラマチックなことは起こらない」などと言い、確かに既存の映画にはなかった文法で話は進むのだけれど、だからこそドラマチックになってしまうという逆説的なストーリーテリング。
この映画って色気担当がいないよなぁ、という不満と「あ、この場所ってアソコだよね。あの人に重要な役割が与えられるわけか」という気づきとを予想外の接着剤でくっつけて、観る側の期待を半回転させて着地してしまうのだから恐れ入る。
つまり、欠けを補って余りあるほどのスピード感と凝縮感、そして意外性にあふれている。なんかもう無茶苦茶なんだけれど、その無茶苦茶がちゃんとワクワクハラハラニヤニヤフムフムにつながっているのが楽しい。
世界平和とか人類ウイルス論とか行動主義などを持ち出しつつ、重苦しいテーマ性なんかうっちゃっておいて、ひたすら「どうだっ、面白いだろ!」で押し通す潔さが素晴らしい。
以下蛇足。作中「snob」というワードは当然ながら「俗物」と訳されているのだけれど、どうも自分が考えている俗物&ハリーのいう俗物と、日本語における俗物との間にイメージ的乖離があるように感じた。
まぁ世間一般的には、大半の辞書で採用されている「俗物=名声や利益などに心を奪われる、つまらない人」という認識なのだろう。
けれどハリーは「まだ未熟なのに一人前のフリをしている」自身への戒めとして「snob」を用いている印象。自分としては「物事の本質に興味を持たず、思索もせず、表面的な事象と瞬間的な享楽と明日には忘れてしまうゴシップだけを受容し、『もっともらしい意見を述べる』ことによって自己の存在と特別性を立証しようとする人」という感覚。
ああでも、ヴァレンタインに同調した連中は、上記すべての意味において「snob」であることは確かだな。
【作りについて……キャスティングの妙とアクションの切れ】
“人”の部分は欠けているのだけれど、本作の魅力もまた“人”。
まずは固定イメージのないタロン・エガートン、ソフィー・クックソン、ソフィア・ブテラといった(ほぼ)新人を中心に配置。
さらに、静的なはずのコリン・ファースが目一杯に動き、『マーベル』シリーズでは正義の総元締めを務めるサミュエル・L・ジャクソンに「インテリジェンスのある悪役ブラザー」という役を与え、逆に悪役にしか見えないマーク・ストロングは新人たちを導き、絶対不動の存在であるはずのあの人はコロっと悪者に籠絡されてしまう。
このヒネったキャスティングのおかげで先の展開は読みにくくなる。
もちろんアクションも見どころ。たぶんスピードはコントロールされているんだろうけれど、ハリーの大立ち回りの鋭さは絶品。バリエーション豊富な格闘が連続し、それを近接撮影の長回しで見せ切る教会シーンなんか、迫力と速さとわかりやすさが全部充足していて、肉弾アクションの1つの到達点だと思える。あの『キック・アス』ですら確実に超えているんだから。
銃やら傘やらアレやらを使ったエグジーの活躍シーンもマル。
思えば『スパルタンX』の頃は「やっぱホンモノの殴りあいって凄ぇ」ってだけでコーフンしていたんだけれど、いまや『ボーン』シリーズとかティムール・ベクマンドルフ作品とかトム・クルーズとかゾンビ映画とか、説得力のある動きとユニークなアイディアをふんだんに盛り込み、それをスピーディに畳みかけて呼吸することを許さないアクションが当たり前。そんな中で素直に「凄ぇ」と感じさせるのだから、それはスゴイことなのだ。
秘密道具の数々、地下基地から飛び立つジェット機、降下訓練で使われる輸送機(Short SC.7 Skyvanという機種らしい)のフォルムなど、スパイ映画らしい美術のニギヤカさも上々だ。
あと気になったのは、各所のレビューでも触れられているキューブリック風味。『博士の異常な愛情』や『シャイニング』がフィーチャーされているのが微笑ましい。
●主なスタッフ
脚本/マシュー・ヴォーン
脚本/ジェーン・ゴールドマン
編集/エディ・ハミルトン
編集/ジョン・ハリス
音楽/ヘンリー・ジャックマン
音響/マシュー・コリンジ
スタント/ブラッドリー・ジェームズ・アラン
格闘/ギレルモ・グリスポ
音楽監修/イアン・ニール 以上『キック・アス』
撮影/ジョージ・リッチモンド『戦火の馬』
美術/ポール・カービー『キャプテン・フィリップス』
美術/アンディ・トムソン『ブラザーズ・グリム』
衣装/アリアンヌ・フィリップス『ナイト&デイ』
ヘアメイク/クリスティン・ブランデル『アバウト・タイム』
音楽/マシュー・マージェソン『スカイライン-征服-』
SFX/スティーヴン・ワーナー『タイタンの逆襲』
VFX/スティーヴン・ベッグ『007/スカイフォール』
VFX/マット・カズミール『キャリー』
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