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2015/12/21

崖っぷちの男

監督:アスガー・レス
出演:サム・ワーシントン/エリザベス・バンクス/エドワード・バーンズ/タイタス・ウェリヴァー/アンソニー・マッキー/ジェイミー・ベル/ジェネシス・ロドリゲス/キーラ・セジウィック/マイケル・リー・ローレンス/エド・ハリス/ウィリアム・サドラー

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【彼はなぜ、そこに立ったのか】
 無実を訴えながらも投獄された元警官ニック・キャシディ。父の葬儀の際に騒ぎを起こして脱走した彼は、やがてNYのホテルに姿を現す。「潔白を証明する」と高層階の窓の外に立つニック。交渉人として指名されたマーサー刑事は、自殺騒ぎで騒然とする街を見下ろしながらニックと会話を続け、この行動には何か隠された理由があると推察する。その頃、ニックの元相棒アッカーマンやニックの弟ジョーイらもそれぞれの動きを見せて……。
(2012年 アメリカ)

【構成力とセンスがあれば面白くなるという見本】
 監督(デンマークのドキュメンタリー監督ヨルゲン・ロスの息子で、父の仕事を手伝っていた模様)にとっては初長編、脚本家は主にTV畑でB級サスペンスを書いていた人のようだ。いわば過去実績はゼロに等しいんだけれど、このセンスは買える
 想像していたより真相そのものはシンプル、それでいて強引、けっこう都合がよくって、ハラハラを生むために無理やり用意しましたよ的な設定・展開だ。でも、上手く仕上げてある。

 飛び降り騒ぎの裏にある企みや過去にあった出来事の真相を伏せたままでストーリーは進むのだが、伏せてあることのうち何をどのタイミングで明かし、次の展開へどうつなげていくか、その構成が適確
 ニックとマーサー、指令車のマーカス、ジョーイとアンジー、アッカーマン、雑踏とTVリポーター、そして事件のカギを握る不動産王イングランダーと、6極の出来事を折り重ねるように連ね、やがて1つに結びつける多重性構造の物語。それによって「どうせニックは助かるんでしょ」という予感を上手に解消し、テンポの良さとスリルとを生んでいる。

 上述の通り途中までニックの狙いは観客にすらわからないのだけれど、不思議と彼らに感情移入し、最後まで見届けたいと思わせる雰囲気作りも見事だ。部屋の中から外へと移動したり、俯瞰からクローズアップまでアングルは多彩で、そうしたカットを丁寧に重ねることで高さや怖さや緊張感、リズムとスピード感を呼ぶ。低音を繰り返してサスペンスを煽る。作りの面で自然と映画世界に引き込む技を感じさせる。

 そこではキャラクター設定と、キャスティングも一役買っている。
 昨今では「ニックは実は悪人」というオチも考えられるわけだが、まずは信じてみようと思わせる懸命さをサム・ワーシントンが漂わせる。エリザベス・バンクスは依然として美形であるうえに、彼女が演じるマーサーは頭の切れも鋭く、安心して「この先の展開とニックの運命を彼女の頑張りに託してみよう」と観る者を誘導する。
 エドワード・バーンズやタイタス・ウェリヴァー、エド・ハリス(かなり痩せたように見えるんだけれど体調は大丈夫なのか)といった渋いオジサマがたが配されて物語を引き締め、ジェイミー・ベルとジェネシス・ロドリゲス(色っぽくてカワイイ)、キーラ・セジウィックあたりは軽快。
 で、これらの各人物、それぞれに短くって遊び心に満ちたセリフが用意されていて、ナチュラルに人となりが浮かび上がってくる、という描きかたが実にニクイ。

 シンプルだったり強引だったり都合がよかったりしても、構成次第、ここにこだわれば面白くなるというセンス次第で、いい映画になるという見本。評判はそれほど高くないようだけれど、ハラハラしながら、「ああ、そういうことね」とニヤリとしながら、気持ちよく見られる秀作だろう。

●主なスタッフ
撮影/ポール・キャメロン『トータル・リコール』
編集/ケヴィン・スティット『サロゲート』
美術/アレック・ハモンド『フライペーパー!』
衣装/スーザン・ライアル『RED/レッド』
音楽/ヘンリー・ジャックマン『ファースト・ジェネレーション』
音響/ジョン・ジョンソン『世界侵略:ロサンゼルス決戦』
SFX/コンラッド・V・ブリンクJr『ブラック・スワン』
VFX/リチャード・キッド『トランスフォーマー/リベンジ』
スタント/スティーブン・A・ポープ『ニューイヤーズ・イブ』

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