リンカーン弁護士
監督:ブラッド・ファーマン
出演:マシュー・マコノヒー/マリサ・トメイ/ライアン・フィリップ/ジョシュ・ルーカス/ジョン・レグイザモ/マイケル・ペーニャ/ボブ・ガントン/フランシス・フィッシャー/ブライアン・クランストン/トレース・アドキンス/ローレンス・メイソン/マルガリータ・レヴィエヴァ/ペル・ジェームズ/シェー・ウィガム/キャサリン・メーニッヒ/マイケル・パレ/ミカエラ・コンリン/ロジャー・ベイカー/マッケンジー・アラジェム/ウィリアム・H・メイシー
30点満点中18点=監4/話3/出5/芸3/技3
【ハメられた弁護士】
小悪党どもからの依頼で、愛車リンカーンをオフィス代わりに忙しく動き回る弁護士ミック・ハラー。違法すれすれの手段も厭わず、金のある相手からふんだくることも平気な彼は、不動産業者の御曹司ルイス・ルーレの弁護を引き受ける。娼婦への暴行で起訴されたルイスは潔白を主張しており、ミックや調査員のフランクもその線で弁護のための材料を固めていく。が、この一件にはミックが過去に関わったある殺人事件の真相が絡んでいた。
(2011年 アメリカ)
【派手ではないが、しっかりまとめ切る】
やたらと豪華なキャスト。で、登場する全員が「いい芝居するぞ」という熱気に満ちていて、実際にできているというイメージ。
ライアン・フィリップは自らのイメージを逆手に取った役柄を好演し、ジョシュ・ルーカスはやられ役をまっとう、マイケル・ペーニャは短い出番で鮮烈な印象を残す。マルガリータ・レヴィエヴァって、どこかで観たと思ったら『リベンジ』のアマンダか。困惑顔が似合う。ウィリアム・H・メイシーは相変わらず、トボけているように見えて実は仕事ができるっていう感じが秀逸だ。
もちろん主演マシュー・マコノヒーの、キレ者ぐあいと人たらしの才覚、弁護士としての職務・責任と正義感の間で揺れる様子も素晴らしい。
そのマコノヒー=ミックが抱く「無実の依頼人は恐ろしい」という想いが物語のキーワード。何気なく発せられるセリフだが、今回の事件において重大な意味を持ち、またミックが司法制度と正義について深く考える一面も持っていることを示し、ああ彼が小悪党ばかり相手にするのは有罪確実だからなのか、要するに弱い人間なのだな、などと気づかせる役目も果たす。
で、その「無実の依頼人」に隠された企みをミックがどう潜り抜けるかがストーリーの主軸であるわけだが、それほど派手な展開ではなく、この手の映画では大きな見せ場となるはずの法廷戦術部分は最小限に抑えられ、奇策や大どんでん返しも抜き、ミックの手法がある程度観客に前もってわかるよう丁寧に進めていく。それでいて興味深く見せるテンションの保ちかたは、なかなかのもの。
弁護士として正当に(かなりの幸運というか、ご都合主義に恵まれている面はあるけれど)、それ以外にない解決へ判決と周囲の人々とを導いていく流れは、アクロバティックなものを期待すると肩透かしだが、そのぶんリアルで誠実。無駄のないキャラクター配置も物語を引き締めていて、ああ収まるところへ収まったのだな、という感想を抱かせる。
ヒップホップを多用することで醸し出される“ストリート感”=何でもアリだけれど仁義もある、という雰囲気。西海岸っぽいギラっとした質感で捉えられた画面。回想への遷移などに見られるシーンのつなぎのバリエーション。キーとなるアイテムを焦らしてから見せる手法。そうした作りの面でも手堅さ、誠実さにあふれている。
法廷モノとしてはインパクトに欠けるかも知れないが、全体的なバランスの良さで面白さを感じさせる秀作。たとえ地味でもしっかりと「法の中でどう戦うか」というテーマでまとめ切ってしまうこういう作品って、“ひとり暮らしの大人の男の住まいの玄関にはバットがあることが自然な文化”=アメリカだからこそできるんだよなぁ、なんて、妙な感慨も抱いてしまうわけである。
●主なスタッフ
撮影/ルーカス・エトリン『世界侵略:ロサンゼルス決戦』
美術/シャリーズ・カーデナス『実験室KR-13』
衣装/エリン・ベナッチ『ドライヴ』
音楽/クリフ・マルティネス『コンテイジョン』
音響/スティーヴン・ティクノール『トータル・リコール』
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