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2016/01/08

わたしを離さないで

監督:マーク・ロマネク
出演:キャリー・マリガン/アンドリュー・ガーフィールド/キーラ・ナイトレイ/イゾベル・ミークル=スモール/チャーリー・ロウ/エラ・パーネル/サリー・ホーキンス/ナタリー・リシャール/デヴィッド・スターン/アンドレア・ライズブロー/ドーナル・グリーソン/シャーロット・ランプリング

30点満点中16点=監3/話2/出4/芸4/技3

★ネタバレを含みます★

【提供者として生きる彼女たち】
 聡明快活なキャシーは、親友ルース、心優しいがイジメられっ子で癇癪持ちのトミーらと寄宿学校「ヘールシャムハウス」で学んでいた。ここにいる生徒たちは、みな誰かのクローン。来たるべき臓器提供の日に備える身だ。トミーに心を寄せるキャシーだったが、トミーはルースと交際することになり、3人の関係にも変化が訪れる。やがて彼女らは卒業、コテージと呼ばれる施設へ。キャシーは“介護人”としてその日を待つのだが……。
(2010年 イギリス/アメリカ)

【映画としての面白味には乏しいが】
 設定といいキャシー・Hという呼び名といい『アイランド』のデジャヴュであるわけだが、どちらが元ネタというわけではなく、『アイランド』も本映画の原作小説も2005年生まれ。不思議なものだ。
 あちらがSFアクション・エンターテインメントだったのに対し、こちらは不条理な社会システムの中で生きる哀しき人々の想いを淡く寂しく綴っていて、『ガタカ』あたりに近い内省的な雰囲気。

 内省的なんだけれど、喋り過ぎという印象も強い。「これこれこう考えたから」とか「こうしようと思う」とか、行動の意味や心情をいちいちセリフとナレーションにしちゃう。“みせる”より“かたる”の重視
 だから、陰影豊かな映像、そこにマッチする湿度のある音楽、科学の発展や倫理観の飛躍的再構築の代償として「時が止まった」ように感じさせる美術など、見た目のシッカリ感に反して映画としての面白味には乏しい。
 設定としてはかなり無理筋であるうえ、科学(医学および社会学)部分のディテールは放り投げてあるため、SF的な面白さも薄めだ。

 ワクワクさせられるとすれば出演陣か。悩める美貌が儚げなキャリー・マリガン、クモ男よりやっぱり捻じ曲げられた生が似合うアンドリュー・ガーフィールド、奔放さの陰に冷たい悔恨を隠すキーラ・ナイトレイと、中心になる3人はそれぞれに力演。
 彼女らの若年期を担当したイゾベル・ミークル=スモール、チャーリー・ロウ、エラ・パーネルも各々が達者で美しい。どうやら各方面で「誰それの若かりし頃」に起用されているらしく、今後に期待したい面々だ。

 で、内容。そのまんま「このシステムの中で生きる哀しみ」を描く作品と受け止めるより、なんらかの比喩として考えるべきなのだろう。

 長生きしたいという人の欲望は神の領域を侵し、倫理観を刷新させ、クローンからの臓器移植を実現させた。キャシーやトミーは誰かの“パーツ”にすぎないわけだが、現実世界の僕たちも似たようなもの。誰か、というより社会そのものの“パーツ”だ。

 何かを残したい。そう考えて生産や創作に励む僕ら。一回こっきりでお役御免になったり、ただ消費される存在に身をやつす未来を恐れながら。
 仮に自らの存在証明を、誰かの体内に、あるいはどこかに、はたまた何かに刻み込むことができたとしても、そんなもの、数年か数十年で、この世から消えてなくなるのに。
 にもかかわらず、僕らは生み出そうと、何かを残そうと足掻く。ときには何のためにそうしているかわからなくなる。「こんなに感情豊かに生きているんですよ。だから、この世に存在することを認めてください」と身勝手なアピールへと走ることもある。

 特別な設定など持ち出さなくとも、人はいつでもどこでも同じように、世界のあちこちの小さな片隅で、癇癪を起こしたり悟ったふりをしながら、生産と創作を続けていくものなのだなぁ。と、そんなことを考えるのである。

●主なスタッフ
脚本/アレックス・ガーランド『サンシャイン2057』
撮影/アダム・キンメル『ラースと、その彼女』
編集/バーニー・ピリング『ワン・デイ』
美術/マーク・ディグビー『ラスト・ターゲット』
衣装/レイチェル・フレミング『トレインスポッティング』
衣装/スティーヴン・ノーブル『トライアングル』
ヘアメイク/シアン・グリッグ『28日後…』
音楽/レイチェル・ポートマン『ワン・デイ』
音楽監修/ランドール・ポスター『キャリー』
音楽監修/ジョージ・ドレイコリアス『スーパー8』
音響/グレン・フリーマントル『ゼロ・グラビティ』

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