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2016/02/11

オデッセイ

監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン/ジェシカ・チャステイン/マイケル・ペーニャ/ケイト・マーラ/セバスチャン・スタン/アクセル・ヘニー/ジェフ・ダニエルズ/クリステン・ウィグ/ショーン・ビーン/ベネディクト・ウォン/マッケンジー・デイヴィス/ドナルド・グローヴァー/ニック・モハメッド/シュー・チェン/エディ・コー/キウェテル・イジョフォー

30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4

【あらすじ……彼は地球へ還れるのか?】
 火星で調査ミッションにあたるNASAのクルー6人が砂嵐に襲われる。生存が絶望視される植物学者マーク・ワトニーを残し、ルイス船長ら5人はかろうじて脱出、宇宙船ヘルメスで地球への途についた。だが奇跡的に生きていたワトニーは、次期補給船の到着と救助を待ちながら、食糧、水、通信手段の確保に全力を尽くす。いっぽうNASAもワトニーの生存に気づき、彼を救い出すためにさまざまな策を講じるのだった。
(2015年 アメリカ/イギリス)

【内容について……期待したベクトルとは異なる方向の】
 これでゴールデングローブ賞なの? オスカー候補なの? いや、“絶望的状況からの生還エンターテインメント”として、しっかり作られているのは確かだけれど……。

 火星、NASA本部、ヘルメスの3極で進む構成。もっとも長い時間をあてられるのは、当然のことながら火星でのワトニーの様子だ。
 ただ、“火星を舞台としたシチュエーション・サスペンスおよびサイエンス・フィクション”としての掘り下げは、ちょっと不足気味。最低限の要素=食料と水の確保および移動については盛り込まれるものの、火星という特殊な環境下で何が起こりうるのか、手持ちの機材で他に何ができるのか、サイエンティストやアストロノーツとしての知識がどう生かされるのか……といったディテールを、まだまだ見たかったな、と感じる。

 たとえば、十字架を削って火を起こす場面や、ヘルメットから酸素が漏れるのを止めようとヒビ割れを懸命に補修する場面のような、火星ならではの面白みとヒリヒリがもっとあればと思う。ハブまでえっちらおっちら歩くのを延々とうつすだけでもシビレたはずだし、ハブ内の使用しない照明や装置をオフにし、そこにあった機材を他の作業・構造物に流用する、なんてのも面白かったろう。

 冒頭部を除けば嵐は来ないし、ワトニーはかなり栄養が偏っているはずなのにせいぜい痩せるくらいで病気もしないし、地中にあっていいはずの氷はスルーされるし、ローバーは簡単に改造されるし、伏線なくマーズ・パスファインダーは登場するし……と、都合よく何かが進み、都合よく何かが起こらない。軽快なテンポばかりが重視されている印象。

 どうやら本作には“火星版ダッシュ村”なんて評があるらしい。それで得心した。ああそうか、「へぇ」と「凄い」に満ちているTOKIOや故明雄さんのハイクオリティで密度も高い仕事ぶりを日頃観ているから、ワトニーのアッサリした描写に不満を覚えてしまうのかも知れない。

 いっぽうNASAおよびヘルメスのクルーによる「どうやって彼を地球に戻すか」という奮闘も相当なボリュウム。“絶望的状況からの生還エンターテインメント”を成立させるためには必要な描写配分だが、こちらもやはりテンポが良すぎる。
 地球と火星の自転周期の差に起因する「ソル」という単位、スイングバイ/打ち上げウィンドウ/ランデブーの難しさなど、専門的なことはかなり端折る。登場人物個々のキャラクターや人物と人物の葛藤もサラリと済ませてしまう。

 そうして、問題発生→解決・克服という大きなリズムのみを重視、「細かなことは気にせず『そういうもの』と納得してもらって、全体的な流れにハラハラしてもらえればいい」というスタンスを貫く。
 その姿勢じたいは買えるのだけれど、でも実は、省略されてしまった部分にこそ“火星を舞台としたシチュエーション・サスペンスおよびサイエンス・フィクション”としての、あるいは“宇宙開発に携わるプロフェッショナルたちが織り成す人間ドラマ”としての面白さが詰まっているはず、とも思うのだ。

 そして、全体的にリアリティは薄め。EVA(船外活動)はかなりぞんざいで、MAVの軽量化は強引、クライマックスのランデブーなんか一歩間違えばC級のシロモノだろう。
 もちろんNASAをはじめ科学者たちのコンサルティングがあっただろうことは十分に感じられるし、決定的な“バカ”にはなっていないとも思うのだが、「そうきたか」「その手があったか」「なるほどそうなのか」と感心させるだけの説得力がないのも確かだ。

 まぁ比較対照が『アポロ13』や『キャスト・アウェイ』、『ゼロ・グラビティ』、あるいは『月に囚われた男』といった化け物じみた作品になってしまうので、その点については同情の余地はある。
 でも、「UFCを観に行ったはずがプロレスだった」みたいな、「そっちを目指したのかぁ」みたいな、そんな、期待したベクトルとは異なる仕上がりに戸惑ってしまったというのが、正直なところである。

【作りについて……役者がムダに豪華】
 衛星画像からローバーの車内カメラまで、アングルもサイズも多彩な絵作りで楽しい。そこに広がる景色も、ヨルダンで撮影されたという荒涼とした砂世界、慣性による人工重力が作用する長距離宇宙船、古い組織ならではのゴミゴミした部屋などバリエーション豊か。美術、VFX、SFXの仕事はなかなかのものだし、サバイバルに軽快な味付けをほどこす内容とはミスマッチな音楽の使いかたもユニークだ。

 で、何回取り残されれば気がすむんだ、マット・デイモン。『プライベート・ライアン』とか『インターステラー』とか。そのぶん、こういう立場に置かれた人物のメンタリティは熟知しているらしく、軽々と演じる。体型も変化させる徹底ぶり。

 脇には、ジェシカ・チャステインにマイケル・ペーニャ、ケイト・マーラにクリステン・ウィグ、ショーン・ビーンにキウェテル・イジョフォーと主役級がズラリ。ムダに豪華だけあって安定感はあるものの「もっと各人を描き込んでくれてもよかったのに」と、もったいなさも感じる。
 とりわけNASA長官のジェフ・ダニエルズは、政治、科学、組織運営などさまざまなファクターを吟味して方針を決定しなければならない難しい役柄に適している人材なんだから、もっとアクを際立たせるような演出でもよかったように思う。

 演出・編集面では、火星上各ポイントの位置関係・距離関係をきっちり描かなかったり、時間経過がかなり速かったりして、観る側が脳内に「ワトニーの生活」を構築しにくいのも難点。音響もやや迫力不足だった。

●主なスタッフ
脚本/ドリュー・ゴダード『ワールド・ウォー Z』
撮影/ダリウス・ウォルスキー『ザ・ウォーク』
編集/ピエトロ・スカリア
美術/アーサー・マックス
衣装/ジャンティ・イェーツ
ヘアメイク/ティナ・アーンショー
VFX/リチャード・スタマーズ 以上『プロメテウス』
音楽/ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ『トータル・リコール』
音響/オリヴァー・ターニー『シャドウゲーム』
SFX/ニール・コーボルド
SFX/スティーヴン・ワーナー 以上『キングスマン』
スタント/ロブ・インチ『エピソードVII』

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