ザ・ウォーク
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット/シャルロット・ルボン/ベン・キングズレー/クレマン・シボニー/セザール・ドンボイ/ジェームズ・バッジ・デール/スティーヴ・ヴァレンタイン/ベン・シュワルツ/ベネディクト・サミュエル/マーク・カマチョ/ソレイマン・ピエリーニ
30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4
【あらすじ……いかにして彼は、それを成し遂げたか】
子どもの頃、サーカスの綱渡りに魅せられたフィリップ。以来、独学で技術を磨き、ジャグリングも身につけ、いまはパリの街中で曲芸を披露する大道芸人として暮らしていた。雑誌でワールドトレードセンターの記事を見つけた彼は、2つのビルの屋上にワイヤーを渡して“歩く”という途方もない計画を実行しようとする。恋人のアニー、友人ジャン=ルイ、師匠パパ・ルディなどの協力を得ながら、1974年8月、遂に彼はその日を迎える。
(2015年 アメリカ)
【内容について……決して失われないもの】
原案は2008年に長編ドキュメンタリー部門でオスカーを獲った『マン・オン・ワイヤー』。あちらは「珍妙なヨーロッパ人がアメリカで巻き起こした事件、というイメージを上手に増幅」させつつ、この無謀な挑戦を「人類のチャレンジング・スピリットの現れ」として捉え、「明るい色で、このビルにまとわりつく悲劇の空気を上塗りしようとした」作品だった。
本作は、フィリップらがこのチャレンジにどのようにして取り組んだかをテンポよく描き、スリリングな娯楽劇としての完成を目指しているものの、根っこにあるパッションは『マン・オン・ワイヤー』と似ているようにも思える。
すなわち、“人が成し遂げたことの重さ”への敬意。
「デカいビルを造りたい」
「あそこを渡りたい」
「あれを壊して人々に恐怖を与えたい」
WTCは、人の想いによって建てられ、大冒険の舞台となり、そして破壊された。もちろん3つめの所業は絶対に許されるものではない。けれど、1つめも2つめもある意味では“ねじ曲がって”いるのかも知れないし、実際のところ建物としてのWTCは当初評判が悪かったらしく、またフィリップのしたことは違法であり、大きく非難する声だってきっとあっただろう。
でも僕らは、WTCを(テロによって破壊されたものとしてではなく)「大きなチャレンジが成し遂げられた舞台」として懐かしみ、フィリップを英雄として称える。「破壊によって恐怖を与えたい」という狂信があちらの世界で称えられている以上の熱意と敬意をもって、WTCの存在とそこでおこなわれたフィリップのチャレンジを称賛する。だってそれは、人だからこそ抱けた無謀な夢であり、人だからこそ成し遂げられたチャレンジだから。
たとえ挑戦の舞台はなくなっても、人が成し遂げたことそのものは失われない。目を閉じれば“あの場所”に戻れる。それだけの“重さ”が、人が成し遂げてきたことにはあるはずだ。
そしてふたたび目を開ければ、あのときと同じような情熱とともに、あのときに得た自信とともに、また次の一歩を踏み出せる。
そんな宣言のように思える。
とはいえ、(タワーマンションに住んでいるくせに)高いところが苦手な身としては、気が知れません、というのが正直なところだったりする。
【作りについて……映画的な表現と3Dの威力】
パパ・ルディを演じたベン・キングズレーが楽しい。背景がほとんど描かれていないにもかかわらず、インチキ臭さと厳しさと優しさをミックスした人物像を見事に創り出し、真っ向からゴードン=レヴィットと対峙する。
そのジョセフ・ゴードン=レヴィットが、やはり出色だ。フランス訛りを駆使し、綱渡りにも果敢に挑戦。『マン・オン・ワイヤー』で観た実際のフィリップはかなりエキセントリックな人物だったと記憶しているが、そのエッセンスを残しつつ、身体のラインとセリフ回しと表情には優雅さを加え、上手に感情や立ち居振る舞いをコントロール。それでいて役柄への没入度も感じさせる。彼ならではのフィリップといえるだろう。
ヘアメイクや衣装も、雰囲気たっぷりに「ゴードン=レヴィットのフィリップ」創出を助けている。
フィリップのナレーションベースで進みながらも、見た目としてはキッチリと映画的な世界を広げてみせる。歯医者のマーク、建物の間に渡される赤いヒモ、上へと続く階段の存在、“謎の訪問者”のくだりの緊迫感など、緩急自在の描写でスムーズにお話へと引き込んでいくのだ。
クラシカルな曲にベートーベン、ジャズにファンクと、場面を彩る多種多様なサントラも印象的だ。
そして、3Dが実に効いている。有無をいわさぬ高さ、危なさを、鮮やかに画面上へ築く。なんど下腹部が「きゅうっ~」となったことか(男性だけの生理現象?)。バランスを取るためのバーが落ちてくる場面では、思わず身体をヒネって避けてしまった。間違いなく大スクリーン&3Dで観るべき作品だろう。
ただし、WTCの一件に相当の時間を割いたため、その前段階がやや省略され過ぎている印象だ。フィリップが綱渡りの技術を磨いていく過程や暮らしぶり、彼がWTCに抱く憧憬、彼がWTCへ挑むに足る人物であることの説得力、ジャン=ルイを“親友”と呼ぶに至る交流の様子……。そのあたりが物足りないため、ラストの感動が薄まる結果となっているのが残念。
●主なスタッフ
脚本/ロバート・ゼメキス
編集/ジェレマイア・オドリスコル 以上『クリスマス・キャロル』
撮影/ダリウス・ウォルスキー『プロメテウス』
美術/ナオミ・ショーハン『魔法使いの弟子』
衣装/スティラット・アン・ラーラーブ『ラスト・ターゲット』
ヘアメイク/フェリックス・ラリビエ『ゴシカ』
ヘアメイク/コリーン・クイントン『ハムナプトラ3』
音楽/アラン・シルヴェストリ『キャプテン・アメリカ』
音響/ビヨルン・オーレ・シュローダー『ハリポタ 死の秘宝』
音響/ランディ・トーム『エアベンダー』
SFX/ライアル・コスグローヴ
スタント/マルク・デソーディ 以上『インモータルズ』
VFX/ケヴィン・ベイリー『イントゥ・ダークネス』
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