マネー・ショート 華麗なる大逆転
監督:アダム・マッケイ
出演:ライアン・ゴズリング/クリスチャン・ベイル/スティーヴ・カレル/マリサ・トメイ/ジョン・マガロ/フィン・ウィットロック/メリッサ・レオ/レイフ・スポール/ハミッシュ・リンクレイター/ジェレミー・ストロング/ルディ・アイゼンゾップ/エイデン・フラワーズ/トレーシー・レッツ/アデペロ・オデュイエ/デイヴ・デイヴィス/カレン・ギラン/マーゴット・ロビー/セレーナ・ゴメス/ブラッド・ピット
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3
【あらすじ……大逆転を賭けた一手、その結末は!?】
格付けが高く、誰もが安全確実であることを疑わなかった住宅ローン担保証券(MBS)には、大いなる不安要素=サブプライム・ローンが組み込まれていた。その事実に気づいた孤高のトレーダー・バーリや正義感あふれるバウム、若きチャーリーとジェイミーらは、周囲の嘲笑を浴びながらも投資銀行にCDSを持ちかける。それは多額の保証金が必要となる代わりに、もしMBSが破たんすれば一転して巨額の保険金を手に入れられる契約だった。
(2015年 アメリカ)
【内容について……素人は痛感すべし】
われわれ素人は安易な気持ちで金融商品なんかに手出ししちゃイカンよなぁと痛感させられる内容。プロ中のプロたちが「ローン開始時より借入残高が増える構造」のサブプライム・ローンに疑念を抱かず、あまつさえ「証券化できる債権の需要」を満たすためにそんな危ないモノを蔓延らせたって、それ、何だよ。
MBSまではともかく、さらにその債権を担保とした証券(CDO)まで来ちゃうと、もう誰がどのタイミングでどれだけ損をするのかわからない。投資家や銀行だけじゃなく、住宅を供給するメーカーも調子に乗ってバカバカと借り入れして建築資金に充てていたんだろうなと想像すると、そりゃあドミノ倒しも起こるってもんだ。
そのあたり、サブプライムローン問題~リーマンショックに至る“狂ったシステムと、その崩壊”について、あらかじめサラっとでも予習しておくことがベター。まぁデフォルトとかレバレッジとかデリバティブとか、明らかに素人の思考能力を奪うようなヨコモジに曝されて頭が痛くなるけど。
ただ、そんな素人にもなるべく事の成り行きが理解できるよう、たとえ話を活用した親切な説明を挿入。さらに細部は上手に省略してキーとなる数人の言動に焦点を絞った構成としてある点は誠実だ。
で、そのキーとなる数人が“勝ち組”になるわけだけれど、それは、恐らくはとびっきり頭が良くてとびっきり自分に自信を抱いているマイケル・バーリ、揺るぎない信念が怒りとなって発現するために周囲からの理解を得にくいマーク・バウム、とにかく他人を出し抜きたい一心のジャレッド・ベネット、若くて柔軟で怖いもの知らずのチャーリーとジェイミー、そして厭世の気配を濃く漂わせるベン・リカート、と、いずれも変わり者というか、逆にどこかで足下をすくわれて人生アウトになっても不思議じゃない(実際、本作中でもピンチに陥るし)面々ばかり。
これくらい肝が据わっていないと、この世界では勝ち抜けないってことなんだよなぁ。
そんな連中の四苦八苦を観察するのは、まぁ面白いことは確か。作中でベンが言及する通り、彼らの勝ちとは「これまで信じられてきたものの完全否定」であり、しかもそのおかげで多くの人に経済的な死が訪れるという皮肉と不条理が待ち受ける。その痛さも込められている。
要は「疑うべきものを疑い、信ずべきものを信じよ」という警鐘だ。ただし全体としては「こんなことがありました」を脱していないようにも感じられて、その点は惜しい。
【作りについて……意外と真面目】
うわっ、徳永英明の『最後の言い訳』じゃん。どういう経緯でインサートされることになったのか知らないけど、甘酸っぱい想い出が埋まった心のかさぶたをあんまりグリグリしないで欲しいもんだ。
ほかにもリュダクリス、メタリカ、オペラ座の怪人、ガンズ、ニール・ヤング、ツェッペリンなどサントラは多彩。音の抑揚やオン/オフでリズムを作り出す技も聴かせる。
監督がTVコメディの人なのでオチャラケ風味になるんじゃないかと危惧したけれど、それは杞憂。いやむしろ、大人しいくらい。派手なことや尖った部分はない。
冒険といえばベネットおよび説明担当のセレブたちがカメラ目線で観客に語りかけてくることくらいだが、これも本作では妥当な工夫に思えるし、うつった瞬間に「クリスチャン・ベイルの目って?」とか「このスティーヴ・カレルは他人と仲良くできないな」「まだ青いふたりだな」と直感的に感じさせる適確かつ丁寧な撮影・編集もいい。物語を破綻させず、彼らの成功がわかっていてもスリルを持続させる、真面目な語り口が上々だ。
登場人物たちとほどほどの距離を保ち、彼らの心の中を静かにすくい取ることに腐心しているようにも感じる。
確かに、野心家のライアン・ゴズリング、天才肌の一匹狼でアスペルガーっぽいクリスチャン・ベイル、熱演のスティーヴ・カレル、修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ淡々とした佇まいを見せるブラッド・ピットと、キャスティングと、彼らのお芝居は上質。アンサンブルの高評価にも納得だ。
●主なスタッフ
原作/マイケル・ルイス『マネーボール』
脚本/チャールズ・ランドルフ『ザ・インタープリター』
撮影/バリー・アクロイド『ハート・ロッカー』
編集/ハンク・コーウィン『トラブル・イン・ハリウッド』
衣装/スーザン・マシスン『デンジャラス・ラン』
ヘアメイク/ジュリー・ヒューイット『ファミリー・ツリー』
ヘアメイク/アドルイーサ・リー
音楽/ニコラス・ブリテル
スタント/クリス・J・ファンガイ 以上『それでも夜は明ける』
音響/ベッキー・サリバン『パシフィック・リム』
SFX/ミシェル・ディクソン『猿の惑星:新世紀(ライジング)』
SFX/ドリュー・ジリターノ『世界にひとつのプレイブック』
VFX/ポール・リンデン『ゾンビランド』
スタント/ヴィクター・パギア『バードマン』
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