ドラゴン・タトゥーの女
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ダニエル・クレイグ/ルーニー・マーラ/ステラン・スカルスガルド/スティーヴン・バーコフ/ロビン・ライト/ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン/ゴラン・ヴィシュニック/ドナルド・サンプター/ヨセフィン・アスプルンド/ジョエリー・リチャードソン/ジェラルディン・ジェームズ/ペル・ミルバーリ/モア・ガーペンダル/ジュリアン・サンズ/マーティン・ジャーヴィス/インガ・ラングレー/ユルゲン・クレイン/ウルフ・フリベリ/ベンクト・C.W.カールソン/エヴァ・フリショフソン/マッツ・アンデション/アラン・デイル/ジョエル・キナマン/クリストファー・プラマー
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【消えた少女の謎を追って】
大物政治家の汚職を追求したものの、裁判で敗れたミレニアム誌の記者ミカエル・ブルムクヴィスト。失脚した彼に実業家ヘンリック・ヴァンゲルはある仕事を依頼する。表向きは評伝の執筆、だが本題は「消えた姪ハリエットを探し出す」こと。謎も確執も多いヴァンゲル家の内情やハリエット失踪当日について調査員リスベットとともに捜査するミカエル。彼らは、この一件と当時おこった連続殺人事件に何らかの関係があると考えるのだが……。
(2011年 アメリカ/スウェーデン/ノルウェー)
【意味あるリメイク】
ニールス・アルデン・オプレヴ監督によるスウェーデン版『ミレニアム』の感想をザっとまとめると、以下の通り。
調査過程の流れのよさが上質で、セリフや説明を極力省いて楽しませる上手さがある。やや解像度が粗く、空気感があり、人物を半分陰に置く立体的な絵も特徴。全体として丁寧に作られていて、2時間半を興味深く見せるパワーを持つ。
ハリウッド版の本作も、ほぼ同じ。スウェーデン版のよさを残しつつフィンチャー風味を程よくプラスした、という印象だ。
オープニング、スタイリッシュなモノトーン映像に「移民の歌」を乗っけるところからもう全開。逆光の中に人物を置いてシルエットで動きや心情を描いてみせたり、電車での移動や座っているミカエルの姿にすらアーティスティックな空気を漂わせたり。
ノイズがそのままBGMとなり、その不協和音がリスベットの苛立ちを表現するなど、音響も作風を支える。
一個一個の要素に意志を込めた密度の高さがうかがえる作品だ。
いっぽう、セリフなしでカットをつないで状況を見せる上手さと、多数の人物とその関係を整理・説明する“わかりやすさへの配慮”、ふたつのメリハリを効かせてまとめる職人的な技も感じる。
真相そのものは単純、アっと驚くような展開や謎もなく、いくぶん無理めのストーリーで、アクション要素はほとんどなく、ジリジリとした展開。それでいて不思議なスピード感を保っているのは、さすがだ。
ただ、いかにも小説を映画化しました的なニオイがしすぎるほどだし、あっちかこっちか、どちらか1本観れば十分というレベル。だいたい、このリメイクの話を知って「ダニエル・クレイグとルーニー・マーラのコンビ。う~ん、ビミョー」と感じたくらいだし。
ところが、本作の魅力の大部分というか、スウェーデン版より明らかにまさっているところはといえば、そのダニエル・クレイグとルーニー・マーラなんじゃないだろうか。
どちらかといえば強面マッチョなイメージのダニエル・クレイグだが、それだけじゃジェームズ・ボンドなんかできないわけで。インテリジェンスや人としての意志の弱さも含めた“複雑性”をちゃんと演じられる、いい役者さんだなぁと、あらためて実感できるミカエルだ。
それ以上に輝くのがルーニー・マーラ。脚本レベルでリスベットのキャラクターが少しばかり単純化またはベクトル変更されたのだろう、スウェーデン版に感じた近づきがたさのようなものは薄まっている。
反面、少女性とでも呼ぶべき懸命さや残酷さ、自分が世間から異常だと見られていることを逆に武器としてしまうしたたかさはアップ。そうした“痛快な女性としてのリスベット”をルーニー・マーラが、まさしく痛快に演じている。
この主演ふたりの関係性を再構築したのが、本作の意義。たとえばレンタカー店でふたりが別れる場面。描かれなかったけれど、そこまでリスベットはバイクの後ろにミカエルを乗せてきたわけだ。
そんなふうに、順を追いながら、たがいの仕事ぶりにリスペクトを感じながら、静かに心を通わせ打ち解けてきた、という流れを読み取らせる描写が貫かれている。
この関係の、この先を知れるのなら、続編を読んでみたいな。そう思わせる点で、このリメイクには大きな意味があるように思う。
●主なスタッフ
撮影/ジェフ・クローネンウェス
編集/カーク・バクスター
編集/アンガス・ウォール
美術/ドナルド・グレアム・バート
音楽/トレント・レズナー
音楽/アッティカス・ロス
衣装/トリッシュ・サマーヴィル
音響/レン・クライス
VFX/エリック・バルバ
以上は『ソーシャル・ネットワーク』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『ゾディアック』などで仕事をしたフィンチャー組
SFX/ヨハン・ハーネスク
スタント/キンモ・ラヤラ
以上は『ミレニアム』や『ぼくのエリ 200歳の少女』の北欧組
脚本/スティーヴン・ザイリアン『マネーボール』
SFX/ロン・ボラノウスキー『コンテイジョン』
SFX/スティーヴ・クレミン『リンカーン』
スタント/ベン・クーク『スノーホワイト』
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