彼らが本気で編むときは、
監督:荻上直子
出演:生田斗真/桐谷健太/柿原りんか/小池栄子/門脇麦/柏原収史/込江海翔/江口のりこ/品川徹/りりィ/高橋楓翔/ミムラ/田中美佐子
30点満点中18点=監3/話3/出5/芸4/技3
【あらすじ……男と、元オトコと、女の子の生活】
母子家庭で暮らす小学5年生の女の子トモ。だが、またも母ヒロミは男に入れあげて行方不明、仕方なくトモは叔父マキオのもとに身を寄せる。マキオは恋人リンコと同棲中、しかもリンコは元オトコ。奇妙な同居生活が始まったが、心優しく穏やかなリンコにトモも心を開くようになる。リンコが悔しさを紛らわすための編み物に、いっしょに取り組むマキオとトモ。まるで本当に親子のように三人は仲を深めていくのだが……。
(2017年 日本)
【内容について……想像力を持とう】
ふと思ったのが「この作品を観て何も感じない人が、コンビニでおでんをツンツンしたりするんだろうな」ということ。
世の中には、いろんな人がいる。もちろん自分の価値基準とは異なる心持ちで生きている人だっている。他者に対する理解が難しいこともある。だから衝突もある。
けれど少なくとも「自分以外の人間も、世界には確かに存在する」ということは忘れちゃいけない。「俺様しかいない。俺様だけが正しい。俺様こそが面白い」では、世界は壊れてしまう。「俺様の価値観を否定するな」はギリギリまだいいとしても、同じように「私だって否定されたくない」と考えている人がきっと周囲にはいるのだ。それを忘れちゃいけない。
当然ながら「お前たちは俺様の価値観に従えばいい」なんて言語道断。できれば「お前はお前の好きにやれ。俺は俺で好きに振る舞う」という考えも捨てて、自分と相手の、何が、なぜ、どれくらい、どう違うのかを、たとえ完全に納得・承認できないとしても、たがいに理解しようと努める姿勢は持つべきだ。
そこで必要なのは、良識とか、形式的なトラブル回避術とかではなく、まずは「自分以外の人間、それも自分とは異なる価値観を持つ人間が、世界には確かに存在する」と認識することであり、そういう人の存在と生きざまを想像できる力、尊重できる心なのだと思う。
そうした観点でいうと、本作ではリンコの母フミコが連れてくる彼氏ヨシオの立ち位置が興味深い。たぶんこの人、フミコから「私にはこういう娘がいる」と打ち明けられた際に、純粋に“戸惑った”と思う。
で、「愛するフミコさんの家族だから僕も愛せるよ」とか言ったかも知れない。でもそれを偽善やカッコツケに貶めず、リンコとどう接すればいいのか、どうすれば傷つけずにいられるのか、じっくりと考え、慎重に関係を深めていこうって決めたんじゃないか。そうした覚悟がうかがえる。
覚悟を支えるものが、認識と想像力なんだと思う。それを持たない人がきっと、コンビニでおでんをツンツンしたりするのだと思う。
と、ここまで書いてみて、「~じゃいけない」とか「~すべき」っていう決めつけ論調を多用していることに気づく。「~じゃいけない」も「~すべき」も、他者への押しつけではなく、自分への戒めとして機能させなきゃなぁと、あらためて思う次第である。
【作りについて……お芝居と、隅々まで行き届いた配慮】
リンコを静かにまっとうした生田斗真も、持ち前の純粋さでマキオを作り上げた桐谷健太も、まさしく「私だけが正しい」と凝り固まりながら「もし私が間違っていたらどうしよう」という不安も滲ませる小池栄子もいいけれど、トモを演じた柿原りんかちゃんが抜群に上手い。
各人の人物造形には、役者さんの力量だけでなく美術・衣装や演出・編集も貢献しているように思える。
たとえばリンコの母フミコさんは、自然素材らしきネックレスを装着。もうそれだけで、キツそうに見える彼女の中では柔らかさや温かさが息づいていることがわかる。前述の彼氏ヨシオの立ち位置に関しても、撮りかたとか画面内への置きかたからそう考察させたわけで、隅々まで丁寧に“作り手の想い”が詰まっているなぁと感じさせるのである。
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