LION/ライオン ~25年目のただいま~
監督:ガース・デイヴィス
出演:デヴ・パテル/サニー・パワール/ルーニー・マーラ/アビシェーク・バラト/プリヤンカ・ボース/タニシュタ・チャテルジー/ナワーズッディーン・シッディーキー/ディープティ・ナヴァル/ディヴィアン・ラドワ/デヴィッド・ウェンハム/ニコール・キッドマン
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4
【あらすじ……迷子の彼が見つけたかったもの】
インドの田舎町で育つ5歳の少年サルー。ある夜、大好きな兄とはぐれた彼は、回送列車で故郷から1600kmも離れたコルカタへと運ばれてしまう。施設に保護されたものの家は見つからず、やがてサルーはオーストラリアのジョン&スー夫妻に養子として迎えられることに。それから20余年。立派な青年として成長したサルーは、育ててくれた義父母に申し訳ないと思いながらも、Google Earthを使って生まれ故郷を探し始めるのだが……。
(2016年 オーストラリア/アメリカ/イギリス)
【内容について……圧巻の前半パート】
公開前には、しきりに「Google Earthの思いもよらない活用法」という取り上げかたをされていた記憶があるのだけれど、そのあたりの描写は意外にアッサリというか、急ぎ足。さまざまな情報をもとにネットの力と閃きを駆使して生まれ故郷の位置を探っていく、という推理ストーリーに過度な期待を抱くと、ちょっと肩すかしかも知れない。
そんな後半パートでより印象的なのは、育ての母スーの存在感。自分で子を生むよりも、助けを必要としている子供たちの親になることを選んだ彼女と夫ジョンの価値観。道を踏み外してしまった次男マントッシュにも根気よく愛情を注ぐ優しさと強さ。
この母親ならば、サルーが抱く「いま生みの親や故郷にこだわることはジョン&スーに申し訳ない」という思いも、たぶん受け入れて許すはず。が、それほど寛大な両親だからこそ、やはり罪悪感を感じてしまうサルー。優しくも悲しい“思いやりの行き違い”が、ここでのハイライトだろう。
またエンドクレジットで流れる実際のサルーたちの姿も、事実が持つパワーにあふれている。
が、何よりも強烈なのは前半パート。
どこにいるのか。何が起こっているのか。どう振る舞えばいいのか。この人たちは何者なのか。まだ知識も知恵も思考力も判断力も覚束ない5歳の男の子に叩きつけられる“圧倒的な不安”を、たっぷり1時間かけて観客に追体験させる。
いやもうほんと、パニックに陥っても不思議じゃないほどの絶望。これを身体に浴びるだけでも観る値打ちのある映画だ。
【作りについて……前半部の撮影と役者の力】
見知らぬ街の不安な夜、見知らぬ人の怪しげな姿を、スケール感豊かに描き出した前半パートが、やはり秀逸。撮影のグレイグ・フレイザー(『ローグ・ワン』)や編集アレクサンドル・デ・フランチェスキ(『ストーン』)の技が冴える。贅肉をそぎ落としたルーク・デイヴィスの脚色や、ダスティン・オハロラン&ハウシュカの音楽も耳に残る。
ニコール・キッドマンのスーが素晴らしい。悪女も公妃もキャリアウーマンもパニックと対峙する主婦も、微笑ひとつで演じ分けてしまうこの人の、力量を再確認できるお芝居。
成人後のサルー役デヴ・パテルもキッパリと分かりやすい演技。『スラムドッグ$ミリオネア』『ニュースルーム』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』では「線が細いのに突っ走る」「振り回される」というイメージだったけれど、ここでは肉体的にも精神的にも成長し、自らの内面から湧き上がってくる欲求と戦う役柄を好演する。
で、何といってもサルー少年時代のサニー・パワール君。健気さと無邪気さと幼いなりの知性と、持て余すほどの不安とが炸裂、実に可愛い。子役としてはここ数年で最大の収穫といっていいくらい魅力的だ。
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