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2017/07/10

3月のライオン【前編】

監督:大友啓史
出演:神木隆之介/有村架純/倉科カナ/清原果耶/新津ちせ/板谷由夏/前田吟/染谷将太/中村倫也/尾上寛之/佐々木蔵之介/加瀬亮/奥野瑛太/甲本雅裕/岩松了/斉木しげる/綾田俊樹/森岡龍/高橋一生/西牟田恵/奥貫薫/小橋めぐみ/筒井真理子/内田慈/大西利空/原菜乃華/萩原利久/鈴木雄大/高月雪乃介/伊藤英明/豊川悦司

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【あらすじ……少年は棋士】
 幼い頃に家族を失い、棋士の幸田によって育てられた桐山零。将棋の世界に居場所を見出そうとした零は、やがて中学生の身でプロデビューを果たし天才棋士として注目されるようになる。だがそれをキッカケに、幸田と、やはりプロを目指していた娘・香子との関係は悪化。零自身も勝負の世界の冷酷さに対峙することを余儀なくされる。酔い潰れた零を介抱した川本家の三姉妹やライバル棋士たちとの関係の中で、零は今日も盤に向かう。
(2017年 日本)

【内容について……将棋である意味】
 零が安井に勝った後、街を速足で駆け抜けて「みんなオレのせいかよ!」と叫ぶあたりとか、三姉妹とのフワフワした交流などは、マンガだからこそ生きる場面かもなぁという直感を抱く。また、かなりのエピソードが省略されているようで、食い足りない面もある。
 ただし全体に映画として上手く整理してあって、初見さんにもやさしい仕上り。少なくともTVアニメ・シリーズも観よう、原作も読んでみよう、と思わせるだけのパワーはある。

 好感を覚える理由は「将棋が題材」であることを疎かにしていないからだろう。
 親や師匠が実子・弟子に引導を渡さざるを得ないことも、また逆に子が親を上回る(しかも直接的に)こともありうる。未成年がはるかに年上の相手とハンデなしで勝負することもある。そうした事態がキッカケで大切な何かを壊してしまうこともある。自分との戦いであると同時に、相手との戦いであることも決して忘れてはならない。
 そうした将棋の特性、将棋の過酷さが、無視されずにストーリーや世界構築へと反映されているように思えるのだ。

 将棋が、多くの女性にとってあまり縁のない世界、というのもポイント。三姉妹には零が「どれくらい凄いのか」ピンときていないはず。独りで頑張っていて、だから頼もしい。けれどどこか寂しそう、苦しそう。ただしその向こうには優しいアンちゃんの素顔も見える。そんな若いプロ棋士=零と、川本家の距離感が、心地いい。

 とはいえ、登場人物が多くて各キャラクターを掘り起こし切れていないのも確か。とりわけ各人の“人”としての部分に比べ、“棋士”としての魅力がやや希薄だ。零、幸田、島田、宗谷、山崎、後藤らの、棋士としての特徴や凄さが視覚的・感覚的に伝わってくるようならもっと良かった。
 でもこれは、映画に限らず、将棋に限らず、ハードルの高い要求か。

【作りについて……神木くんと撮りかた】
 登場人物の(原作コミックに対する)再現度が見事。零と三姉妹なんか、見た目はほぼそのまんまだもの。いっぽうで、ファンの間では「有村架純の香子」に違和感を抱く人が多いらしいし、宗谷名人はヴィジュアル的にはかなり乖離している。
 でもみんな、単に見た目の近さとか知名度で起用されたわけじゃなくて、映画制作サイドがいったん物語やキャラクターを咀嚼してから「誰に演じてもらうか?」と考えた結果のキャスティングだと思える。

 中でも印象的なのは、やはり神木くん。外見だけでなく、意志の強さとか内向的なところとかナチュラルなキョドっぷりとかホントにハマり役なんだが、それ以上に「走りかたが『SURVIVE STYLE 5+』の時から変わってない!」という事実に癒される。

 衣装もいいし、生活感いっぱいの川本家(実在する家だとか。さすがに小道具類は誂えられたようだが)と無機質な零の部屋のコントラストなど美術も良質。
 画面には意外とスケール感があり(アナモルフィックレンズを使用しているとのこと)、親しみやすい中にも単調にならないよう、安っぽくならないよう、アングル、レイアウト、フレーミングや編集もそれなりに工夫されている。このあたりは大河ドラマで手腕をふるってきた監督と、経験豊富な山本英夫撮影監督ならではか。

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