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2017/08/23

攻殻機動隊 新劇場版

監督:黄瀬和哉(総監督)/野村和也
声の出演:坂本真綾/塾一久/松田健一郎/新垣樽助/咲野俊介/上田燿司/中井和哉/沢城みゆき/浅野まゆみ/野島健児/潘めぐみ/麦人/NAOTO

30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4

【あらすじ……軍部を巻き込んだ事件、その真相は?】
 電脳化と全身義体の技術が発達した近未来。大戦後、国防省が防衛庁へと格下げされること対し将校たちが反乱を起こすも、草薙素子少佐が率いる独立攻性部隊によって鎮圧される。だが、ゴーストハックされた人質による将校の殺害、総理大臣の暗殺、かつて素子が所属した陸軍501機関の思惑と情報部の暗躍……。多面性を帯び始めた事件の真相と、その陰にいるハッカーの正体を究明すべく奔走する少佐は、自身の過去および未来と対峙する。
(2015年 日本 アニメ)

【内容について……まったく新たな攻殻機動隊】
 『攻殻機動隊ARISE』~『Pyrophoric Cult』の鑑賞後、本作へ。さすがに本家本元(といっていいのか)は、ハリウッド版以上にちゃんと攻殻していますです。

 緻密に構築された設定を物語の外/画面の外に置き、細かな説明抜きで事態や人物を動かし、そのくせ圧倒的な情報量も盛り込んで、いちど観ただけで細かなところまでは理解も咀嚼も不可能、よって何度でも観る必要に駆られる、という作劇。
 これってひょっとすると日本のアニメ界による、映画のストーリーテリングにおける1つの大きな発明かも知れない(もちろん繰り返しの鑑賞に耐えうるクオリティの維持が大前提だけれど)。
 それは大袈裟としても、攻殻シリーズが典型例であることは確かだ。

 この黄瀬和哉監督版の場合、少佐の生い立ちおよび彼女と公安9課や仲間たちとの関係を再構築したほか、陸軍501機関、2つの派閥の対立、電脳・義体の規格刷新による互換性喪失(デッドエンド)、ファイア・スタータといった新設定を採り入れているわけだが、それらを「常識ベース」として扱ったうえで事態を転がしていく。
 説明セリフも多用されるものの、観客に対してというより、作品内の人物同士が現状を相互確認するという意味合いのほうが強くて「わかりやすくするための配慮」としての機能は薄いように思える。少なくとも、グっと意識を凝らしていないと置いてけぼりになりかねない密度だ。

 なんだか「ストーリー/物語を追う」のではなく「この世界がどのようにして成り立っているか」や「こうした世界ではどのような存在が生まれ、どんな事が起こりうるか」を作り手も観る側も思考しながら楽しむ、そんな知的遊戯のような雰囲気もある。

 ただし本作は、第3世界に関する言及はあるものの、データとゴーストの差異~自己と他者の境界~少佐の“人間”としてのアイデンティティといったシリーズ共通のテーマや哲学性は、やや控えめ(まぁ過去シリーズでやり尽くした感もあるわけだし)。軍需産業体を巡るサスペンスとしての色合いが濃く、超ウィザード級ハッカーかつ部隊指揮官としての優れた資質も持つ少佐の“プロフェッショナルとしてのアイデンティティ”描写が前面に出ていると感じる。
 各種の新設定より、むしろその立ち位置が、本作の新機軸だろう。

【作りについて……上々のキャラクターたち】
 9課メンバーの性格や過去をみっちり描いたS.A.Cに比べるとコンパクトなシリーズの割に、各キャラがそれなりに立っていると感じる。少なくともハリウッド版に比べれば、作り手が9課メンバーに寄せる愛情とリスペクトは、比べ物にならないくらい大きい。このあたりもサブキャラ万歳文化が根づく日本のアニメならではかも知れない。

 一新されたキャストも、大きな違和感なし。
 実をいうと、すいません、坂本真綾って知名度とキャリアの割には、その声にほとんど接する機会がないまま今日まで来たことに我ながら驚く。ナタリー・ポートマンの吹き替えくらいかも。
 その坂本真綾版少佐。実績も自信もあって“すでに出来上がった後”の田中敦子版少佐と比べ、いままだ草薙素子になっている途上の“若さ・硬さ・虚勢”が感じられて、今回のシリーズにふさわしい。同じことはバトー(大塚明夫→松田健一郎)にもいえるかも知れない。

 あとはロジコマの沢城みゆきが秀逸。こちらは峰不二子などで声のツヤに心がザワついた経験あり。玉川紗己子のタチコマも愛嬌があって好きだったけれど、タチコマよりちょっと無邪気で天然なニュアンスが可愛くて、「サイトウさ~ん」に癒される。

 キャストではひとり、エンドロールを見るまでもなく「素人だな」と感じられる声があったことは残念。

 あとは、唯一無二の楽曲で作品の独特な世界観構築に寄与したコーネリアスの音楽、柳瀬敬之&竹内敦志のメカニックデザイン、退廃と発展と科学と密室政治とを共存させた竹田悠介&益城貴昌の美術も見どころ。

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