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2017/08/18

ゴースト・イン・ザ・シェル

監督:ルパート・サンダーズ
出演:スカーレット・ヨハンソン/ピルー・アスベック/チン・ハン/ラザラス・ラトゥーリー/泉原豊/タワンダ・マニーモ/ダヌーシャ・サマル/マイケル・ピット/ピーター・フェルディナンド/アナマリア・マリンカ/福島リラ/山本花織/桃井かおり/ジュリエット・ビノシュ/ビートたけし

30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4

【あらすじ……電脳犯罪、その真相とは?】
 電脳化と義体化によって瀕死の重傷から生き延び、“少佐”として公安9課に属することとなった彼女は、荒巻大輔の指揮の下、バトーやトグサらとサイバーテロ犯罪の捜査と防止にあたっていた。ある夜、ハッキングされた芸者ロボが電脳・義体関連企業ハンカ・ロボティックス社の関係者を襲撃する事件が発生。ロボットの記憶にダイブし、事件の裏にハッカーが存在することを突き止めた少佐だったが、それは深い陰謀へと続く入口だった。
(2017年 アメリカ/インド/中国/日本/香港/イギリス/ニュージーランド/カナダ/オーストラリア)

【内容について……誠実だけれど深みや面白味は、といえば】
 脚本家として『フェイクシティ』『ハワード・ヒューズを売った男』『スケルトン・キー』の人、計3人が携わっている。サスペンスフルな刑事ドラマにはなりそうだけれどSF的には大丈夫かよ、と思ったものの、意外とマトモ。換骨奪胎=要素だけ借りて別物にする、のではなく、オリジナルをリスペクトしつつ上手にアレンジしているな、という印象。
 つまり、ある程度ちゃんと攻殻している。

 電脳/義体という設定を「道具」に貶めず、また、バカアクションに堕していない点が誠実。電脳のハッキング&ダイブや疑似記憶、義体のフルパワー駆動などがストーリー展開と密接に関わるものとして配置され、かつ、電脳/義体によって曖昧になる“人間と機械の境界線”とか、人としてのアイデンティティ=ゴーストとか、攻殻の世界観やテーマもしっかりと生きたままだ。
 もちろん光学迷彩も登場。バセットハウンドに川井憲次の「謡」、クゼと人形使いをミックスする力技、第三世界への言及など、既存作のファンがニヤリとできる要素も詰め込まれている。

 が、逆にいうと新鮮味は薄いわけで。本作だけを観て電脳云々ゴースト云々と哲学的なことを語る必要性も小さいかも。
 いっぽう小難しさもやっぱりあって、それはいいとしてもアクションを含めて地味&暗くまとまっているので、SFエンターテインメントを期待すると物足りないのも事実だ。
 そのあたりの、電脳&義体設定+意外な事実による衝撃+アクション要素をすべてバランスよくアレンジし、なおかつ奇天烈な映像世界を作り上げていたという点で、『ハードコア』のほうが攻殻っぽいと思えるのかも。

 あと、冒頭で脳みそ丸々を取り出して移植していたので勘違いしちゃったんだけれど、少佐には電脳または補助電脳が埋まっていて生身の脳と補完関係にあるという説明・描写は、きっちりとしてほしかったところ。
 整理しすぎたせいか、荒牧課長とバトー(なんかザコキャラっぽいけど)はともかく、トグサやサイトーさんの影が薄いのも不満。

 ビシっと『そうささやくのよ。私のゴーストが』を決めないと攻殻とは呼べません、とか、フチコマのいない攻殻なんて攻殻じゃありません、ってのは、ひとまず口に出さないでおこう。

【作りについて……主演は頑張っているが】
 スカーレット・ヨハンソンの少佐が、意外と悪くない。日本側の関係者各位が「素子は彼女以外考えられない」と口を揃えているらしく、まぁそこまでベタ褒めはしないし、個人的には動物園の飼育員とかのほうが好きなんだけれど。少佐という役柄、攻殻機動隊の世界観を自分なりに咀嚼して、真面目に演じていることが伝わってくる。ブラック・ウィドウで取った杵柄。

 でも、彼女以外の配役がイマイチ。バトー役ピルー・アスベックもクゼ役マイケル・ピットもカッタ―役ピーター・フェルディナンドも、小物感にあふれるというか、犯罪再現ドラマっぽいというか。
 ジュリエット・ビノシュの起用はもったいないと思うが、どこかに一流どころを配置してビシっと締めなきゃ、ということを考えると正解か。
 ビートたけしの荒巻課長は、佇まいもセリフ回しも正直「う~む……」。ただし、どうやら観た人みんなが感じているようだが「キツネを狩るのにウサギを寄越してどうするんだっ!」のところだけは、ひたすらカッコイイ。

 VFX/SFXとも手堅く美しくまとまっている。『ブレードランナー』を髣髴とさせる街作り(プロダクションデザインは『ガタカ』のヤン・ロールフス)は、既視感はありながらも楽しい。
 が、アクションは全体に真新しさがなく、ヒリヒリ感が足りない。「いいねっ」と思えるのは冒頭の光学迷彩ドンパチくらいか。
 多脚戦車はボスキャラとして登場するけれど、それも一瞬、派手な活躍まではいたらず。かえすがえすもフチコマの不在が痛い。

 場面はほとんどが室内と夜。せっかくの日中も狭い路地だったりくすんでいたりする。遠景が少なく、おまけにコントロールされたデジタルっぽい絵作りなので、広がり感に乏しい。よって近未来のパラレルワールドで実際に起こりうる出来事、という雰囲気に欠ける気がする。

 なんかネガティヴなことばっかり書いているけれど、どれも決定的な傷ってわけじゃない。真面目に頑張っている。オリジナルと同じベクトルで進む誠実さを見せたものの、相手が偉大過ぎるががゆえに超えられなかった、それもまぁ無理ないね、ということ。

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