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2017/09/26

ハクソー・リッジ

監督:メル・ギブソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド/サム・ワーシントン/ヴィンス・ヴォーン/ルーク・ブレイシー/フィラス・ディラーニ/マイケル・シェースビー/ルーク・ペグラー/ベン・ミンゲイ/ニコ・コルテス/ゴラン・D・クルート/ハリー・グリーンウッド/デミアン・トムリンソン/ベン・オトゥール/リチャード・ロクスバーグ/バート・モーガン/デニス・クルーザー/ビル・ヤング/ライアン・コア/テリーサ・パーマー/ヒューゴ・ウィーヴィング/レイチェル・グリフィス/ナサニエル・ブゾリック/ダーシー・ブライス/ローマン・ゲレーロ

30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4

【あらすじ……人を殺さない兵士】
 キリスト教の教え「汝、殺すなかれ」を胸に刻む青年デズモンド・ドス。彼は暴力を嫌う良心的兵役拒否者であり、また看護師のドロシーと婚約もしていたが、衛生兵になるべく陸軍入隊を志願する。厳しい訓練中も信念を貫いて銃を持とうとしないドス。そんな彼への風当たりは強く、命令拒否を理由に軍法会議にもかけられるのだが、その主張は認められ、ドスは仲間とともに沖縄の激戦地“ハクソー・リッジ”へと赴くのだった。
(2016年 オーストラリア/アメリカ)

【内容について……信念を貫く姿こそ】
 鑑賞中も鑑賞後しばらくも頭にあったのは「これ、美談ではないよな」ということ。みずから殺し合いの場へと身を投じるドスの存在は、たとえ何人何十人救おうが偽善と自己満足の塊ではないのか、とも思えるのだ。

 制作サイドの意識の中にも「そもそも戦争は許されざるおこない、愚かな行為、忌避すべきもの」という価値観が、あったように感じる。
 たとえば「何を信じていようと戦場では関係ない」「戦時では親が子を弔う」といったセリフが用意されている。相手を全滅または降参させるために銃と爆薬を持って突進する、という、どちらにとっても戦争は強烈な無理ゲーであることが示される。その中で米兵も日本兵も等しく死ぬことが描かれる。
 戦争が、とてつもなくバカバカしいものとして印象づけられるのだ。

 デズモンド・ドス氏自身も「英雄扱いされることを嫌ってなかなか映画化に応じなかった」とのことだから、同じ想いを抱えていたのではないか。

 けれど一歩だけ立ち位置を引いて考えると、ドスは“見習うべき対象”にも思えてくる。
 ただでさえ「信念を貫き、自分にできることを全力でやり通す」のは困難だ。けれど彼は、それを、極限状況下でやり切った。
 もちろん、ドスが勲章を授与された理由としては、そこが戦場であることや多くの兵士の命を救ったという結果・事実も大きかったのだろう。だが、この「信念を貫き、自分にできることを全力でやり通す」ことへの賛辞が、勲章と、そして本作の底辺に流れているように思う。

 だから当然、本作を観た人が心に刻まなければならないのは「きっかけや状況の是非がどうであれ、人を救う姿は尊い」なんてことではない。
 戦争を生み出す原因(たとえば憎しみとか相互理解の拒否)や、人と人とが殺し合う状況を、生み出してはいけない、という信念のもとに、自分ができることをやり通す。そんな決意であるはずだ。

【作りについて……実直な撮りかた】
 評判になっている戦場の描写は、さすがに激烈。『フルメタル・ジャケット』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』、『プライベート・ライアン』~『ザ・パシフィック』、『ブラックホーク・ダウン』に『フューリー』といったあたりと伍する仕上がりだ。
 この点では、スタントのカイル・ガーディナーとSFXのダン・オリヴァー『ウルヴァリン』、VFXのクリス・ゴッドフリー『ステルス』らを大いに讃えたい。

 また凄惨な戦場を再現した美術バリー・ロビンソン『遠い空の向こうに』、音響ロバート・マッケンジー『LION』やアンディ・ライト『キラー・エリート』、それらを適確に捉えた撮影サイモン・ダガンと編集ジョン・ギルバート『キラー・エリート』などの仕事も一級品だ。

 ただ、昨今の多くの戦争映画における戦場描写が「現場に居合わせる」というベクトルで作られているのに対し、本作には「画面の中に収める」という方向性を強く感じる。アイディアを練り、アクションと特殊効果の段取りを徹底的に積み上げ、それらをきっちりと完遂&しっかりと撮る、というイメージ。
 これは映画の前半部でさらに顕著で、意外とフレーミングやサイズのヴァリエーションが乏しく、「ここからここまでの範囲で、こういう芝居をしてください。こっちから撮ります」というディレクションが感じられる。

 もっとも、それが観やすさ・わかりやすさにつながっているのも事実。クレジットを見るとプロデューサーがやたらと多く、全員を納得させるのはさぞ難しかったと思うのだが、それをメル・ギブソンが、実直すぎるくらい実直に「観やすく、わかりやすく」撮ったことで、この映画は仕上げられたのではないか、と思う。

 アンドリュー・ガーフィールドは精悍さや理知的な雰囲気を抑え、ただただ一途に自分の信念を貫くドスを、役者として完遂する。
 ハウエル軍曹役のヴィンス・ヴォーンとグローヴァー大尉を演じたサム・ワーシントンが、やたらカッコイイ。とりわけヴィンス・ヴォーンが、ほんのちょっとした表情の揺らぎや目の輝きだけで単純な鬼軍曹ではないことを匂わせていて、この人こういう芝居ができるんだと発見。

 あとはドロシー役のテリーサ・パーマー。『アイ・アム・ナンバー4』とか『ウォーム・ボディーズ』とか、出演作を何本か観ているのに、自分の感想を読み返しても「可愛い」という記述がない。でも今回、可愛い。「ちょっと昔の女性」という役がハマる俳優なのかも知れない。

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