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2017/12/07

ベイビー・ドライバー

監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート/リリー・ジェームズ/ジョン・ハム/エイザ・ゴンザレス/ジョン・バーンサル/CJ・ジョーンズ/フリー/ラニー・ジューン/ハル・ホワイトサイド/ポール・ウィリアムズ/スカイ・フェレイラ/ランス・パルマー/ハドソン・ミーク/ブローガン・ホール/ジェイミー・フォックス/ケヴィン・スペイシー/ウォルター・ヒル(声の出演)

30点満点中19点=監4/話2/出4/芸4/技5

【あらすじ……恋と音楽とハンドルと】
 子どもの頃に交通事故で両親を亡くし、自身も酷い耳鳴りに悩まされるようになった寡黙な青年ベイビー。そんな彼も、ひとたびイヤフォンを耳に突っ込んでゴキゲンな音楽を再生すれば能力全開、驚異的なドライビング・テクニックを披露する。ある事情から犯罪集団のボス=ドクに指示されるがまま強盗犯の逃走を手助けしてきたベイビーだったが、ダイナーで働くデボラと恋に落ち、この状況から抜け出したいと願うようになるのであった。
(2017年 アメリカ/イギリス)

★ややネタバレを含みます★

【内容について……日常はリズムに支配されている】
 やむを得ない事情で犯罪に加担している男が、大切な人を守るため、そこから抜け出そうと苦悩する。これ、『水戸黄門』では1シーズンに必ず1回は出てくるパターン(大袈裟じゃなくマジで)。
 しかも本作、終盤の展開がかなり強引。誰も(肉体的に)傷つけたくないと考えていたベイビーがいきなり暴力的な行為におよぶし、冷徹なドクは前触れなく情熱に目覚めちゃうし、デボラは躊躇なく現在の安寧を手放し過去も振りかえらず危険な道を歩んじゃう。
 だから物語としては、けっこー安いしグダグダですよ。

 けど憎めない。むしろ愛すべき映画に仕上がっているのは「音楽に乗っけてリズミカルにクライム・サスペンスを描きたいよね」という思いつきを完璧にやり切っているから。
 どこかで「犯罪映画版の『ラ・ラ・ランド』」っていう評を見かけたが、いやこっちのほうがファッショナブルでハイセンスでしょ。『ラ・ラ・ランド』は舞台でも出来なくはない。それに対しこちらは映画ならでは、だし。

 とりわけオープニングからの約10分が秀逸で、セリフも説明もほとんどなしにベイビーのドライビング・テクニックと機転と犯罪計画の周到さ&危うさを見せつけて、はやくも傑作確定。その後もドクの立ち位置や彼とベイビーの関係、ゴロツキどものキャラクター、ベイビーと育ての親ジョーの交流、デボラとの出会いなどを音楽とともに澱みなく描写していく。

 ここまで徹底して音楽と出来事をシンクロさせられると、もはや「日常はリズムに支配されている」なんて思いもわいてくる。
 意志の疎通にまわりくどい言葉なんかいらない、1つの曲を通じてたがいに感じ合う何かと、たとえ拙くとも全身で想いを表現する懸命さ(手話をフィーチャーしてあるしね)があればいい、というメッセージが届く。

 本作の元ネタ、というか、エドガー・ライトの「こんなことやりたい」をコンパクトな形で実現したビデオクリップ、ミント・ロワイヤルの『Blue Song』は2003年の作。見比べてみると、もちろん予算の違いもあるけれど、この十数年で「アイディアの視覚化技術」がいい感じに熟成したことがうかがえる。

【作りについて……役者と撮影まわりの素晴らしさ】
 主演のアンセル・エルゴート。とりたててイケメンではないのだけれど、厭世感、後悔、若者ゆえの気楽さと無鉄砲さ、愚かさとインテリジェンスなどがいい案配にミックスされ表出していて、ベイビー役にハマる。
 ヒロインのリリー・ジェームズ。こちらも超美形とは言えないが、十分に可愛く、ベイビーが出会う「僕の痛みを理解してくれそうなコ」としての説得力にも富む。
 ダーリン役のエイザ・ゴンザレスも、はすっぱな感じと度胸と色気と年下を可愛がるおねーさんぶりを上手に醸し出していて、なかなか。

 ドク=ケヴィン・スペイシーと、バッツ=ジェイミー・フォックスは、正直この両者でなくとも務まる役だろう。でも、こういうイカれたプロジェクト(もちろん褒め言葉です)で「現場の要となり、プロモーションの軸となって監督がやりたいことと作品のヒットを支える」「若きタレントの出世シーンを脇から盛り立てる」のもオスカー俳優の仕事(これ観に行ったのってケヴィン・スペイシーの「もうすぐ公開だよー」っていうツイートがキッカケだし)。そうした意味ではベテランの余裕を見せてくれている。

 撮影は『スパイダーマン3』などのビル・ポープで、編集のポール・マクリスや音響のジュリアン・スレイターともども『ワールズ・エンド』などで監督と仕事をしていた面々。そのせいで息ピッタリ。また2ndユニット・ディレクターは『ドライヴ』などのダーリン・プレスコット。彼らスタント・チームの働きも尊い。
 カーチェイスも銃撃も迫力たっぷりで、それらを捉えるカメラ、つなぐ編集もお見事。監督が思い描いていたであろうスピーディーでワイルドでリズミカルでファンタスティックでスリリングでユニークな映像世界をガシっと作り上げ、本作の魅力の大部分を創出している。

 音楽監修は『アバウト・タイム』などのクリステン・レーン。エンニオ・モリコーネにビーチ・ボーイズ、Tレックスにクイーン、『世界にひとつのプレイブック』でも印象的だった「Unsquare Dance」……と、登場する音楽はどれも心地よくベイビーと観客の体内で血をたぎらせる。
 中でもベイビーのママ=スカイ・フェレイラによる「Easy」は、低く優しくややハスキーな歌声がズドンと自分好み。この曲だけで本作の評価が何ポイントか上がる。

 ベイビーが操る、ポータブル再生/サンプリング/音楽編集用の機材は、見る人が見ればヨダレが出てきそうなラインナップだろう。そうした細かな悦びがチョコンと配されているのも、いい映画の特徴である。

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