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2017/12/17

ダンケルク

監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド/アナイリン・バーナード/フィオン・ホワイトヘッド/アナイリン・バーナード/ハリー・スタイルズ/マーク・ライランス/トム・グリン=カーニー/バリー・コーガン/キリアン・マーフィ/トム・ハーディ/ジャック・ロウデン/ジェームズ・ダーシー/ケネス・ブラナー/マイケル・ケイン(声の出演)

30点満点中18点=監5/話2/出3/芸4/技4

【あらすじ……その兵士たちを救えるのか】
 第二次世界大戦中、ドイツの猛攻に遭いフランス北部の港町ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍。ボルトン中佐の指揮のもと大勢が救出を待つ海岸では、トミーら若い兵士が一刻も早く撤退しようと悪戦苦闘する。ドーバー海峡を挟んだイギリスからは、ドーソン氏の操舵で小さな民間船がダンケルクを目指し出港。空からはスピットファイアを駆ってファリアーら空軍も援護に向かっていた。果たして数十万人の脱出劇は成功するのか?
(2017年 イギリス/オランダ/フランス/アメリカ)

★★★ややネタバレを含みます★★★

【内容について……描かれているのは、意外と内面】
 戦地では人間の心の中で、まずは2つの思いがせめぎ合う。すなわち「死ぬかも知れない」「死にたくない」だ。

 なんとか生き延びようと海岸でジタバタするトミーら下級兵士は、ひたすら「死にたくない」を行動原理として手を尽くす。愚かで滑稽で卑怯にも見えるけれど、とにかく純粋だ。いつもより知恵と度胸も沸いて出る。
 ただしそれが上手くいかないと、こんどは“自分より弱い他者”を攻撃しはじめる。なるほど足手まといを排除すれば集団としての生存確率は上がるだろうが、弱者を虐げることで「死ぬかも知れない」という恐怖を打ち消そうとする魂胆も見える。
 また、足手まといを排除することで「残った俺たちは強い」、だから「死にっこない」という3つ目の心理を手に入れて、その幻想も恐怖に対抗するための拠り所となるのかも知れない。

 撤退の指揮を執るウィナント大佐やボルトン中佐は、冷静に3つの心理のバランスを取る。「死ぬかも知れない」と分析しつつも決して焦りで我を失うことなく、「死にたくない」ならどうすればいいかを計算・実行し、部下たちを勇気づけるべく「死にっこない」という態度も示す。
 恐怖に幻想で対抗するのではなく、あくまで指揮官として為すべきことをおこない、その手続きが自信を呼び、自信によって恐怖に打ち克つ、といったところだ。

 ミスター・ドーソンら船を走らせる人たちは「死ぬかも知れない」「死にたくない」をひとまず心の奥底に隠す。でも「死にっこない」という過信には溺れない。
 そして、原動力となっているのは「死なせたくない」だ。
 息子を戦争で亡くしているミスター・ドーソンの中に芽生えた、この4つ目の心理は、ひょっとすると観客……戦争で死にそうな経験をした人などほとんどいないわけだし……にとって、もっとも感情移入しやすいものではないだろうか。
 思えば現代の反戦活動の多くも、「(自分が)死にたくない」ではなく、「(大切な人を)死なせたくない」がベースにあるように思う。非武装・非戦力の一般市民が戦争に対する当事者意識を持とうとするときには、この心理が大きな触媒となるのは確かだろう。

 空軍のファリアーやコリンズは、より強く「死なせたくない」と「死にっこない」を発露する。何も考えず機械的かつ最大限にベストを尽くしているようにも見える。たぶん、無条件にそこまで突き抜けることがいい兵士の条件なのだろう。
 が、帰還用の燃料を残さず追撃する道を選んだファリアーの行動は、決してベストとは言い切れない。それでもラスト、やるべきことをやり尽くした後、敵軍に捕獲されたファリアーは無表情だけれど、どこか誇らしく、同時に諦観も漂わせている。それは彼が、いい兵士ではなくいい人間であろうとして、このような選択をしたからなのだろう。

 死ぬかも知れない。死にたくない。死にっこない。死なせたくない。恐怖と覚悟、本能と願望、自信と幻想、決意と祈念。それらのバランスが、人の行動を決める。
 ただ、どれが強くたって、どう行動したって、死ぬときは死ぬ。本作の登場人物たちは運よく生き延びたけれど、その陰には死んでいった人たちも大勢いるわけで。あるいは生き延びたとしても、船に救出された英国兵のように、もう死について考えたくないと心を麻痺させる者も出てくる。

 表面的には“出来事(救出劇)を描いた映画”だが、実は、その出来事の中でうごめいている“人の内面”を、そこかしこから読み取れる作品なのかも知れない。

【作りについて……徹底したリアリティ】
 陸・海・空の3軸で展開するわけだが、時制の管理が独特。リアルタイムに進行させながらも、微妙に前後し重複する。陸の1・2・3→海の2・3・4→空の2・3→陸の4・5→海の5・6→空の4……みたいなイメージだ。そんな必要あったか、効果的か、と考えると疑問は残るものの、ユニークであり、この作りが不思議な感覚を呼ぶのも確か。

 フィルムにこだわり、IMAX70mmを使い倒したあたりはノーラン監督の真骨頂。「映画を観た」という満足感のある画だ。
 実際に撤退作戦がおこなわれた場所で撮影されたらしく、本物の軍艦を海に浮かべ(ひょっとしたら沈めるところまでやってるかも)、アンティークの飛行機を飛ばし、現場で爆撃の特殊効果までやらかしたんだとか。ギッシリ身を寄せ合って救出を待つ兵士の列は、1500人のエキストラに加え、厚紙を切り抜いて作った兵士を並べたそうだ。

 偏執狂的な取り組みがリアリティを生み、映画を映画たらしめる、ということがよくわかる。そうなんだよ、やっぱCGではなく、船はどーんと浮かび、戦闘機はぐーんと飛んでこそ、作品と観る側の距離も近くなるんだよ。

 ただ、この戦場はヒリヒリしているか、と問われると、『プライベート・ライアン』以来、もうさんざん打ち合いや爆発の中に叩き込まれている現代の観客からすると、ちょっとキレイすぎるかも知れない。

 役者ではファリアー役トム・ハーディが秀逸。ほとんど顔は見えないのだけれど、空編の主役、エースパイロットとしての存在感を始まりからラストまでキープする。

●主なスタッフ
撮影/ホイテ・ヴァン・ホイテマ
美術/ネイサン・クロウリー
ヘアメイク/ルイーザ・アベルとパトリシア・デハニー
編集/リー・スミス
音楽/ハンス・ジマー
音響/リチャード・キング 以上『インターステラー』
衣装/ジェフリー・カーランド
スタント/トム・ストラザース 以上『インセプション』
SFX/ポール・コーボルド『ウルフマン』
VFX/アンドリュー・ジャクソン『ノウイング』

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