新感染 ファイナル・エクスプレス
監督:ヨン・サンホ
出演:コン・ユ/キム・スアン/チョン・ユミ/マ・ドンソク/アン・ソヒ/チェ・ウシク/キム・ウィソン/ソヒ/チェ・ギファ/ジョン・セキョン
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【あらすじ……惨劇を乗せて特急は走る】
特急列車KTXでソウルからプサンを目指すのは、証券会社勤務のソグと幼い娘スアン。だが乗客のひとりが凶暴化して周囲を襲い始めると、その症状は被害者にも次々と伝染していく。力自慢のサンファとその妻で身重のソンギョン、高校生カップルのヨングク&ジニらとともに、走る惨劇と化したKTX内で、あるいは駅で、生き延びようと奮闘するソグ。韓国全土にパンデミックとパニックが広がる中で、彼らは逃げ切ることができるのか?
(2016年 韓国)
★★★ネタバレを含みます★★★
【内容について……設定から展開、そして描写へ】
ある程度は意識的にゾンビ映画を追っかけているとはいえ、まさか年に3本も劇場で観ることになろうとは。しかもうち2本は“ゾンビ映画のオールタイム・ベスト10”候補だよ。
1本目の『ディストピア パンドラの少女』は「ゾンビ映画の変化・進化の過程/セカイ系ゾンビ映画」といえる尖がった内容だったけれど、2本目のこちらは真っ向からゾンビ・パニックを描いた正統派だ。
まずは「襲われる恐怖、追い詰められる恐怖、自分もゾンビ化してしまう恐怖、愛する人がゾンビ化する恐怖、誰が敵なのかわからない恐怖、極限状態に置かれることで信頼関係が破綻する恐怖……などを描くべし」というゾンビ映画の基本ルールをクリア。
ごくごく単純に、こうした要素を盛り込めばそれだけで楽しくなるってことがよくわかる。
新しいアイディアとしては、もちろん列車内を舞台とした点。いわば走る密室。また感染者の思考能力が落ちることや活動原則(自力ではドアを開けられない/人間が見えたら襲ってくる)を明示している点も面白い。
主要人物たちの立ち位置・価値観を「この人を守らなきゃ」で統一(父娘、夫妻、恋人、老姉妹)し、そこに身勝手で小心者のクソジジイを絡めたキャラクター配置も、意外とゾンビ映画では新鮮かも知れない。
まぁ「この映画のために用意された設定&シチュエーション」という雰囲気は否めないものの、それがしっかりとスリルを盛り上げるためのキーとなっているのが誠実だ。
逃げ場がない、だから瞬く間にパンデミックへと至るし、もう突破するしかない。外界と隔絶され、情報がなかなか入ってこないから焦る、あるいは対応が後手に回る。クソジジイが「良かれと思って」取った行動は事態を悪化させ、それが主要登場人物3組への感情移入を促進させる。
ノンストップ・サバイバルと銘打っているけれど、実際には緩急自在だ。「うわっ」という瞬発的恐怖だけでなくジリジリとした脂汗的な怖さも味わわせてくれるし、駅や横転した車両など無理なく舞台を広げて単調にしない工夫もある。
噛みつかれた人たちが豹変する感染速度が素晴らしい。物語のスピード感を損ねない、いいテンポ。感染者がカクカク動きジタバタと暴れる描写はどこかパペット的で、その気味悪さは「理解しがたい相手、近づいてはならない敵」としての恐怖を増幅させる。
感染者どもは走るどころか飛び降りて群がってジャンプして執拗に追いかけてくる。「来た来た来たぁっ」という問答無用の圧迫感。人間を見つけたら反射的に襲ってくる、そのタイミングの取り方も絶妙だ。ロメロ版『ゾンビ(Dawn of the Dead)』では「They must be destroyed on sight!」と人間側が叫んだが、ここでは感染者がまさしく「見つけ次第、襲えっ」とばかりに行動する。
設定&シチュエーションを生かしつつもチャレンジングな展開、そして描写の妥当性。一本筋が通った映画だと感じる。
そして、あのオチ。大好きなハインラインの『猿は歌わない』を想起させて、いやはや感動してしまうほどの締めくくりだ。
ゾンビ映画の定石に真正面から取り組みながら、独自性も盛り込み、展開と描写の上手さで唸らせる。大収穫といえる1本である。
【作りについて……ホーム・テリトリーの魅力を引き出す】
序盤、ソグとスアンがKTXに乗るまでがやや間延びしているようにも思えるものの、鑑賞後に振り返ると、決して省略できないパートだとわかる。また列車内のカメラワークは『スノーピアサー』の方がダイナミックだったかも知れないが、閉塞感・緊迫感・臨場感は負けていない。
カクカクジタバタする感染者、ワラワラと軍人ゾンビが襲来するシークエンス、感染者が集団で引きずられる場面での画角などにアニメっぽさを感じたのだが、案の定、監督はアニメ出身らしい。自分のホーム・テリトリーから上手くテクニックを引っ張ってきて魅力を作り出している。
怪力サンファのキャラクターもアニメっぽく、マ・ドンソクの実直でキッパリした芝居とも相まって、展開を動かす原動力となっている。ヨンソク役のキム・ウィソンも、もう見るからに小悪党というか、どこにでもいる保身主義者の体臭をプンプンと放って気持ち悪い(褒め言葉)。
アン・ソヒは、画像検索で見つかる妖艶で小悪魔チックな顔とは違って、懸命で子供っぽくて可愛いジニを好演。ソギョン役のチョン・ユミも、実力派の佇まいが場面を締める。スアンのキム・スアンも達者だ。KTXのキャビンアテンダント(ウー・ドゥイム)も、なにげに美人。
主人公たるソグは、やり手のファンドマネージャーという部分、パンデミック発生の遠因が自分にもあるかも知れないという“考えたくはないやりきれなさ”などが、やや掘り下げ不足。ただコン・ユの普通っぽさが、この作品の雰囲気にはハマっている。
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