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2018/03/09

KUBO/クボ 二本の弦の秘密

監督:トラヴィス・ナイト
声の出演:アート・パーキンソン/シャーリーズ・セロン/マシュー・マコノヒー /ルーニー・マーラ/ブレンダ・バッカロ/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/ジョージ・タケイ/メイリック・マーフィ/レイフ・ファインズ
日本語吹替版:矢島晶子/田中敦子/ピエール瀧/川栄李奈/羽佐間道夫/小林幸子

30点満点中18点=監3/話2/出5/芸4/技4

【あらすじ……父と母の想いを弦に込めて】
 三味線の音で自在に折紙を操る少年クボは、その特技で小銭を稼ぎながら隠れるように暮らしていた。が、父を殺した“月の帝”に見つかり、いま母親まで犠牲となってしまう。生き延びたクボは月の帝を倒すための旅に出る。探すべきは3つの武具、ともに歩むのはお守りが実体化したサルと、かつて父に仕えていたたクワガタ。彼らの道行きを“闇の姉妹”が追い詰めていく。
(2016年 アメリカ アニメ)

★★★ややネタバレを含みます★★★

【内容について……お子様向けシンプル&ゴッタ煮】
 ウィローだって桃太郎だって、世界を救う者は“流されてくる”のが世界共通の理(ことわり)。モーゼもまたナイル川で拾われていて、そのモーゼの『十戒』のごとく海を割って新天地へと辿り着く登場シーンから、早くもクボの運命は明確である。

 で、その後の展開は、まさに桃太郎(お供はサルと折紙とクワガタだ)だったり『ゴースト・ハンターズ』だったり『ヘンゼルとグレーテル』だったり。村人との交流~武具集め~最終決戦という流れはミッション・クリア型アクションRPGを思わせるし、音楽を武器にラスボスと戦うところなんか『MOTHER』じゃん。水中の目の化け物は『悪の華』か。

 恐れ知らずのゴチャ混ぜテイスト。でもストーリーそのものは複雑じゃなくて、むしろシンプル、ぶっちゃけお子様向け。登場人物は限られている(特にヴィランは闇の姉妹と月の帝だけだ)し、唐突なところもあるし、世界の広がり感には乏しいし。

 脚本クリス・バトラーのほか、大部分の主要スタッフが『コララインとボタンの魔女』や『パラノーマン ブライス・ホローの謎』と共通している。
 両作の感想を読み返してみると「幻惑のストーリー」とか「決定的な楽しさ・面白さには欠ける。世界の小ささや、幻惑の中に観客を引き込んだだけで満足してしまったのが原因」、「性急かつ強引で説得力やお話としてのまとまりに欠く」、「せっかくメッセージ性も高い作品なのにお子ちゃま向けのドタバタにとどまってしまった」……。今回にも当てはまる特徴だ。

 もう少し風呂敷を広げてもよかったし、闇の姉妹と月の帝の冷酷さや霊力の強さを印象づける具体的なエピソードも盛り込むべきだったよなぁ、と感じる。次々に送り込まれる刺客や罠を、クボたちが機転と特殊能力で乗り越えていく、というTVシリーズで見たかったところだ。

【作りについて……表現力の凄さと極上のキャスティング】
 クボが三味線を奏でるシーンの左手の指の動きに、なんかもう泣きそうになる。『コラライン』や『パラノーマン』は「ストップモーションの特徴であるカクカクとした挙動を意識的に採り入れてアクセントを作り、コマ単位でデフォルメされている気配もある」という作りだったけれど、今回は“なめらかさ”や“微妙な動き”に力を入れている印象だ。

 弓を射るクワガタやサルのダイナミックなアクション(格闘演出は『トロン:レガシー』などのアーロン・トニー)はスピーディだし、しかも俯瞰とかアップとかカメラを動かしながらとか、画面レイアウトもバリエーションに富んでいる。

 人物の表情はてっきりCG処理だろうと思っていたのだが、これもパーツを細かく取り替えながら撮影しているのだとか。パンフレットによれば「クボの表情は4800万通り」「サルは3000万通り」「1つのカットで使われた顔パーツは最大で408個」。
 気の遠くなるような作業だが、それだけの手間暇をかけただけのことはある。人形がここまでの感情表現を見せられるのかと畏怖すら抱かせる仕上がりだ

 いかにも“欧米から見た日本人”という人物たちの造形(目が細くて吊り上がっている)は、好みが分かれそう。でもまぁ欧米のクリエーターは東洋系だろうがアフリカ系だろうがアングロサクソンだろうが徹底してデフォルメするから、それほどナーバスになる必要はないのかも知れない。
 それに、全体的な美術や雰囲気作りなども含めて、単に日本っぽさを上っ面だけ撫でるのではなく、製作者たちなりの解釈で再構築しているイメージもある。

 サルの毛並のほか、紙、雪、岩、水、闇など、ありとあらゆるものの質感再現は極上。月やロウソクの灯りも鮮やかに表現し、霊力を宿したキャラクターの輪郭のボヤケなど見せかたの配慮がいちいち憎らしい。

 キャラクター・デザインのシャノン・ティンドル、アニメーション・ディレクターのブラッド・シフ、美術のネルソン・ロウリー、VFXのスティーヴ・エマーソンらは、いずれも『コラライン』や『パラノーマン』にも関わった面々。彼らの底力、面白さやリアリティ創出のために必要と思われることにはいっさい手を抜かないプロフェッショナリズムに脱帽である。

 サウンドトラック(音楽は『路上のソリスト』のダリオ・マリアネッリ)がまたよくって、洋楽風・クラシック風の楽曲にここまで三味線を馴染ませるとはお見事。音響効果(『シークレットウインドウ』のティム・チョウ)も場面のスピード感を増強する。

 字幕版の上映時間が極悪だったのでやむなく吹替版で鑑賞したのだが、これが大正解。字幕を目で追う必要がない=キャラクターの動きに集中できるのはもちろん、キャスティングが素晴らしい
 矢島晶子の、圧倒的なクボ感。しんのすけとも鴨川アスミとも違う芝居なのは当然として、クボが「過酷な運命に翻弄される不思議な少年」であることに疑念を抱かせないのだ。日本に矢島晶子がいることが、本当に幸せだと思う。

 田中敦子のサルは貫録たっぷり。これまた草薙素子と異なり、どこかしら母性を感じさせるのがさすが。羽佐間道夫による月の帝と小林幸子の老婆は、変に力を入れ過ぎず、自分たちがあくまでクボを引き立たせるキャラクターであることをわきまえている印象だ。

 クワガタは、まんまピエール瀧なのだけれど、この漢らしさと愛嬌の混じったキャラクターにピタリとハマる。最大の驚きは川栄李奈による闇の姉妹。音響効果とキャラ設定に助けられている面はあるものの、いやこれ純粋に上手いぞ。完璧な闇の姉妹感。「タレントや女優を安易に声優として起用する」ことに対する不平や異議を黙らせるのに十分な演技だ。

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