だれもがクジラを愛してる。
監督:ケン・クワピス
出演:ドリュー・バリモア/ジョン・クラシンスキー/クリステン・ベル/ジョン・ピンガヤック/アマウォーク・スウィーニー/ティム・ブレイク・ネルソン/ダーモット・マローニー/ヴィネッサ・ショウ/ケイシー・ベイカー/スティーヴン・ルート/ジェームズ・レグロス/ロブ・リグル/ミーヴ・ブレイク/テッド・ダンソン
30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4
【閉じ込められたクジラを助けるために】
1988年。冷気に覆われたアラスカ州バローでは、厳冬のため例年より早く海面が凍りつき、南洋を目指すはずのクジラ3頭が湾内に閉じ込められる。このままでは弱ってしまう。TVマン・アダムのリポートが全米に放映されると、一気に事態は動き始めた。クジラを狩って暮らすイヌピアット族やグリーンピース、この地で石油採掘を目論む事業者、さらには大統領官邸までがクジラの家族救出作戦を進めようとするのだが……。
(2012年 アメリカ/イギリス)
【出来事の周辺を丁寧に描く】
実話に基づくストーリー。クジラにグリーンピース、と聞くと、われわれ日本人の心には複雑な思いがよぎってしまうわけだが、本作は冷静だ。単なる美談に落とし込まず、また、ともすればヒステリックな描写になってしまいがちな環境問題についても、さまざまな立場の人たちについても、客観的に捉える。
たとえば、バローへ押し寄せる人に防寒用ダンボールを売る無邪気なネイサン少年や、いきなり宿泊費が高騰するホテルなど、ひとつの話題が小さな経済活動(ぶっちゃけていえば機に便乗しての金儲け)を生むという事実。世論を動かすためは視聴率のアップが必要だという真理あるいは欺瞞。クジラの救助活動を、あからさまにイメージアップのため利用する人々。
そこには批判精神も確かにあるけれど、むしろ「人の世って、そういうものだよね」と社会の原理を笑って受け入れる温かさや器量を感じる。イヌピアット族の価値観もまた護るべき文化として尊重する姿勢を見せ、その独自性を否定する狭量な勢力に「彼らには血しか見えない」と、鋭くモリを突き立てるのだ。
マグロウ役のテッド・ダンソンは、海洋環境問題の活動家(しかもかなりの過激派だったらしい)として有名なんだとか。そういう人物に石油開発業者を演じさせる皮肉もある。
そのうえで、どんな考えも嗤わずに、人の世を動かすのは結局は人そのもの、人と人との関係、自分の信念に従って自分にできることをやるという単純な行動原則だと、誠実に語る作品のように思える。偽善でもPR戦略でもなんでもいいから、まずは行動、なのだ。
展開は速い。でも作りは丁寧。1カットずつ時間をかけて撮っている雰囲気があるし、クジラのアニマトロニクスやVFXも見事。クジラの会話をベースにしたようなBGMも心地よい。
ドリュー・バリモアやジョン・クラシンスキーら出演陣は、ややコメディよりの芝居ながら、それが全体としての“軽さ”を保つ効果を担い、観やすくって考えさせる、いい映画へと昇華させている。
舞台は寒いけれど温かい、温かいけれど冷静。そんな不思議な仕上がりを見せる作品である。
●主なスタッフ
撮影/ジョン・ベイリー
編集/カーラ・シルヴァーマン
音楽/クリフ・エデルマン
以上は『そんな彼なら捨てちゃえば?』のスタッフ。
美術/ネルソン・コーツ『ザ・エッグ~ロマノフの秘宝を狙え~』
衣装/シェイ・カンリフ『ボーン・レガシー』
音響/ジェイソン・ジョージ『くもりときどきミートボール』
音楽監修/ニック・エンジェル『裏切りのサーカス』
SFX/ジャスティン・バッキンガム『アバター』
VFX/ジョン・ヘラー『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』
スタント/キース・アダムス『インベージョン』
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